シュールな花園を知らしめる女子校アクチュアリストーリー

- 女子高生-Girls High- -/ ©大島永遠・双葉社・2001~

■新沢本流「ハイスクール!奇面組」のデリベーション、女子校花園の正体を示す
女子高生第1巻 CSのAT-Xチャンネルで放映された、「女子高生-GIRL'S HIGH-」全12話は、その一見甘美なる妄想すら抱かせるタイトルに期待を湧かせてはみたものの、現状は相当シビアな現実を突きつけられるようで、そういう意味合いで観てみるとするならば、男性である僕からすれば結構イタ面白い。
原作であるこの本を読んでみると、新沢基栄氏の不朽の名作『ハイスクール!奇面組」の派生支族のようでもあり、主人公・高橋絵理子と香田あかりのコンビを見れば島田英次郎氏のギャグマンガ「伊達グルーヴ」の伊達&荒川コンビの微妙な連係をイメージさせる。しかし、やんぬるかな。“女子校なんてこんなものだよ”と言うピボットを示しながらも、所々にシュールさを滲ませて、時には読み手の男さえも退くようなシモネタをあからさまにしながら、この主役級の娘四人衆たちを“ただの美少女四人組”にさせていないのだから実に素晴らしく、私から言わせれば、してやられたと言っても過言ではない。畑違いかも知れないが、藤井みほな氏のヒット作『GALS!』=1999~2002=ともリンクする部分がある。
さすがに漫画の主役を張ると言うことで、バカ軍団=いわゆる主人公=は絵的には美少女系ということになる訳だが、それだけだと言えよう。彼女らを男子キャラにしたギャグ作品はとにかく多い。
実際の女子校というのがこの作品で描かれているような展開に近いとしても、この四人の主役娘のような極めて個性的な存在があって、それらが“バカ軍団”として共に行動しているというのが多分、この作品唯一にして最大の非現実要素と言えよう。
■女子高生(新装版) … オリジナルが2001年の連載開始、アニメ化が2006年という、中堅・マイナー系雑誌では異例と言える。5年の間に新装版の発刊、テレビアニメ化、ゲーム化などのメディアミックスが急速に進んだのを見ると、遅咲きながらも地道な人気を博してきたと言えよう。

▼まあ、名言と言えるものは少ないので、印象に残った言葉で(笑)

『彼   氏』 ―――― 女子校の実態、その基幹となる存在

メイン主役の高橋絵理子が垣間見た女子校の実態というのは、男であるタカミネには決して判るものではないと思うが、「カッコつける相手がいなければ、堕ちるとこまで堕ちる」と言った、鈴木由真の言葉はこの物語に触れる時点でのアクシスを示している。実際、四主役の一人・佐藤綾乃が弄られ役になったのも、いわゆる下高谷という男性の存在に端緒を発している。物語全体を見ても、男性……いわゆる彼氏の存在有無が、微妙な味付けを成していることは起筆に値するものであるだろう。
作者・大島永遠氏のいち実体験を基に再現しているとされるこの作品がここまでの地道な支持を広めてきたというのは、やはり如何に文化が進もうとも、流行が移り変わろうとも、人間の本質は不変なものである。「思春期」という言葉もよく言ったもので、彼女らが求める“恋愛”に対するアスピレーションが、時代を超えて10代の少女(何も女の子に限ったことでもないが)に強い影響を与えていると思っている。そうでなければ、万葉・古今の昔から「彼氏=恋愛」に対する、女性の厳しいまでの鑑識眼がデジタル社会の現代になって劣化しているとは到底思えない。佐藤綾乃と下高谷の絡み合いも今でこそ嘲笑の種とされる傾向があるが、実のところは彼女らが見せつけている恋人同士のロジックというのは、登場人物・姫路京子も含めて、地下茎では同じなのだと思う。
まあ、いずれにしても“出会いがない”や、恋人持ちの知人・友人に対するやっかみというのは、何も女子校だけの問題ではなく、そのままこの話を男子校へとシフトしても全く違和感がない。
タカミネがこの作品を読み進めていて思ったのは、如何に彼氏や恋人に対する女の子たちの執着心を目の当たりにしても、いざとなった場合の男性選定は極めてハードルが高いと言うことだろう。「彼氏は欲しいけど、理想は高い」。タカミネとしては、それで良いと思っている。なまじロクでもない男に引っかかって人生に無為な傷を残すくらいならば、多少理想が高い方が確固たる幸福を得ると思うからだ(昔流行した、三高“高身長・高学歴・高収入”ではないが)
高橋絵理子 ■高橋絵理子 … “バカ軍団”筆頭。本作のメイン主人公。頭脳明晰だが「咲女」に入学して以来常にボケ・ツッコミ・ノリツッコミの一人三役に。ギャグマンガとシリアス、ラブコメ三分野のいずれにも属さない立ち回りと言うことで、周囲からの突っ込まれ役ながらも決して汚れ役でもなく、担任・アイドル小田桐とも完全無欠なる漫才。微妙な立場を上手くこなしている、文字通り中核的存在だ。(アニメ版の声の出演は生天目仁美)

