廃れぬ羨望の輝きに在り続ける男の美学
~ガード・ドッグ(©1993~1996 浅倉涼&くつぎけんいち/集英社)~

漫画家・くつぎけんいち氏と言って、二十代以上の皆さんは真っ先に思い浮かぶことがあると思う。そして、知る人ぞ知るか。ご存知ない方のために、付け加えておこう。近年、CGアイドルとして一躍脚光を浴びた、『テライユキ』。多分、一度は聞いたことがある名前だろうと思うのだが…。と、まぁ彼女の生みの親こそがくつぎけんいち氏。彼の描く人間は非常に美麗であり、2Dながら、まるで3Dのようなリアル感があふれていた。
今から思えば、くつぎ氏の作品は、バーチャル世界への基礎だったのだろうかと思える。
1997年、石長直輝(いわながなおき:当時PN)の自宅新築移転に伴ってそれまでためていた漫画の多くは処分された。狭い新築部屋には入りきれない数量だったからである。だが、手元に残った作品群の中に、ガード・ドッグは在った。実のところ、当作品は3年にわたる連載で全10巻に及んだのだが、私の手元には8巻までしかない。8巻刊行当時は1995年。この年は、公私ともに、自分にとって大きな画期となった年であった。多分、買いたくても買えない事情があったのだろう。今になってようやく、古物書として手に入れることが出来た。実に10年来の、豪徳寺との再会である。そして何よりも面白いのね。やっぱり。
1993年か。何をしていただろうか・・・。私は、18歳・・・だったような気がする。ドラクエ5にはまってたっけ? それを除いても、何となく私はひとりで走りつづけていた気がする、休む間もないままに、何を目指していたのかは分からないままに。立ち止まっていれば、きっと豪徳寺の良さが、もっと良くわかることが出来ただろうかなぁ。
■ガード・ドッグ週刊ヤングジャンプ連載。1993年当時は、高校生の分際で何故か金持ちだった。マンガも腐るほど買っていた気がする。内容じゃなく絵柄だけで買ったものも多く、ガード・ドッグもそのひとつ。1992年のメガヒット映画・『ボディーガード』の流れを引いた作品。

《 敵にまわして戦ってやる 》――――豪徳寺光、筋を通した男の信念

時代の流れというのは本当に早いものだなぁとつくづく実感する今日この頃なんですが、このガード・ドッグ、特に主人公・豪徳寺光のキャラクタは今見ても斬新です。バブルによる好景気が崩れて、暗澹たる道を歩み始めた当時の日本。バブル経済によって成り上がり、形だけ光り輝いていた人々のプライドや価値観が喪失し、大切な何かを無くしてしまった時代に、彼は颯爽と現れたと言える。まぁ、当時は私も青臭くも青臭い、世間知らずのガキだったんで彼の良さは本当の意味で理解できなかっただろうね。
ガード・ドッグ、豪徳寺光の姿を見てからもう10年。10年は長いぞう? 簡単に言うけどね、10年は長いって。色々なことがあったよなぁ、本当に。当時27,8くらいの彼も、今やもう37? 想像すると何ともはや・・・。そりゃ自分も老けるわけだよな。
閑話休題。豪徳寺の良いところ、無器用な格好良さとでも言おうか。全編を通じて言えると思うが、私的観点からすれば、桐島弓子編の彼が一番好き。無器用ながらも一途に桐島護衛の人を全うしようとする豪徳寺。しかし、誤解が重なってとことん嫌われてしまう。しかし、殺人事件の嫌疑をかけられた彼女が、豪徳寺すら拒絶して沈鬱になったときの彼の台詞は格好いい。「桐島さんが嫌でも関係ねェー!! 嫌われようが殴られようが体張って最後まで桐島さんを守る!! むろん…殺人犯になんかさせやしない…万が一にもそんなことになったら…警察だって敵にまわして戦ってやる……」 美しい女性のさり気ない色気にすらも昏倒してしまう、豪徳寺のような男だからこそにわかに説得力があるのかも知れぬな。

■豪徳寺 光本職はヤクザ。だが実に純粋で頼りがいがあるボディーガード。多くの美女を命を張って守り、頑なな心も融かす男の鑑! 当時、ただのがきんちょだった私は憧れました、彼に(笑)
《 命をかけてもいいほど素晴らしい女 》 ――――桐島弓子、秘められた胸中

何か時代を感じるのは、物語全体に『携帯電話』が殆ど存在しないこと。一度見かけたな。茶筒のようなでかい携帯電話(笑) 桐島さんのような弁護士ならば、今ですら頻繁に鳴り、ていうか必需品だろ? ここでは電話ボックスで連絡を取る、固定型電話。多分、この時代ってポケベルが普及し始めた頃だろう。それだけでもあな、一昔前なりけり。
それはともかくとして、今から思えば桐島さん一筋10年(笑) て言うか、彼女がいたからこそガード・ドッグは古本屋に売らずにすんだかも。彼女のビジュアルもさることながら、やっぱり性格なんでしょうね。気は強くて美人なんだけど、実はすごく寂しがり屋で怖がり屋である。実は婚約者がいて今は米国に居て殆ど逢っていないどころか連絡すらないなんてベタベタなオチですが、桐島さんだからこそ冷笑にならない。逆に豪徳寺が光って見えるから不思議なんだよね(シャレじゃない)。
何となくだけど、今豪徳寺と同じくらいの年齢になって見てよくわかる気がするのよね。彼が桐島さんのことを「命をかけてもいいほど素晴らしい女(ひと)」といった気持ちって言うか。改めて読んでみると、自分でもそう思うよ。ああ、まぁね、私が豪徳寺ほどに男らしい男であったらな(笑)
そして、最近ってよく男軟弱だって言われるでしょう。まぁ、確かにそうだと思うけど。このガード・ドッグに代表されるように、あの頃って不況への道を転がり落ちてゆく前に、日本人に対して、働く男たちに、『男らしさ』の真意をただした最後の機会だったのかなぁと思うわけ。そして、桐島さんはあの後どうなったのだろう・・・。豪徳寺の言うままに婚約者と結ばれたのでしょうか。そうだとしたら、むちゃくちゃ豪徳寺が格好いいじゃない。10年後、その後のガード・ドッグ、くつぎ先生、描いてみませんか(笑)

■桐島 弓子第22話から36話のヒロイン。豪徳寺の高校の同級生で弁護士。鷹嶺 昊としてはガード・ドッグのヒロインの中で特級。当時はまだ珍しかった女性弁護士誕生にまつわる話だったことに、時代を感じる。
Thursday, May 15, 2003