INN nostalgia Game Essay

Memories Off 2nd Favorite Essay
南 つばめ
Age:23 born:5/30 blood:O size:162cm 49kg
CV:池澤 春菜
My her image song: 星と月のピアスと君の夢(徳永英明)
風を求めた不飛の燕、追憶の涯に得た真の自由

▼頽廃を垣間む異風の様相、これぞ昭和の純文学的物語
どこかしか武者小路実篤、志賀直哉、島崎藤村、太宰治など、まるで大正から昭和にかけて隆盛した日本純文学を忍ばせるような物語には一目置く。そして鷹嶺 昊が白河静流と並んで最も気に入った南つばめの物語は、秀逸と言っても過言ではあるまい。
初登場の印象からよるものではないのだが、彼女には“陰”の雰囲気がよく似合う。悪い意味ではなく、夜の闇が人間の心を素直に映し出すようなものであるとするように、彼女が常に醸し出すボードレールのデカダンスに通じた思考と雰囲気は、物語をたどる私たちに不思議な安らぎと思惑を与えてくれるのは今更私が力説するようなことでもあるまい。
奇人・変人と一概に言ってしまえばなるほど社会に対して冷め切った孤独の偏屈者として印象は芳しくは無かろう。だが、そのような表面的な部分に彼女を捉えては身も蓋も無い。白河ほたるが陽として、陰の彼女は正しく伊波健にとって対極に位置する存在である。心惹かれてゆく存在と言うよりも、どちらかというと引き込まれてゆく。人間は常に頽廃傾向にある生き物である。常日頃の絶え間ない努力によって緊張の糸を繋ぎ止めていると言うならば、彼女の存在と自らを否定するような言動に引き込まれてゆくことはむしろ人間の本質であろう。
彼女の言う海・陸・空を吹く風に譬えられた自然の摂理と人生の無常は、過度の繁栄と夥多の情報に飽和状態を過ぎて鬱積した寄る辺ない欲求不満の渦と化す現代社会に対して、痛烈な皮肉を投げかけているような気がしてならない。
忘れかけ無くした何か大切なものを思い出すというようなノスタルジーを持っているわけではない。ましてやこのストーリーに触れた諸卿ならば感じたであろうが、決して健とつばめの恋愛をメインテーマとはしていない。でも、何故かすうっと二人が醸し出す雰囲気にとけ込める。華やかでもない、どちらかというと暗い感じのストーリー。線香花火という儚いものの象徴がまた王道ながらもぴたりとマッチするのだから素晴らしい。

▼檸檬と西洋山薄荷を主軸に辿る追憶と、自由な風
しかし本当に考えてみれば彼女の物語は本当の創作物語である。私が中学時代にはまった純文学を彷彿とさせ、物語後半に彼女自身が語る過去を思えば実に昭和初期の高家華族を忍ばせる。到底、今どきの世界に彼女のような境遇を得た若き女性を捜して見ろと言われれば、決しておるまいと自信を持って言える。小説の中に息づく愛すべき哀しみのヒロイン。お誂え向きだからこそ、面白くて心延々と響く感動に似たものを描けるのだろう。そしてレモンとメリッサをエッセンスに広がる時を越えた人間ドラマは、今の世にあって希少価値の高いものであると言える。
元来、柑橘系の香りというのは本編でも言っているように鎮静作用があるとともに、万年不変の自然の恩恵でもある。人が遠い昔から培ってきた香りの記憶。我が国に伝わる柚子や金柑などがそれを辿らせていると言えよう。
……と、熱い語りはともかくとして、彼女の境遇、そして関わる一人の少年の存在。これが彼女の物語の幅を広げていることは言うまでもないのだが、いささか臭すぎた面も否めない。
私はかなりの古いタイプの人間であるのではないかと思っているのだが、彼女に対して強いほどの親しみを覚える。かと言っても、最近の若い者は……と言うほど老けているつもりはないのだが(自分ではそう思っている)。
そしてそんな退廃的な雰囲気を醸し出す彼女であるが故に名言も多く生まれた。この場ではいちいち語り尽くせない程ではあるが、人間というものは、一体何なのだろうかなどという事を思わせ、普段の生活で笑顔を見せる理由。取りつくろった自分というものの無意味ささえ感じさせる。彼女の言葉に触れるたびに落ち込むというわけではないのだが、健と彼女の恋愛観を別として、そんな私自身の存在意義をおぼろげながらにも考えさせられる物語とも言える。私的に彼女のイメージソングとしては徳永英明の「星と月のピアスと君の夢」という哀しい曲。『♪ああ何故、同じ海が今は冷たいの……?』彼女のストーリーを集約している気がするのだが、決して彼女のストーリーは悲しい結末だけではない。胸を締め付ける追憶。そして未来へ向く、彼女が求めた風を得た時。でも、それだとしても南つばめという女性には、哀しいバラードがよく似合う。そう思ってくれるのは私だけではないと確信しているのだが……?

▼今は失くした大人の恋愛、日本人の美学だったもの
メモリーズオフ2ndの公式ビジュアルガイドブックに、待つ恋愛でも良いかという問いにYESと答えると、南つばめにたどり着く項目があったような気がする。
待つ恋愛、それはすなわち遠距離恋愛とも言えるのだろうし、極端に言えば、15年間の服役中の恋人を待つ心境なのだろう。当然、このエッセイを綴る私に、彼らのような経験はない。しかし、不肖ながらも、待つことを約束した恋愛の経験はある。……だが人間そうそう強いものではない。いかに強い絆で結ばれていようと思っていたとしても、遠く離れていれば不安の種が尽きぬと言い切れるとは到底叶わない。
人それぞれであると言ってしまえばそうかも知れないが、伊波健と彼女のような経緯で私から言わせると、はっきり言って自信がない。固い意思が健を支えようとも、彼女と結ばれる間に、新たな物語が展開するとしても不思議では無かろう。
言葉では何とでも言えるから言っておくが、私ならば彼女を待ち続けることは出来ただろう。しかし、伊波健はその間に白河ほたるを初めとして様々な女性と交流を重ねているではないか。南つばめという女性との約束を果たして忠実に守り通せていたのかというと甚だ疑惑が耐えない。
まぁ、それこそが私たちユーザーの創作枠を広げる一端と言えばそうなのかも知れぬが、根本的に信憑性は完璧ではあるまい。彼女とて、伊波健が(意味もなく)女性に大もてであることくらい理解しているはずである。伊波健も、若いながらも大人の恋愛事情を熟知しているものと見た。だからお前ならばきっと彼女を幸福にしてやれるだろうと信じているぞ。大人の恋愛ぞ伊波健。船首に男女二人抱き合いながら両手を広げて風を受けているなどと言う、欧米諸国のかぶれた映画は思い浮かべるな。我らの美学は、ここにあり。
それにしても、恋愛まで欧米化してゆくのだろうかね……我が日本は。

April 21, 2002