派閥色が強まる長命アンソロジー、古参重鎮脱退に象徴する衰廃

~ドラゴンクエスト4コママンガ劇場シリーズ (4) ©1990~ (スクウェアエニックス/旧エニックス)~

ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 14 ―――― SFC版IIIの登場による構想範囲の拡充

▼1996年12月6日、リメイクされたSFC版ドラゴンクエスト3発売後のドラクエ4コママンガ劇場。性格システムの導入によってキャラクタに格段に個性がつき、同人などの創作活動も大幅に飛躍した。そのためこの第14巻以降、IIIに関連するネタ・ビジュアルは全てSFC版に準じている。また、公式ビジュアルが変更され、盗賊職の追加により、元々厚い支持基盤を要していたIIIに復権の兆しが見え始め、以後20巻に至るまで随所にIIIネタの占める割合が増えたと言える。また、それまでほとんど陽の目を見ることがなかった女勇者ネタが大躍進することになった。
第14巻では、一定の支持者を保ち現在に至る神崎りゅう子氏が初見。野原すずかけ氏らと共に、近年の新規参入作家の中では女性陣の大活躍が特に目を引く。エニックス党執行部・坂本、金田一氏ら客員参加を除けば、上位掲載陣は全て女性作家によって占められていることに注視しておこう。ただ、この頃から幾分、保坂氏ら編集部内に軋轢らしきものが発生しつつあったのかも知れないと見るのは間違いだろうか。牧野博幸氏がこの巻をもって、事実上の離党を表明している。

第14巻連名

  • 牧野 博幸
  • 新山 たかし
  • 魔神 ぐり子
  • 幸宮 チノ
  • 浅村 イオン
  • 山崎 渉
  • 神崎 りゅう子
  • 白鳥 ハト
  • 野原 すずかけ
  • 小椋 みき
  • ちるみる
  • 池野 カエル
  • 越後屋 サイバン
  • ふじい たかし
  • 金田一 蓮十郎
  • 坂本 太郎
  • 村上 ゆみ子
推定党役職
  • 永世代表 栗本 和博
  • 特別顧問 田村 きいろ
  • 代表 新山 たかし
  • 代表代行 越後屋 サイバン
  • 副代表 ふじい たかし
  • 幹事長 牧野 博幸
  • 広報会長 村上 ゆみ子
  • 懇親会長 池野 カエル
  • 幹事長代理 幸宮 チノ
  • 筆頭副幹事長 白鳥 ハト
  • 組織委員長 小椋 みき
  • 読対委員長 神崎 りゅう子
  • 読対副委員長 野原 すずかけ
  • 女性室長 魔神 ぐり子
■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第14巻 『酒鬼薔薇』で有名な神戸小学生殺傷事件、「たまごっち」、「タイタニック」、「もののけ姫」などが話題をさらった1997年4月24日初版。神崎りゅう子氏の参入によって、ドラクエ4コママンガ劇場に一定の奮起材料となったと見る。牧野幹事長と山崎氏とのしのぎを削るネタ合戦も見物だったが、牧野氏は事実上、この巻を持って離党する。

ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 15 ――― 神田氏参入と、新山氏と編集部の確執

▼1997年は様々な意味で転換の時代であったと言える。少年凶悪犯罪の象徴的事件であった、神戸小学生殺傷事件。ダイアナ元英皇太子妃事故死、香港返還、最大野党・新進党解党など、時代の分岐点を感じさせる年であった。
ドラクエ4コママンガ劇場も、15巻目を迎えて転換期を迎えることになる。まずは衛藤ヒロユキ・石田和明両氏らの離党後のエニックス党を良く支えてきた幹事長格の牧野博幸氏が離党。重鎮・新山たかし氏も、子供好き、親しみやすい絵柄とネタを引っ提げた神田達志氏の参入によってネタの格差を指摘されたのか急速に勢力を落としてゆくことになる。楽屋裏で新山色を苛烈なまでに封じられてきた編集部への不満が、徐々に蓄積されてきている旨を窺わせるものであった。プチ侍氏らが参入するが徐々に執筆陣の間でも派閥色がにじみ出てきたと言ってもあながち間違いではなかった。総括的に見れば、ガンガン編等で勢力の拡大に成功した山崎氏の躍進に拍車を駆けることになる。

