理想の社会と人間関係、無い物ねだりのロマンチズム
~Piaキャロットへようこそ3 (©2001 F&C FC02)~

Pia☆キャロットへようこそ!!3 何か冷めた感じのタイトルであるが、コラム集ではPia☆キャロットへようこそ!!3についてのゲームレビューではなく、これに見た現実社会について、長々と蘊蓄を垂れてみようかと思っている。疲れたなら、隣のパッケージをご覧いただき、癒してもらいたい。ついでに18歳以上の未購入の方はこれを機に買ってみてはいかがだろうか。ただし、私の蘊蓄を聞いて買う気をなくさないでもらいたいね。18歳未満の人は社会人長くやってればこんなもんだよと、心の片隅にでも憶えておいてもらいたいと思っている。
さて、いきなり関係ないような話であるが、先日新聞であるアメリカの大学教授が、小泉純一郎首相について、「NATO」と評したという記事が載った。皆さんご存じだろうが、「NATO」とは「北大西洋条約機構」の略。
果てさて、小泉首相の評価は高いと言うことなのか……。その実、答えを聞いた時、ああなるほどと失笑してしまった。
「No Action Talk Only」……「お喋りだけで何も実行しない」。略して、「NATO」と言うことなのだ。このような状況下で、支持率80%近くを維持していた内閣は極めて珍しいとも。小泉内閣の評価は、言わずもがなである。
Piaキャロット3との関連は何か。それを語る前に、キーはこのNo Action Talk Onlyという言葉である。喋るばかりで実を伴わない。とかく、現実の社会。上司や同僚、口当たりの良いことや、大層ご立派な事をのたまう割には、自分は何もしない。そんなナトー人間が多いようであるが、社会人諸君よ、あなたの会社ではどうかな?
さて、このPia☆キャロット。いやはや実にオーナーから、店長代理・マネージャーと、とかく理想を絵に描いたような上司像で羨ましい限りである。こんな職場だったならば、いかに給料が安くても勤めてみたい気がする。「俺は嫌だ?」という声もちらほらと。不況不況で心癒されない日々よ、優しさに満ちた職場があっても良いではないか。……とは、結局無い物ねだりなのだよね。だから人気が高いのさ、Pia☆キャロは。
■Pia☆キャロットへようこそ!!32001年パソコン美少女界の有終の美を飾った期待作。1,2と絶大な人気を維持し、満を持しての3作目となった。どちらかというと、Kanon,AIR等に代表される万世一系のシリアスとは対極の、コミカル系に位置しながらも、人を惹きつける魅力は希少価値が高く、作品自体も依然、廃れていない。業界の怪物作品である。

《いくじなし……》 ―――― 神無月明彦、4号店ヘルプへ赴く

実のところは……と、お誂え向きなシチュエーション。鷹嶺が特にお気に入りの稲垣潤一さんの「言い出せなくて」という歌の場面そのままに、神無月は旅立つのだが、メインヒロイン・高井さやか、神無月ともども、まさしく言い出せなくて……。
オーソドックスな展開ながらも引き込まれるのは、やはり変に取り繕われない、ナチュラルさがあるからなのだろうかと思う。プロローグだけで、何というか優しさと美しさを見せてくれるF&Cの作品群は素晴らしいと思う。
まるで、永遠の別れのような雰囲気を醸し出す二人。結構、夏の歌は巷に多い。さながらそんな悲しいとまでは言わないまでも、ちょっぴりせつない感じのバラードがこれがまたよく似合う感じがするわけだ。私的にはこの物語全体の流れを見て、DEENの「いつか僕の腕の中で」が場面にいちばんよく合っているのではないかと思ったのだが、まあこれは私一個人の感情にすぎないだろう。
まあ、あまりバリバリベタベタの恋愛ドラマに終始するよりも、王道的で私個人としては好きである。
そんな王道的な場面の中で、電車で去っていった主人公の背中に向かって、「いくじなし…」と、高井さやかが呟いた言葉が、名言といえるかどうか分からないが、結構好きである。

■木ノ下泰男 … Piaキャロット・オーナー。全作において一族が関わってくる、総元締めであり、彼がいなけりゃ主人公のアバンチュールは無いに等しい。その経営手腕は、あの松下幸之助氏に匹敵するのではないかと私はにらむのだが……?
《なあなあで済ますわけにはいかなくて》 ―――― 岩倉夏姫の毅然たる公私分別

政治には決断力とリーダーシップが必要である。ただしナトーではいけないのだが。一般社会においても、上に立つものはかくあらなければならない。厳しいことを言うのは当然ながら、部下に認められる努力もせずにただ威張り散らすようでは語るに及ばない。私情を挟めてえこひいきや毛嫌いするのは以ての外の無能上司と言わざるを得ない。だが、残念なことにどこの社会、どこの会社でもそんな無能上司は一人必ず存在するものだろう。部下に慕われること、戦国の最強武将・武田信玄も「人は城 人は石垣 人は濠」と曰っているように、会社を支えているのは、従業員たちだろう。安易にリストラをする前に、上層部としての立場をわきまえてもらいたいものだ。
と、お堅い話はともかくとして、とかくこの岩倉夏姫という人はそんな上司像の一部なのではないだろうかと思ったのだ。徹底とした公私分別、私的に多大な悩みを抱えながら公的に強いリーダーシップを発揮する芯の強さよ。プライベートの時間に、仕事に遅刻した明彦に対して言った言葉を名言としよう。「立場上、なあなあで済ますわけにはいかなくて」本音は許したいけど、そうはいかない。実に身内に厳しいこの言葉、外務省の虫食いどもに吹き付けてやりたい言葉であるな。

■春彦 … とあるヒロインの弟。まるで昼ドラの女主人公思いの姉弟関係を演じてくれるわけだが、主人公が春彦によく似ているという展開になる。弟によく似ている主人公を恋人にできるわけだから、ある意味ブラコンかな…と。
《子供だと思っていたのに…》 ―――― 神無月志保の大いなる激励

Piaキャロット3をプレイされた方ならば語るまでもないが、主人公の姉・神無月志保は名言の宝庫である。4号店に派遣された弟を気遣って一泊二日で明彦の元を訪ねるのだが、明彦の胸にくすぶる苦悩をさすがに姉は見抜き、優しく力強い激励を与える。ひとつひとつが名言なので挙げるときりがない。やられていない方は是非本編をプレイされるべし、とまあ宣伝じみたことはおいておき、本当に志保の言葉にはマウスを操る私自身の心にも深く染み渡った。「傷つくことが恐いなら、何もしなければいい。そうすれば傷つかなくてすむ。空気のように……」(本編のセリフと若干違う)が、なんか胸に痛いんですよね。「思っているだけじゃ、何も伝わらない。人には言葉というものがある……」まるで金八先生のような志保語録。
そう、人には言葉というものがあった。近い将来、人は言葉ではなく、小さな画面に映った無機質な活字だけで相手に気持ちを伝えることになるのだろうか。携帯電話の普及に目を伏せる私に、志保の言葉はいちいち強く共鳴させられた。赤ん坊の明彦のおむつを替えてあげたこともあるという志保が、感慨深げに子供だと思っていたのに……と呟くこの言葉の中に、光陰矢のごとしという諺の意味を改めて知り、痛感させられるような気がした。ああ、木ノ下貴子さんではないが、歳は取りたくないものであるな。

■元木誠二今どき珍しい誠実無比な青年実業家として登場する。明彦と心打つやり取りを展開してくれるのだが、私的には彼が一番好きである。歳も近いという理由もあるかもしれぬ。

2001.12.9