アンソロジーに見た、秘められた日常の美談
With You~みつめていたい~コミックアンソロジー(1999 ©COCKTAIL SOFT / F&C co.,ltd./ブロッコリー)

この日はパソコンゲーム界の大注目作と評されているPiaキャロットへようこそ!!3の発売日と言うこともありどこかしか因果を感じてるが、同じF&C作品の中から、コミックアンソロジーの話題を取り上げたいと思った。
懐かしいと言うよりも、色あせない物語を放ち続けているWith You~みつめていたい~。作風のためか、賛否両論が激しかったのを覚えているが、私としては後発の『Canvas~セピア色のモチーフ~』と比べれば、ずっと傑作であると思っているわけだが、これはまぁ好みの問題であるといえましょうな。
とかく、不肖鷹嶺がギャルゲーに傾倒したきっかけとなった作品。振り返ってみるとなかなかどうして、ヒロインの真奈美編、菜織編ともどもに心深くとはいかずまでも、蒼い世代に寄せる懐かしさと後悔に心くすぐらせる気がしてならない。ひいき目と言われてしまいそうだが、結局ヒット作となりうる作品には、それ相応の要素があればこそだと思うのだ。ゆえに、二次創作も意外と気を遣う。アンソロジーに参加される同人諸作家の方々のご苦労を思えば、自分などまだまだひよっ子であると思わざるを得ない。
ギャルゲーにおいては絵柄はともかくとして、注視すべきはそのストーリー。絵柄よりもストーリーを重視している鷹嶺にとって、アンソロジーのSS作品に秘められた素晴らしい作品を、自己創作の糧に出来ればいいと考えている。

■With You~みつめていたい~コミックアンソロジー … ロングセラーを生み出すF&Cの作品の中でも、Canvas~セピア色のモチーフ~と双璧を成すと言える純恋愛作品のアンソロジー。諸作の中に、心打つストーリーが多かった

《おまえの作った料理の味がしたから》 ―――― 鈴挂ゆうま氏の「心のかくし味」
素朴な居心地……などと言えば、どのようなことなのかいささか疑問に思われるかも知れない。
心を飾らず、素直に、ありのままに……と言うことなのだが残念にも今の若人らは自分をそうあることを苦手とす、あるいは出来ない方が多いのではなかろうか。
妙に飾り付けられたきらびやかさ、美しさ。パソコンや携帯の活字だけでは到底かなわない、人間本来の真実、そして、幸福がそこにあると、僕は思う。
鈴挂ゆうま氏がアンソロジー第2話に載せた「心のかくし味」というストーリー。真奈美が主人公正樹のために弁当を拵えようとする。不器用な真奈美を見かねて菜織がそれを手伝う。菜織は自分が手伝ったことを内緒にするように言うが、その日の放課後、菜織を校門で待っていた正樹が真奈美の弁当を手伝っただろうと言った。慌てる菜織に正樹が照れながら言った言葉が名言たるにふさわしい。
「あの弁当…おまえの作った料理(もの)の味がしたから」
キザったらしいのか、果てさて正樹が素晴らしいのか。現実、そのようなことを言える状況にほとんど無かろうであるからこそ、素晴らしいと思う。何気に気づいてあげる。たったその一言が心を深くつかむきっかけになることを思えば、なるほど、人生出逢いとはひょんな事から始まる、まさに摩訶不思議なものであるなと思うわけだ。鷹嶺 昊、この言葉が無性に好きであり、かつ嫌でもある、玉虫色の感情があふれる言葉だ。
《嘘つきだよお前は》 ―――― 「嘘」における柴崎拓也
「嘘をつくとエンマ様に舌を抜かれる」などと子供の頃、曾祖母からよく聞かされたものであるが、恥ずかしながら私はこの言葉が好きである。
もちろん、エンマ様に本当に舌を抜かれるわけはないのだが、戒め・格言として知れば、昔の人はイイ言葉をたくさん残しているものだ。
しかし私たちは生身の人間だから、生まれて一度も嘘をついたことがないとは言い切れないはずである。私もそうである。格言通りに行けば、何枚舌を抜かれても足りないだろう。
かなん氏が描く「嘘」という作品には、兄を思う乃絵美の心情を切々と表しているのだが、彼女を抱きしめながら、何分憎まれ役として著名な柴崎拓也の吐露が実に共鳴させられた記憶がある。
「お前、俺のことを好きと言ったろう。オレをか? 違うだろう。
 嘘つきだよお前は」
とかく、恋愛というのは終始嘘のつきまくりであると私は考えるのだがどうだろうか。正直にぶつかることは難しいと言うよりも、正直になってしまったとき、恋愛は終わり、恋人は他人に戻るものではなかろうか。嘘の積み重ねで築き上げてゆく、愛の住処。キザったらしいと言うよりも、少しネガティブな考え方と言われてしまいそうであるな。

2001.11.30