第15巻連名

  • 新山 たかし
  • 池野 カエル
  • 浅村 イオン
  • ちるみる
  • 白鳥 ハト
  • 山崎 渉
  • 村上 ゆみ子
  • 白井 寛
  • ふじい たかし
  • 栗本 和博
  • 神崎 りゅう子
  • 越後屋 サイバン
  • 神田 達志
  • 小椋 みき
  • 野原 すずかけ
  • プチ侍
  • 魔神 ぐり子
  • 梶原 あや
  • 牧野 博幸
推定党役職
  • 永世代表 栗本 和博
  • 特別顧問 田村 きいろ
  • 代表 新山 たかし
  • 代表代行 越後屋 サイバン
  • 副代表 ふじい たかし
  • 幹事長 村上 ゆみ子
  • 広報会長 幸宮 チノ
  • 懇親会長 池野 カエル
  • 幹事長代理 神田 達志
  • 筆頭副幹事長 白鳥 ハト
  • 組織委員長 小椋 みき
  • 読対委員長 神崎 りゅう子
  • 読対副委員長 野原 すずかけ
  • 女性室長 魔神 ぐり子
■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第15巻 1997年9月19日初版。この頃からドラクエ4コママンガ劇場は転換期を迎える。幹事長格であった牧野博幸氏が離党を決め、新進気鋭の神田達志氏らが参入。牧野氏の離党によってドラクエ4コママンガ劇場はより一層、同人色を強めてゆく。その大本にいわゆる“萌え”系の端緒がゲーム界全体に浸透しつつあったと言えよう。

ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 16 ――― 幸宮氏離党。執筆陣の派閥色が顕著となる

▼牧野氏離党後、結果としてエニックス党最後の幹事長格は村上ゆみ子氏となる。幸宮チノ氏は既にギャグ王において天空物語の構想・連載枠を確保しつつあり、離党は避けられない状況となる。
牧野氏の存在でドラクエ4コママンガ劇場の向くスタンスが一定に保たれていたのだが、牧野氏が抜けたこの16巻からは安定期とはいえ以前のように押しの強いネタは下火となり、執筆陣それぞれの世界観が顕著となり、作家同士が友人・知人と公言するなど一種の派閥色が際立つようになってきた。

第16巻連名

  • 村上 ゆみ子
  • 白井 寛
  • 幸宮 チノ
  • 小椋 みき
  • 新山 たかし
  • 神田 達志
  • 山崎 渉
  • 越後屋 サイバン
  • 神崎 りゅう子
  • 野原 すずかけ
  • 池野 カエル
  • 白鳥 ハト
  • ふじい たかし
  • 川﨑 ゆうり
  • プチ侍
  • 藤田 佳子
  • 栗本 和博
推定党役職
  • 永世代表 栗本 和博
  • 特別顧問 田村 きいろ
  • 代表 新山 たかし
  • 代表代行 越後屋 サイバン
  • 副代表 ふじい たかし
  • 幹事長 村上 ゆみ子
  • 広報会長 幸宮 チノ
  • 懇親会長 池野 カエル
  • 幹事長代理 神田 達志
  • 筆頭副幹事長 白鳥 ハト
  • 組織委員長 小椋 みき
  • 読対委員長 白井 寛
  • 読対副委員長 野原 すずかけ
  • 女性室長 神崎 りゅう子
■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第16巻 1998年3月6日初版。同人色の強くなる傾向にあって、川﨑ゆうり氏の初見は目を引くも、同時に復党した藤田佳子氏を始めとして、男性執筆陣も一グループを形成する色合いが強くなった。重鎮となった幸宮チノ氏は、ギャグ王にて天空物語の連載が始まり、最終的に離党に向けた手続きに入ることになる。

ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 17――――結城氏入党、山崎氏の権威拡大傾向

▼幸宮チノ氏の離党によって穴が空いた部分を埋める事になる新進気鋭の作家・結城まさのへ氏は、全体的に萌え系統色を滲ませる絵柄に加え、ドラクエ5の王女をシビアな性格に描くという独自色で表現し固定支持層を獲得するに至る。登場が第17巻と遅いが、結城氏の存在感は大全集からドラクエ5・4コママンガ劇場でも遺憾なく発揮されることになる。エニックス党解党後のスクエニ系作家の中で、後出の天空宇宙流氏との両翼を担う作家に成長することになった。
その一方で、鳥山明系の絵柄で躍進、エニックス党内で強い権力を握るようになってきた山崎渉氏だが、徐々に色気路線へ向けた独裁的な様相を滲み出し、ガンガン編やギャグ王での一極支配的存在感に対し過信傾向にあることに党内の信望にわずかながら揺らぎが見え始めてきたと言える。

第17巻連名

  • 村上 ゆみ子
  • 浅村 イオン
  • 池野 カエル
  • 新山 たかし
  • 小椋 みき
  • 神田 達志
  • 山崎 渉
  • 越後屋 サイバン
  • 神崎 りゅう子
  • プチ侍
  • 藤田 佳子
  • あずき・まめお
  • 結城 まさのへ
  • なかがわ はてな
  • 川﨑 ゆうり
  • うずら野 浩二
  • 白井 寛
  • 坂本 太郎
  • 栗本 和博
  • ふじい たかし
推定党役職
  • 永世代表 栗本 和博
  • 特別顧問 田村 きいろ
  • 代表 新山 たかし
  • 代表代行 越後屋 サイバン
  • 副代表 ふじい たかし
  • 幹事長 村上 ゆみ子
  • 広報会長 山崎 渉
  • 懇親会長 池野 カエル
  • 幹事長代理 神田 達志
  • 筆頭副幹事長 浅村 イオン
  • 組織委員長 小椋 みき
  • 読対委員長 白井 寛
  • 読対副委員長 なかがわ はてな
  •   〃    うずら野 浩二
  • 女性室長 神崎 りゅう子
■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第17巻 1998年10月2日初版。ドラクエ5の王女ネタで、新人ながら支持躍進を遂げた結城まさのへ氏初見の回。ただ前回同様に結城氏参画により女性陣の派閥結成傾向はますますその色を強くし、代表格の新山たかし氏の孤立感は強く、ついに離党は避けられない状況となる。

ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 18――――天空宇宙流氏参画、新山氏無念の離党

▼PlayStationへの移籍に立つエニックス・ドラゴンクエスト7に連動して、1991年の結党以来数多くの作家を輩出してきたドラクエ4コママンガ劇場(エニックス党)も、解党への蠢動が徐々に始まりつつあった。栗本和博永世代表と並び、ドラクエ4コママンガ劇場の屋台骨を支えてきた新山たかし氏の離党は、その顕著な傾向であると考える。10巻前後で世代交代を果たし、古参のファン層を繋ぎ止めていた栗本氏と新山氏の双翼は1988年以来の付き合いである鷹嶺を始めとする諸氏にとって別格的な存在感を有していた。
しかし新山氏は元来の指向とは著しく乖離したドラクエ4コママンガに対して度重なる編集部との軋轢・確執に悩まされ、ボツネームを自身の同人サークルなどで特集を組んだとされている。離党の機会は絶えずあったが、この時期になって離党を決断した理由は、編集部の方に未練があったと思われ、都度機会を逸してきたが我慢の限界を超えた新山氏が最終的にエニックス党の離党と今後の復党もあり得ないという認識を示したものと思われる。第10巻、約4年ぶりに復党した田村きいろ氏は新山氏離党の後任として招聘された向きが強く、田村氏は以後も大全集・VII4コマ・V4コマ等で活躍の場を見せることになる。
エニックス党が解党に向けた動きの中で、萌え系の新鋭・天空宇宙流氏が満を持して入党参画する。以後、天空・神田・神崎・結城と、若手作家の台頭と地位確立がエニックス党派からスクエニ系作家陣の大原動力となって行く。新山氏離党は名実共に90年代の画期となったのだ。
一方、党内で独自勢力を築き、強権体制を敷き始めた山崎渉氏だが、一部インターネット上で報じられたような言動がぼつぼつと見え始めていたようで、党内のみならず支持者層にも批判の声が上がり始めてきていたという。

第18巻連名

  • 白鳥 ハト
  • 新山 たかし
  • 池野 カエル
  • 神田 達志
  • 栗本 和博
  • 山崎 渉
  • 神崎 りゅう子
  • 小椋 みき
  • 田村 きいろ
  • プチ侍
  • 天空 宇宙流
  • キャンディー・サトウ
  • あずき・まめお
  • 結城 まさのへ
  • 水谷 みか
  • なかがわ はてな
  • 越後屋 サイバン
  • うずら野 浩二
  • 白井 寛
  • 村上 ゆみ子
推定党役職
  • 永世代表 栗本 和博
  • 特別顧問 田村 きいろ
  • 代表 新山 たかし
  • 代表代行 越後屋 サイバン
  • 副代表 ふじい たかし
  • 幹事長 村上 ゆみ子
  • 広報会長 山崎 渉
  • 懇親会長 池野 カエル
  • 幹事長代理 神田 達志
  • 筆頭副幹事長 結城 まさのへ
  • 組織委員長 小椋 みき
  • 読対委員長 白井 寛
  • 読対副委員長 なかがわ はてな
  •   〃    うずら野 浩二
  • 女性室長 神崎 りゅう子
■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第18巻 1999年3月12日初版。ドラゴンクエストVIIに向けた動きが大きくなり始める中での18巻刊行。栗本和博氏が6年ぶり第7巻以来の巻頭枠に復帰。永世代表としての存在感をアピールした。そうした中で、編集部との確執が常に障壁となっていたとされる新山たかし代表幹事が遂に離党を決断。これにより、ドラクエ4コママンガ劇場も最終的区切りへのカウントダウンを始めることになる。

October 31, 2004