今から振り返れば、2002年はマンガにはまった年であったと言っても過言ではない。まさか鷹嶺自身、『風街通喫茶店』と銘打つ、プリティフェイスの支援サイトを持つようになったのは、今から思えば実に不思議であるのだ。それまで、週刊少年ジャンプなど微塵も興味なく買っていなかったこの私が、『いちご100%』から始まって、この『プリティフェイス』の予告からインスパイアされたことは、やっぱり俺って萌えキャラ好きのロジックを持っているんだなと思う訳なんです。 『風街通喫茶店』なんて、実に長閑な名前を付けたものだなと思う。いやはや、このプリティフェイスのストーリーと比べれば、120度も違うんだけどね。『風街通喫茶店』。この風街も、当時私が好きだった、リバイバルソングの「風をあつめて」からイメージしただけのもの。好きになった漫画は取りあえずサイト開いてみよう。結構、その後自分の本職(空色亭・小説)をそっちのけにしてしまうことにもなるんだけどね。 好きだったなぁ(過去形)。中盤以降、何となく私が提唱していた危機感が払拭できずに支援を断念してしまったんだけど、それでもそれから半年以上続いたんだから終わりよければすべてよしと言うことになるんでしょうね。ま、連載終了したと聞いたのは、実際に最終回を迎えたと思われる号から、2週間以上経ってからだったんですけれど。とにもかくにも、プリティフェイスに寄せる思いというのは、僕の中ではその名の通り「休む間もなく全速力で駆け抜けていった」のでした。 |
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■プリティ フェイス … 週刊ヤングジャンプ連載。2002年の初夏に連載が始まり、危機説も囁かれながら1年強続いた。作者の叶恭弘氏にとっては、コメディ初挑戦としていた。 |
プリティフェイスの醍醐味はやはり主人公、栗見由奈こと乱堂政であろうか。何となく新連載予告の美少女キャラクタのイメージはそしてまさに裏切られることはなく、強烈なインパクトを、私にも分け与えてくれたのだ。ジャンプ読むかゴラァ! などと、実際叫んでいるわけではないが、何となくその時、プリティフェイスの世界からのシンパシーを感じた自分がいたのは事実であるだろう。
ちなみに、このコラムは最終回近辺を知らないで書いている。最終回を知ってしまえばまた別の思惑が浮かんできそうなので、始まりの頃の思いを忘れないうちにと、勝手な解釈を持って綴っている。ご了承願いたい。
閑話休題。
『風街通喫茶店』を閉じて、ジャンプ購読を脱退し8ヶ月余が過ぎて思うのは、やっぱり全話を通じて一番輝かしいのは何はともあれ第1回であろうかね。この時の主人公乱堂はすごく優しさにあふれていて美少女フリークを震撼させた名言を残す。不安に怯える妹・理奈をひしと抱きしめて「私ずっとそばにいるから。消えたりしないから。理奈のためにいつまでもいっしょにいるよ」これはもう良いでしょう。変に繕われない、素直な気持ちの言葉に違いありません。
■栗見 由奈 … 正体は乱堂政という天下無敵の武闘少年。その破天荒な性格と、身体を張ったボケと突っ込みとは対照的に、心底から愛する人を守る強さを秘めた魅力は、アンドロギュヌスに匹敵する。 |
ヒロインという存在は往々にして多々あるものなりな訳だが、プリティフェイスの物語が始まってメインヒロインである栗見理奈のキャラクタには、何とまた自説・80年代後半から90年代初頭に主流となった心底理想のヒロイン像があって、これもまた“おじさん”の心を捉えて止まなかったと言っても過言ではない。
率直にカワイイというだけでは決してなかったということが、今思えば栗見理奈にはある。食に喩えるならば、ワサビと言うよりも、カラシのような存在。見た瞬間は非常に愛するべきキャラクタに違いはなかれども、時間を経ってみれば、ああ、こんなヤツがいるからこそプリティフェイスは面白かったんじゃないかと。必ずしも目立っているようで、脇役の重要な食材・カラシ的理奈。喩えが悪いなんて言わないで下さい(笑)
しかし、何と言っても死亡を伝えられた好きな人をいつまでも想いつづけていられることは素晴らしいじゃないですか。今の時代なんて、毎日のように、あたりまえのごとく簡単に人は死んでいっているんですからね。世の中の若い子達が理奈であったら、どんなに良かったでしょうね。と、まあそれは良いとして、理奈にもさり気ない名言は結構あるんですが、今回はあえて「乱堂先輩」。センパイ・・・うーん、カワイイ女の子に一度言われてみたいと思いません?(私はもう一生無理ですが)
■栗見 理奈 … プリティフェイスのヒロイン。乱堂が思いを寄せている少女で、蓋を開ければ相思相愛の仲だった。物語の中心的役割を果たすのは全体の後半という、不思議な存在。 |
《私の一番目のお客さん》 ―――― 小樽での追憶
私が事実上、プリティフェイス支援の終息となった、物語小樽での場面は、ある意味感慨深いものがある。BLACK
CITYに主流を見る叶恭弘氏のシリアス路線の色合いを滲ませながら展開する小樽編はストーリーとして最高傑作の1つになるであろう。
升子美和での話が未遂に終わったことはショックであったことは隠しきれなかったのだが、それをカヴァーするには小樽編でも十分であったのではないだろうか。乱堂の正体云々という物語の基盤を語るよりも、第1回後半のあの名場面を彷彿とさせるような、理奈の追憶なのであろう。このストーリーではただ単に乱堂の思いと理奈の一途さを前面に出しただけにとどまらずに、今やベタでもあるとも言うべき「絆」の根底を痛烈に表現した、読んでいて正しくノスタルジックに涙を誘うものになっている。風街通喫茶店は終焉となったのだが、INN
nostalgiaとしての完全に支持しつづけられる物語、十年後の未来もきっと支持できる物語は、特段第一回と、この小樽編であろう。そして、栗見姉妹の追憶の場面、「もー最初にカットする人は決まってるんだ、ずっと前から約束しててね、妹の理奈が私の一番目のお客さん!!!」出番の極少な栗見由奈の最も妹想いを感じさせる言葉のひとつではないだろうか。
■升子 美和 … 栗見姉妹の従姉で、高校教師。物語としては、一番初めに乱堂の正体を知るきっかけとなったはずのキャラなのだが、未遂に終わっている。これが、私的にこの作品支援終息の発端となった。 |