ドラクエ4がプレイステーション版で発売されてから久しぶりにドラクエ熱が再発し、我が部屋に埋もれている宝箱を次々に開封してみると、実に懐かしい品が出てきたもの。そして、今更ながらドラクエマンガ……新山たかし、すずや那智、浅野りん、川本祐太郎などの作家が連名されている4コマ集を集めようと躍起になったが、これはすでに叶わぬ望みであった。実に悔しいものを感じつつ、はや時の流れというものを感じずにはいられなかったのも事実である。
このCDシアターシリーズも、今は再販されている話は聞かない。実惜しい話ではあるものの、今改めてこれを聞いてみると、声優陣の高レベルな演技に改めて酔いしれることが出来る。
主人公アレフを演じる関俊彦を始め、ヒロイン・ローラ姫を笠原弘子、アレフを育てた老師メルセラには野沢雅子、竜王には巨人の星の星一徹で有名な加藤精三を当てたまさしくアニメに劣らぬ豪華陣だった。そして当時、僕はこのCDで、影の騎士を演じられた若本規夫さんに憧れて、悪役声優を夢見た、恐れ知らずの学生だったのである。
■CDシアター・ドラゴンクエスト1 … 日本のRPG界王道を開拓した珠玉の名作ドラクエの原点をCDオーディオドラマ化したもの。関俊彦、笠原弘子、野沢雅子などそうそうたる大物声優がドラクエの世界観を大いに広げたと言える。 |
16歳、国王の御前での立志式。一般で言う成人式というものだが、ロールプレイングゲームの主人公というものは16歳から18歳という年齢設定が特に多く目立ったものが記憶に新しい。
まあ、今の社会と比べるのは根本からおかしいとは思うのだが、20歳の成人式で市長に向かって爆竹を放ったり、知事に対して帰れコールを巻き起こしたり、乱闘騒ぎを起こすなど、『荒れた成人式』という言葉がここ近年時期になるとワイドショーを騒がす。要するに、身体だけは一人前の二十歳と言うが、精神年齢は十歳そこそこの幼稚型という訳なのであろう。それを思えば、我が日本では江戸期まで、十二,三歳で髻を落として元服を迎え、中世欧州などでも同じように立志式を行っていたと聞く。それを思えば何ともはや情けない世になったものかと、天界の坂本龍馬は慟哭しているのかも知れぬぞ。
アレフガルドのラルス16世(槐柳二)御病の摂政として、立志式に臨んだ王女ローラ(笠原弘子)の前で、16歳アレフ(関俊彦)は堂々と宣言する「私の抱負は竜王を倒すことです。竜王を倒し、アレフガルドに平和をもたらすことが私の夢です」。廷臣の嘲笑を浴びながらも意志の強さを垣間見る。今どきの若者らしくはない、戦前戦中、若く有能な命を散らしていった英霊の魂を思い起こさせる見事な言葉ではないだろうか。因みに、当時の私はこの台詞を聞いた時、何故か恥ずかしくなったのを覚えている。
■アレフ … アレフという名前は、高屋敷英夫氏が著した『小説ドラゴンクエスト』で、主人公の名前を一般公募してこれが採用されたという経緯がある。しかし近年、某団体の弊害で一挙に忌み嫌われつつある名前となってしまったのは不運と言うより他がない。 |
三国志の劉備玄徳は、自分を常々漢の中山靖王の末裔であると公言して憚らなかったと言われている。真偽のほどは定かではないが、少なくともその言動はアレフと被る。ロトという勇者の末裔という証言は、旅中で実証されてゆくのだが、考えてみればこのアレフという主人公、いささか自慢げでありうーん、ちょっといけ好かないものがあるな。
マイラの村でミナ(富永みーな)という道具屋の娘がアレフの素性を信じなかったように、自称自慢してゆかねば渡り歩けなかったある意味で、旅の辛さを思わせる。
ともすれば今現在のRPG界ではまずあり得ないことだが、終始ひとり旅を成し遂げたアレフは、その偉業と併せて、素晴らしい精神力を持ち合わせていると言えよう。
行く先々で「ロトの血を引く勇者様」と賞讃されたアレフは、事実上先祖ロトを超えた存在だった。
2002年の3月31日、横浜市の神奈川県民ホールにおいてスターダンサーズ・バレエ団主催にドラゴンクエストのバレエがあるという話を聞いた時は、興味を示された人も数少なからずであっただろう。世界的舞踊家・演出家として知られる鈴木稔氏の振り付けで行われるこの公演を踏襲するのはドラゴンクエスト1の世界色が濃いものであろう。私は見ることが出来なかったので、鑑賞された人はいかが思われたことだろうか。
ドラゴンクエスト15年の歴史の中で初代のヒロインであるローラ姫の像は、『魔王に攫われた姫を、孤高の勇者が救い出し魔王を討つ』と言う、正統派の冒険活劇のヒロインとして主流をなし、ローラ像を根本に様々な時代のヒロインが生まれていったと言える。15年という長くも短い年月で、今どきこのローラ姫というキャラに触れてみれば、実に短絡的に映るかも知れぬが、何とも言えぬ奥の深さというものを感じずにいられない。
ドラゴンと影の騎士(若本規夫)を倒し、ローラ姫を救ったアレフがリムルダールの街でローラの気持ちを知り共に旅をすることになるのだが、虹の祠でガライ(永井一郎)の導きでラダトーム城への帰還を勧められる。ローラはあくまでアレフと共にいることを切望するが、アレフの叱咤と共にローラを呼び捨てにする。「初めてローラって呼んでくれたのね、アレフ……」今思えばこちらが赤面してしまいそうな名言を残し、ローラは涙ながらにアレフと別れる。
そして、アレフは悪の化身・竜王を倒し、ローラと共に新天地を目指し旅立って行く……。
嗚呼、幼少時の我がロープレ、そしてドラクエにはまっていった理由の一端、ここに見ると言うわけだ。
■ローラ … 『攫われた姫を勇者が助ける』というRPGの基本系に準じたヒロイン像。今こそ二転三転と凝りに凝ったRPGが多いが、ミュージカルやバレエ・オペラ等に、正統派ヒロインたるローラ像は息づいている。 |