INN nostalgia GAME COLUMN

メモリーズオフ~それから~


©KID
CV/白石 涼子

実力と努力の格差に惑う拗れた嫉妬。素顔を見せた粋な厚情


素質を嫉んだ天才、我意の対立から真実の和解へ

攻略対象とならなかった木瀬歩は我ながら非常に残念な部分があるのだが、相も変わらず、非攻略のサブキャラクタこそが現実の世界に極めて近いキャラクタとなっているのが皮肉なところであろう。
藤原雅に深く関わってくる彼女なのだが、雅に向ける嫉妬と素直になれない友情は、まるでゾクゾクとするばかりにその現実感は強い。小説や漫画に必ず登場しそうなキャラはデジャビュというまでではないが、そこはかとなく身近に感ずるものだと思うのだ。そして何よりもそのビジュアルが、人に媚びず脳髄を必要以上に刺激することもなく、極めて中性的であり、かつどこかしか気の強い部分を秘めたものであるところが良い。
さて、何よりも木瀬歩が抱懐した藤原雅への態度には必ずしも非道だと言い切ってしまうには惜しい。心清廉な人間ばかりではない、いやむしろ彼女こそが普通の人間らしいのではあるまいか。雅との確執は同情の余地がるし、個人的には彼女の方に共感も懐くことが出来る。それはまあ、当然だろうが彼女が根っからの悪人に描かれていないという意味もある。浮気心から言うのではないが、並みいるメモそれのヒロインよりも、個人的には彼女のような根が良い感じが好きなのである。おそらくメモそれをプレイした諸兄も、友人・知人などに彼女のような「あえてひねくれ者」が、性別問わずにいるのではないだろうか。
薙刀の天才として藤原雅と対立する構図は言うなれば極めて高度なスポ魂になれる物語でもある。無能な者が、天才に理不尽な嫉妬を懐くという低次元なものではないので、心底で互いを認め合えていた部分が、終盤の木瀬らの粋な計らいへと連結してゆく。元々、惰性でない限りは、スポーツ選手たる者、頂点に立つ野心は持って然るべきだろう。木瀬たちの計らいは言うなれば彼女が忘れかけていたスポーツマンシップの真骨頂を見ることが出来る(式ジャックはいかがかとは思うが)。彼女の嫉みなど、かのサッカーアジア大会で中共どもが日本に対して行った低次元な行動に較べられるものではない。彼女の真実の姿、優しさというものが、あれだけで伝わってきたのだ。
もう少しシナリオを作れるとするならば、演武試合で対戦した鷺沢一蹴に、特別な思いを懐くようになると言うのがあっても面白かったかなと思う。まあ、木瀬歩という少女は目下、恋愛に対しては意外と奥手のような気もしないではないのだがね。