冴えない少年が抱く不撓の大志と恋愛のポジビリティ
~いちご100%(©2002~2005 河下水希/集英社)~

2002年の春先から、2003年1月の始めまで買い続けていた週刊少年ジャンプは、不肖鷹嶺 昊にとってひとつの画期と言っても過言ではない漫画作品との出会いでもあった。始めは、この『いちご100%』というラブコメに触れたのがきっかけだったのだが、後になって、叶恭弘氏の『プリティフェイス』にも出会った、いわば思い出深くて、良い運命の巡り合わせだったのだろうかと思った訳なのである。なぜ買うのをやめたかというと残念なのは、この二つの作品も含めて、実にマンネリ化した連載作品に飽きていたというのもある。後半は買っても、ほとんど読まない状態が続いていたので、思い切ってすぱっと切ったという訳なのである。
まぁ、一部の人間にもいるように、週刊マンガ雑誌は買わずとも、単行本が出たら買って読むか。…と、まあ私的には、そういうタイプの作品となったとでも言いましょうかね。
いちご100%は前作・りりむキッスの河下水希氏の作であると同時に、少女マンガ作家・桃栗みかん氏と同一人物による、ボサノバチックなラブ・コメディである。楽曲にたとえるならば、バラードなどと言うのは絶対に似合わない。かといって平井堅やケミストリーのようなR&Bもやや違和感ありげなりかなと言ったところで、モー娘。とまでは言わずとも、松浦亜弥あたりなどの楽曲をイメージするなぁ。とにかく、この真中という主人公を巡って、複数の美少女が絡んでくるのですけど、ええ…連載前半部の頃のノリはすごく良かったですね。勿論、今もジャンプでの連載は読んでませんけど、面白いんだと確信したいんですけどね(笑)
最初は東城綾、西野つかさという二人の女の子が覇権を競い、やがて北大路さつきが新興勢力として出てくる。なかなか、上手くさばいているではないですかと、私は一人感心していたものでしたよ。
■いちご100%生まれてから一度も週刊少年ジャンプは購入していなかったのだが、2002年会社で見たジャンプに連載されていた当作品をきっかけに買い始めた、思い出深い作品でもある。

《 ブスじゃねーよ 》――――東城綾、何故か真中の夢に惹かれる

はっきり言って、この主人公・真中淳平という少年はアホであります(笑) なんて言いますかね、そこら辺のお笑い芸人よりも面白いキャラクタだ。まったく真剣な表情が似合わぬと言うか、常にワンオクターブ上がっている言動素行が失笑を誘うのだろうな。しかしね、このいちご100%は、東城でもつかさでも、ましてさつきでも唯でもない、真中淳平という、冴えないいち志学男子が極めて良い味を出しているのではないか。
ええ、この男、芯の芯はずいぶんとしっかりしている。映画を作りたい。多くの新生映画監督が世に出て名声を上げるために日夜努力していようとも、さて果て真中ほどに絶世の美少女たちから好意を寄せ寄せられる者はそうそうとはいまい。その分真中は極めて夢への道は、バスラからバグダッドへの道ほどには及ぶまいて、さぁさぁ、日本はイスラム教世界じゃない。一夫多妻なら良かったのにと妄想ならば真中に負けぬと自慢にもならないことをたらたらと述べながら、少年よ、大いに悩めと。
まぁ、そんな彼の大器の片鱗を見出したのは、ジミで精彩の上がらないメガネ娘・東城綾の描いた小説を目の当たりにして感銘を受けたとき。彼女をただけなす男子に公然と「東城はブスじゃねーよ。中身だよ中身」と言い放つ。ごく普通のこと。だけどね、今の世の中、大人も若人も、人の本質を見出す能力が下がっているよね。だからね、真中の言葉は、心に響くわけ。画面の前の君、わかるかい?

