Age:18 born:10/24 blood:A size:163cm
CV : 川澄 綾子
INN nostalgia inspiration song
Call your name
Words by Shuichi Ikemori / Music by Hiroyuki Suzuki(DEEN) |
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©KID |
「いさこちゃん」。その
決して心を閉ざしているわけではない。人間が常に持ちつづけ、払拭できない矛盾に葛藤し、欲望に対して憎しみを向ける様相を見せる。鳴海沙子が懐抱する思いというのは、とかく微妙に同感できるものがある。価値観の多様化した社会。すでに『純粋』などと言う言葉は死語となりつつあるのだろう。彼女が終始提唱続けていた思いというのは、そのまま鷹嶺 昊、そしてINN
nostalgiaのテーマに通じるものであると言うことを認識している。沙子とは実に論戦できそうな気がする。しかし、私など上辺だけの言葉を連ねるだけでまともに立ち会ったら論破されてしまうような半端者である。でも、一度でもいいから言い合いをしてみたいなぁと、中後半にかけての沙子像を見てそう思ったのである。
そして、きっと彼女の目から見れば、イラク戦争をどう思うかと訊ねれば、きっとこう答えたことだろう。「戦争には正義も醜悪もない。ただ銃と爆弾で人間が人間を殺す。それをくり返す……ただ、それだけのことだ」
彼女の想いは汚れがない。でも、行き場のない美しさは同じ処を延々とくり返し行き交うだけの虚しさを残し、やがて彼女の心を完全に壊していたことだろうと思うと、実に戦慄が走るものである。
加賀正午はメモオフシリーズの主人公の中でも随一のナイスガイ。鳴海沙子との意外な関係を知るも知らざる前も、彼女の孤高なる厚い壁に懸命に乗り越えようとする熱意が良く共感させられるものである。しかし、鷹嶺 昊が唯一疑問に置かざるを得ない点は、沙子が正午へ想いを寄せることになったきっかけであろうか。さながら、昼ドラばりのゴタゴタ感満々のストーリーであるのだが、意外なほどにさっぱりとしていて後味が悪くないのだ。多少癖があればきっと三角関係にプラス親友遠戚九族を巻き込んだスリル溢れる恋愛ドラマにとどまらないニーチェ哲学的な話を期待できただろう。そう、後味がよいので、沙子が懸命に訴求し続けていたテーマが中和されてしまったのだ。ある意味で勿体なくはないか。千羽谷のアウトロー・トビーを瞬殺(?)に追い込むほどの烈女。その圧倒される初登場の割には、終盤意外なほどに丸くなったよね。ちょっとびっくりで、ちょっと残念だったかも知れない。鋭利な棘、切れすぎる刃は非常に脆いもの。ぽきりと折れるかと思いきや何々、柔軟になっちゃって…。これも全て正午の運命の賜物か。努力も運命と位置づけるならば、沙子はきっと良い星の下に生まれたと言えるのだろう。
人は一人では生きて行けないとはよく言うが、全く持ってその通りかも知れぬ。愛するにしろ憎しむ事にしろ、それを力に生きてゆく精神の糧となるのだろう。常に張り詰め続け、休むこともなく、終焉なき真実と確かな答えを求める沙子の透き通るほどの無色・厚く固く、冷たい氷の心は、何ともはや加賀正午という一見『ダメっぽい男』中途半端ないい奴の手でとかされてしまうものなんですね。本当に、人間なんて分からないものです。伝えたい想い。伝えられぬ想い。伝わらない想い。鳴海沙子って、まるで宇宙の摂理を体現していないかね。理屈で自己納得して曖昧にしてしまうことが出来る「ヒト」を超越した、ある意味達観した女性であろう。
ひいき目。加賀正午にとっては高校時代の恋人であった黒須カナタに比べたならば、私的には沙子であったらば、十二分にカナタに比肩できる、いやともすれば勝ち得たほどの魅力に溢れたヒロインになり得たであろう。理由は本編を要参照だが、少なくともカナタよりはつながりは強いはずであるからだ。
だが、決定的なのがカナタが陽であって、沙子は確実に陰である。今どきはやらない言葉のひとつで突然豹変して素顔を見せて終わるラスト。脇役の悲しい宿命なのだろうか。ギリギリの場面で陽に転換してしまった陰主体のヒロインの、実質的な含み損である。実に惜しいかな、惜しいかな。沙子は殊の外お気に入りの人物であったがゆえにこの扱いは残念であるかも知れぬ。さてさて、本編でも語り尽くせた沙子へ贈る、タカミネ的短歌をひとつ。紫式部の出典より……。
「めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな」