業界再編を目指した最大与党解党、有史に名を残した全20巻
~ドラゴンクエスト4コママンガ劇場シリーズ (5) ©1990~ (スクウェアエニックス/旧エニックス)~
2002年11月26日に記者会見で公布されたエニックスとスクウェアの対等合併。2003年4月1日に誕生するスクウェアエニックスに向けて水面下での調停交渉を重ねてきたのではないかと思う1999年。1991年の湾岸戦争以来経済的に深傷を負った日本。山一証券破綻から大手銀行の倒産・再編の波の中で、敢えて水と油のライバル会社の合併という強硬手段に打って出た訳だが、そう言った経営陣の華やかな話題の下で、末端はずいぶんと傷つき、倒れてゆくのが無数にあったに違いがない。
迫り来る業界再編の波に呑まれるように、今までエニックス書籍部を統括してきた保坂嘉弘氏が事実上エニックスを退任。マッグガーデンを設立するに至り、浅野りん・箱田真紀各氏など、エニックス生え抜きの作家が多く離脱していった。しかし、後年結果として「鋼の錬金術師」や「スパイラル~推理の絆~」などのヒット作を生みだしたのはガンガン系であったことを考えると、新興勢力よりも根本的に強靱な体力を持つスクエニ系に軍配が上がったのは、実に皮肉なものを感じるのである。
ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 19 ―――― 再編に向けたラストスパート
▼4コママンガ劇場も19巻になるとさすがにマンネリ感が否めない状況下となる。新山たかし代表幹事格の離党後の空白感を埋めるほどの人材がこの時点では見受けられなかったという心象が強い。新鋭・天空宇宙流氏や固定人気化した神崎りゅう子・神田達志両氏、復党した原淳氏らの活躍も斬新とは言えず、結党当時から2,3年の間に感じられていた参加している作家それぞれの連携感が覗えなくなってきていた。派閥色が強いのと一部で風評されていた、編集部の山崎氏一極偏重指向が評判に影を落とし、山崎氏増長に結果として拍車を駆けてゆく。
ただ、エニックス党としては、スクウェアとの連携を遠い将来に視野を置き、エニックス党の保坂嘉弘最高顧問も独立を念頭にしながら、十年余に及ぶドラクエ4コママンガ劇場長期政権に一定の区切りをつけるべく、エニックス党の解党に向けたラストスパート的な陣立てで19巻の刊行に及んだと見る。
一方でエニックス党とその支持基盤に対し社サイドの支援を受けて山崎派勢力の拡大に成功しいた山崎派会長の山崎渉氏だが、自身のWEB活動において諸懸案が目立つようになる。党内女性作家陣の評判を著しく失墜しかねない言動が顕著となってきたと報道され、一部の山崎派支援者を除き、急速にその支持を失ってゆく残念な事態に陥っていった。
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第19巻連名
- 村上 ゆみ子
- 白鳥 ハト
- 山崎 渉
- 池野 カエル
- 田村 きいろ
- 神田 達志
- 小椋 みき
- 神崎 りゅう子
- プチ侍
- 天空 宇宙流
- なかがわ はてな
- あずき・まめお
- 白井 寛
- ふじい たかし
- うずら野 浩二
- 浅村 イオン
- 野原 すずかけ
- 原 淳
- 汰繭 天湖
- 越後屋 サイバン
- 栗本 和博
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推定党役職
- 永世代表 栗本 和博
- 特別顧問 田村 きいろ
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- 代表 村上 ゆみ子
- 代表代行 越後屋 サイバン
- 副代表 ふじい たかし
- 幹事長 神田 達志
- 広報会長 山崎 渉
- 懇親会長 池野 カエル
- 幹事長代理 天空 宇宙流
- 筆頭副幹事長 結城 まさのへ
- 組織委員長 小椋 みき
- 読対委員長 白井 寛
- 読対副委員長 うずら野 浩二
- 〃 なかがわ はてな
- 女性室長 神崎 りゅう子
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■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第19巻 1999年10月22日初版。ドラゴンクエストVIIの発売が現実味を帯びる時世に刊行されたのだが、この時期になると既に『ドラクエ4コママンガ劇場』というステータスが一部形骸化し、エニックス党自体も根本的再編を迫られてくるようになり、事実上、エニックス党解党に向けた動きが加速してゆくことになる。結果、旧来の支持者の中でも、存在価値の薄いものになってしまった。 |
ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 20 ―――― 10年余に及ぶ4コマ最大与党、解党