■真中淳平これほどまでにシリアスな顔が似合わない男も珍しい。東城綾・西野つかさ・北大路さつき・南戸唯など、美少女たちから想いを寄せられるという世界七大摩訶不思議のひとつ。
《 カッコ悪いな… 》―――― 西野と真中、未練残る再会と絆

西野つかさはメインヒロイン格にあっては特異な存在だなぁと思ったのは、何を言わそうか初めて登場したときからである。彼女はおそらくなりともこの『いちご100%』という舞台において異彩放っているなと感じた直感を、私は信じた。正しく、主演女優・東城綾と対抗を張っている、大方出番は稀少なはずなのに見事なほどに真中や読者の心を捉えているではないか。いやはや、恐れ入った。
ああ勘違いはせずいてもらいたい。西野はビジュアル的にはまこと良い。個人的に言わせてもらえば、私自身内向的な性格ゆえに、東城の方が性に合いそうなんだが、西野に主導してもらうというのも良い感じである。と、まぁそれはよいとして、西野は実にポジティブな思考を持ちつつも、恋愛にかけては無器用な一面を覗かせるギャップが彼女の魅力を更に醸し出していると言えるのだろう。別々の進路を歩む決意は実に健気な中にも、彼女自身が持つ一貫した信念に共感を覚え、同時に今は失われつつある心を垣間見ることが出来るわけなのだが、あぁなんかもったいないかも知れないねと。ええ、そりゃ相手が真中じゃぁねぇ・・・とか思ったりしましたけど。ま、主人公ですから良しとしましょうか。
自分で言うのもなんだけど、外村的な私から言わせてもこんないい女が真中と再会するまで彼との絆をつなぎ続けていたことは実に惜しまれる。直向きに頑張る西野の姿を見た、真中淳平は「なんだか俺、すげえカッコ悪いな…」と吐露する。その姿に西野は真中との絆を断ち切れなかった。何故に!? と、叫んだのは私だけだろうかね(笑)
いずれにしても、西野の可愛さは、見た目やネームに記されているだけの性格だけではないんだろうな。

■西野つかさ言うなれば青空のイメージを思わせ、真中の告白を受け成り行きでつき合うことになるが、やがてほだされてゆく。出番は少ない当物語の枢軸の一人。真中が羨ましい(笑)
《 いつものあたしに戻っているから 》 ―――― 抑えられぬ想いと共に

断っておくが、多分このコラムを書いている頃はバリバリに『いちご100%』は連載中な筈である。しかもかなりに人気が高い作品であるはずである。ジャンプ随一の恋愛系作品。三十路に近い私から言わせれば、超青臭くて実に陳腐極まりないストーリーなのであるのだが、そこがまた良いのである。セリフもおうおうとして読んでいるこっちが恥ずかしくなるよ……という部分も随所にあるね。ええ、主人公真中は別としましょう。あれは三枚目のキャラですから実に自分に重なる(笑)
いやはやそれにしてもどうだろう。本当に考えて見りゃ、なんであんな真中なんかにこれほど可愛いくて、健気なおなごがほれちまうんかいな?? 読んでて毎回そう思ってしまう訳よね。本当、コラムで書いてても何度も言うけど、本当に不思議なんだよね。
高校編に突入したストーリーで登場する北大路さつきという少女。私は好きである。今どきこの様な、どこまでもひたむきで、どこまでも真っ直ぐな風を思わせる人間(女・男は別として)はいなくなったよなぁ。なんかさ、さつきってどことなく倭国の倭人なり~(by 海援隊)って感じがするのよ。お前は海を越えていった、時には舵を握り、時には拳で海を漕いで・・・。なんてね、そんな力強さ、我ら日本人の古き本来の心の強さを見るようなのね。なんて言っても、きっと若い人たちにはわからんだろうなぁ・・・(笑)
そんなこんなで、その強いさつきが見せた弱さの場面がある。「…明日 朝起きたらまたいつものあたしに戻ってるから…嫌な思いさせちゃってごめんね…」 朦朧とする意識の中で吐露するさつきを抱きしめる真中。いいね! こういうシチュエーションだよ旦那!(誰?) いつものあたし…。その言葉の中に、彼女の本当の思いがあることに気づけよ、若土よ(笑)

■北大路さつきいわば夏の風を思わせ、そのどこまでも真っ直ぐな性格は、実に憧れすら抱かせる。ひょんな事から真中に純情な想いを寄せるのだが、あと一歩引いている観がある。
Wednesday, 09 April, 2003