『ラ ン ク』 ―――― 男子校でもそのまま通じるライフスタイル

女子校という“甘美”な世界に妄想を抱く男に“鉄槌”を下し、花の女子校生活を設計する女には厳しい“現実”を知らしめる訳だが、この物語で唯一読み手の男性が感情移入できそうなアイドル・小田桐も、これでもかと思うほどに「バカ軍団」主役四人衆にいじられまくる。主役・高橋絵理子とも良い感じになれるかと思いきやあっさりというか、やっぱりそこはギャグ要素をもってオチとする。小田桐を通じて見るわけではなくとも、女子校という世界がいかにも精神環境・職場環境として苛酷であるかと言うことを身をもって知らしめてくれていると思うと、ヨゴレ役の重要性を改めて思い知る。
職場環境にあって女性というのは、人間関係において比較的結束能力が高い。いざというときの団結ぶりは男性グループの追随を許すものではないわけで、論戦を挑もうものならば、生まれつき百戦錬磨の彼女らに勝つ術はまずないと言っても良いだろう。
そうである上に彼女らが劇中で格付けしていた、『D~S』のランクは封建制とまでは行かずとも、そう言った強者揃いの世界に於ける更に厳しい凌ぎの削り合いのようなものを感じさせる。タカミネ的にはいわゆる「Dランク」も「Sランク」も少数派と言えるが、逆説で考えれば、日本のサブカルチャーを屋台から支えている存在が日本経済に少なからず貢献していることを考えるならば、彼女らのお陰で今がある。中間層がそれを敬遠したりすることはないのだ。
■小田桐雄一郎 … 通称“アイドル小田桐”。登場時は25歳だと言うが、25歳にしてここまでモミクシャにされる人生というのも或る意味哀れだ。女だらけの空間にあってただ一人若いからとナルシストになったことが運の尽き。なまじ若い男性キャラな分、完全なる汚れ役になっている。(アニメ版の声の出演は真殿光昭)  アイドル小田桐

『シ モ ネ タ』 ―――― ある意味グロテスクな程の知識と行動

多くの青年・少年誌にある漫画作品は、極論で言えば男性の視点から見て全く女性をバカにするようなもので、行き着くとこは肉体関係、惚れた腫れたや別れの美学云々と、ずいぶん男女関係を舞台劇化しているように思える。しかし、この作品はそんな世界をたたっ斬っている。生半可な恋愛や肉体関係などは低レベルとばかりに、威風堂々とシモネタを連発。男からすれば結構どん退きしてしまいそうなほどのネタも容赦なく突きつけてくる。本来ならば相当低劣な粗悪ネタとして叩かれもしようが、そこはさすがにバカ軍団とはいえ女の子がやれば掃き溜めに鶴。結局は外部の男目線で言わせれば下品には映らないが、中身をよく検証してみれば相当にグロテスクな意義を秘めたものが多い。それがやはりバカ軍団に必要以上の入れ込みを抑え、良い意味で退き、彼女らが表面の舞台=一般でいうラブコメ界=で演じている姿とはまた別の本来の姿を見ているようで、男からすれば気合いを入れ直して女の子たちに対していかなければならないと思うのだが。まあ、いずれにせよ、作者・大島氏のこのパワーには圧倒される。
いずれにせよ、真剣に気合いを入れてから読み始めないと、途中で挫折してしまう。それほど、この作品はシビアで強大なパワーを秘めていると言えよう。
小川ちゃん ■小川育恵 … 物語の登場人物中で唯一のロリ系キャラとして登場。バカ軍団二軍。ハイリアルなタイプが多い当作にあって、キャラクタ性は一線を画している、いわゆる『癒し系』である。出番の割に人気世論調査で第2位の得票を得たのも、読者立場からすれば納得。アニメ版では相当に活躍した。(声の出演は石毛佐和)

06/7/16