▼エニックス党解党に向けて代表格に神田達志氏、幹事長格に神崎りゅう子氏らが最終巻を牽引する。最終巻で注目するべきは、衛藤ヒロユキ・牧野博幸・新山たかし氏らに通じる類い希なギャグセンスを持ち、かつ萌えとリアルさのバランスが絶妙で読者の心をみるみるうちに掴んでゆくことになる怪雄超新星・堀口レオ氏が満を持して登場することになるが、堀口氏はエニックス党解党後の新会派で大活躍されることになる。最終巻での初見は文字通り読者との顔合わせ的感覚であったと思われる。
この間に4コママンガ劇場は、ファイアーエムブレムやTo Heart、後にテイルズオブシリーズなど、社外作品の会派を結成してゆくのだが、ドラゴンクエスト7の発売に先んじての4コママンガ劇場最大与党・ドラゴンクエスト4コママンガ劇場(エニックス党)の解党は時機に適していたと言える。
解党後、8月中旬にはエニックス党の流れを汲む新統一会派を組織、「ドラゴンクエスト4コママンガ大全集」の創刊、12月にはVIIの影響を得て、「ドラゴンクエストVII・4コママンガ劇場」の創刊に至る。しかし、いずれも最大党であった「ドラゴンクエスト4コママンガ劇場」程の影響力はなく、7~8巻の刊行で事実上、解散することになった。
一方、ネット上において「鳥山明氏系統であらずばドラクエに非ず」と言ったようなニュアンスを述べたと伝えられる山崎派会長・山崎渉氏を巡る懸案、風評はインターネット上で実に芳しくなく、山崎氏自身も釈明に苦慮している様子がうかがえ、結果として山崎氏を起用した編集部サイドの起用責任にまで発展することになる。
山崎氏はドラゴンクエストの新統一会派による「4コママンガ大全集第1巻」に一応名を連ねるが、これを最後に離党を余儀なくする。風評の真偽是非はともかくとして、ネット世論という新世紀型の民意が大手会社を動かしたもので、事実上の除名処分に等しい、実に厳しいものであった。
第20巻連名
- 神田 達志
- 池野 カエル
- 小椋 みき
- 越後屋 サイバン
- 神崎 りゅう子
- 山崎 渉
- 白鳥 ハト
- 天空 宇宙流
- ふじい たかし
- 結城 まさのへ
- 堀口 レオ
- 藤野 ゆきお
- なかがわ はてな
- 野原 すずかけ
- あずき・まめお
- 浅村 イオン
- うずら野 浩二
- 栗本 和博
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推定党役職
- 永世代表 栗本 和博
- 特別顧問 田村 きいろ
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- 代表 村上 ゆみ子
- 代表代行 越後屋 サイバン
- 副代表 ふじい たかし
- 幹事長 神田 達志
- 広報会長 山崎 渉
- 懇親会長 池野 カエル
- 幹事長代理 天空 宇宙流
- 筆頭副幹事長 結城 まさのへ
- 組織委員長 小椋 みき
- 読対委員長 白井 寛
- 読対副委員長 うずら野 浩二
- 〃 なかがわ はてな
- 〃 堀口 レオ
- 女性室長 神崎 りゅう子
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■ドラゴンクエスト4コママンガ劇場 第20巻 2000年4月21日初版。約4ヶ月後に控えるドラゴンクエスト7の発売を待たずして、1990年の結党以来足かけ12年余りにわたりエニックス出版界を先導してきたエニックス4コマ最大与党の解党となる。ラストを飾ったのは、天空物語で一躍スターダムにのし上がった、幸宮チノ氏の一時復党。温かみがある愛らしい絵柄で、表紙を彩ってくれた。 |
90年代を代表するロングセラー、不世出の4コマアンソロジー
10年間で全20巻というペースで続いた、ゲーム4コマアンソロジーは、極めて異例のロングセラーであったと言って過言ではなかった。ドラゴンクエストという功罪両極端ながら、特異な人気と堅固な支持基盤を持つロールプレイングゲームと言うだけでは、一介の関連本がここまで長命を保つ要因とは言えないのではないだろうか。
つまり、ドラゴンクエスト4コママンガ劇場というのは、もうそれ自体に、二次創作・アンソロジーというジャンルを超越し、参加作家たちが描く世界によって新たに支持者を生み、優秀な漫画家を輩出する宝田となったのである。
結局は時代の流れに逆らえず、21世紀を目前に解体するのだが、1988年に栗本和博氏の諸作から始まった4コママンガ劇場が培ったベースやエッセンスは、今になって多岐に分派を生み、着実にゲームアンソロジー界に絶大な影響力を保ち続けていると考えるのである。
このコラムを書いている頃は、約1ヶ月後にドラゴンクエストVIII~空と海と大地と呪われし姫君~の発売を控えるのだが、VIIIアンソロジーの刊行に至っても、「ドラゴンクエスト4コママンガ劇場」が培ってきた良き流れを踏襲して欲しいものと願うものである。
November 01, 2004