INN nostalgia GAME COLUMN

メモリーズオフ~それから~


©KID
CV/小林 由美子

友を気遣う優しき兄妹、自が魅力に気づかず。開花した一蹴の愛


“女性らしさ”を追求した中性の美少女、信に敗れて一蹴を得る

稲穂信という男は、きっと女性から見れば非常に難攻不落の砦なのではあるまいか。なまじの気持ちで彼の心を得ることはほぼ皆無に近い。ひとえに一本筋の通った男なのだからではあるが、彼女、力丸紗代里も稲穂信に撃沈された女性衆の一人である。
自意識過剰もいかがなものかと思うが、自らの魅力に気づかない鈍感な人間は端から見ていてどこかしか放っておけない。紗代里はまさしくそんな兄貴心をくすぐるに十二分な存在である(まあ、SisterPrincess:衛の小林由美子女史が声を担当しているという点もあるが)。某兄と同じく友を第一に気遣うという今の世に失われてしまいつつある国宝級の美しい性格。それだけで充分に彼女が言う「女らしさ」の面目躍如といった感じなのだがね。
稲穂信が紗代里を袖にしても不思議と得心できるのは、信の性格だけではなく、比喩すれば洗い立てのシャツのような彼女自身が、憎愛の情を中和してくれているのではないだろうか。
藤原雅編から分岐することになる彼女の物語は、ひたすら悲しみの縁から這い上がろうとするポジティブな彼女を背中から押す鷺沢一蹴の優しさに満ちたストーリーとなっているわけだが、懸命に立ち直ろうとする姿が率直に伝わってくる分、メインヒロインとは確実に一線を画す。さすがに主役になりきれるとまでのインパクトには若干欠けるが、木瀬と比べた特別編として紗代里に焦点を絞ったのは英断だったと言える。
鷺沢縁の親友として、また藤原雅、木瀬歩など錚々たる面々に囲まれながらも、常に向上心に溢れ真実の愛・一蹴を得たことは努力は報われる、神からの贈り物だったのか。そう思えば、何々他のヒロイン達よりも何倍も彼女は強く、芯がしっかりしていると言えよう。
因みに名字はバレバレなのに終に明かされなかった本編。意図的なものがあるのか、或いは力丸は偽名だったのか。微かな謎が残ることに間違いはない。