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Memories Off 2nd Favorite Essay
 
my his image song “Guilty~消えることのない罪~”(DEEN)
融通無碍なる恋愛達者、誤解されたヒロインへの思い

◆恋人への思いに懐疑する主人公、不甲斐なさに惹かれる理由
傍目から見れば、白河ほたるという申し分のない恋人を持つ伊波健が、事もあろうに彼女への愛情を疑って離別に追い込み、他の女性と良い仲になる。これははっきり言って宜しくない。三上智也は死別した恋人の幻影を乗り越えるために周囲に支え励まされてきたのだが、彼は全く違う。
はっきり言って白河ほたる信奉者にとって見れば伊波健は逆賊非道の何者でもない。恋人と別れる、彼女を振るという行動は余程の非がない限りは男の方が全面的に悪役とならざるを得ない。どんなに取り繕うが同情を買おうが犯した罪はあがないきれないものがある。
……と、ここまでは多分一般見解に多く持たれるイナケンこと伊波健への印象であろう。少なからず私も彼の行動には疑問を多く投げかけられた。
しかし、その白河ほたるを初めとする六人の女性の心を捉えたのも紛れもない事実だ。
端から見れば実に優柔不断で、俗に言う「玉を捨てて石を拾う」ような愚かな男である(決して他のヒロインが石という訳ではないぞ)が、主人公という概念を投げ捨ててもここまで様々なドラマを演じてきた伊波健には、三上智也、稲穂信、中森翔太とは明らかに違う魅力があったのだろう。

◆優柔不断ながらもお節介焼きというギャップ
メモオフだけに限らない。ギャルゲの主人公というのはどうしてこうも優柔不断なものばかり勢揃いしているのだろうかと感心させられる。特段際立つ特徴もないのに何故かもてる気がするのは我が気のせいか否か。主人公なんだから仕方がないと言ってしまえばそれまで。
そしてメインヒロインの白河ほたるとのオポテュニティも実に他愛のないものだから、そこまで彼に入れ込む彼女に対しても何かしっくりと来ない部分がある。人を好きになる時、ドコが好きになったのか理由を聞かれてもわからないとは良く言ったものだが、残念。主人公という立場ながら、私は伊波健の事は終始好き嫌いという感情に右往左往した。健が絡むヒロインによって何とも同一人物とは思えぬ程に男らしい姿を見せたり、実に情けなくて目を覆いたくなるような醜態を晒したりする。
だが、結果として少なくても五回は白河ほたるのことを捨てているのでマイナスの印象は拭い去ることは出来ず(ほたる贔屓じゃなくても、イナケンをプラス印象で終始した諸卿は少ないだろう)、ある意味実に損な役回りを演じさせられたキャラクタである。
稲穂信、中森翔太、ルサックの店長など、サポートしてくれる男性陣に支えられながらの健の姿は実は危なっかしくさえ思える。優柔不断であることは百も承知の伊波健最大の特徴だが、寿々奈鷹乃編にも見るように彼はものすごくお節介焼きという矛盾した人物でもあるのだ。不器用ながらも確実に女性の心を捉えてゆき、鷹乃編後半には実に無茶な行動に走ってしまうところも多々あるが、ほたる編を除くヒロインを総括した伊波健は、私が羨ましいほどに融通無碍であり、恋愛慣れした色男の風体を装っている。
そして飛世巴編では友人の恋人を奪った罪悪感に嘖まれる彼女の心を解きほぐす優しさに“待つ男”を演じる一方、静流編では巴編に似た境遇ながら姉妹という揺るぎない絆があり、彼女を「鉄壁の女」と評しながら、巴編とは逆の行動に走る。一個人にここまでの性格相違が備えているとするならば正しく最強の男と言える。容姿にこだわる時代は終わったのかも知れないが、現実に伊波健の性格のほんの一部でも受け継ぐような男性が、他者から見て幸福で羨ましい人物であると思うのだろう。因みに不肖鷹嶺は伊波健を羨ましいと思う人間である。

◆引き立て役の主人公、夢見る三上智也との競演
主役という立場にありながらもヒロインを引き立てる立場は、古来から不変のものである。そんな数多の物語の中で、澄空編では意外にも三上智也の心の葛藤が主軸となった物語に展開し、すんなりと入り込めたし、桧月彩花との回想場面には不覚にも泣かされた記憶がある。
浜咲編では伊波健の心の葛藤は実に主軸とはなり得ない。何度も言うが、結果5回も振られることになる白河ほたるの心境を主軸とした方が存外すっきりと型枠に収まるような気がするのは間違った見解であろうか。当該作品において涙する場面はなく、一番泣けるはずだった相摩編と南つばめ編でも、感涙に浸ると言ったほどまでのものはなかった。マイナス印象をぬぐい去れなかった伊波健主軸であるがゆえの因果であると言えよう。
引き立て役の主人公。メインヒロインの白河ほたる編は実にと言うか、恐ろしいほどに顕著な例である。今世においてまだあったのかこんなシナリオとばかりに、コントローラを握る当方が逆に赤面してしまうほどにベタな展開には逆に表彰してしまいたいほどだ。
しかし、逆に考えればそうであることこそがメモリーズオフ2ndの面白さをかき立てているのかも知れない。恋人との破局、そして新たな女性との幸福。現実に多々ある男女の人間模様を一部として表現し、伊波健が悪者にされようがそれでいて各ヒロインに感情移入が出来ることの余地があると言うことは、何だかんだ言っても伊波健の存在の大きさと素晴らしさを現している。源氏物語とまでは言わないが、万葉古今に遺されている貴族歌人の和歌にもやはり伊波健はいる。そしてそれは決して悪い奴とか、嫌みな奴という感情はなく、むしろ伊波健自身に寄せる私たちプレイヤー諸卿の心の裡を映し出した存在であると言えるのでは無かろうか。6人のヒロイン個々に寄せる「伊波健」の思い(私は白河静流と寿々奈鷹乃、そして南つばめ)こそ、理想の自分像であると言っても決して大言壮語ではあるまい。
そう解釈すれば、三上智也よりも、伊波健の方が俗っぽさがあってより私たちに近い像と言える。そしてこれはかなりナンセンスな話なのだが、私的にその澄空編の三上智也と伊波健の二者恋愛会談が実現すれば面白いと思う。相摩編で澄空学園に伊波健は行く場面があるのだが、出逢ったのが双海詩音と回想で今坂唯笑(いずれも状況描写内)、三上智也とは一瞥程度の面識であったのが残念だ。

April 21, 2002