CV :間島淳司
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メモオフとくれば、やっぱり稲穂信の存在を忘れてはいけないとまで思うのは極端かも知れないが、それほどまでシリーズを通して彼の存在感が高いのは何というか、ある意味で役得でさえある。ああ、それは当然、澄空からここ千羽谷までの間で彼とふれあうこととなる女性達はいかんせん美女だらけ。当然、信にはそのお一人とも恋愛関係に陥ることなぞはないのだが、それがまた彼の良いところなりけり。鷹嶺 昊としてはむしろ恋愛に浮沈しまくる三上から加賀のようなフーリッシュな主人公どもよりも、なれるとするならば彼、稲穂君にならんやと本気で思うのだ。
ファミレスでバイトの見ながらすでに厨房長の風格を秘めて現場を取り仕切る傍らで、恋愛に達観した彼の行動は、何とヒンズー教のメッカ・インドへの修行と洒落込むのだからあな、大したものではないだろうか。ナマステなどと本気で感化されたわけではないだろうが、彼は実にそんな事が似合う。むしろやはりメモオフの真の主人公たるや彼ではないかとさえ錯覚が芽生える言動所業も数知れずと来るのだからね。
いわば三上智也から伊波健を取り巻く環境で培われた、稲穂信独自の恋愛フィロソフィは、千羽谷・加賀正午の出会いと交流にあって一段と開花したと思える。それはなまじ付け焼き刃で甘ったるく、第三者的無責任論者の御託などは到底及ばず、いつぞや某有名大学の愚かな学生が起こした集団レイプ事件すらも彼からしてみれば茶番の会話にもならないとばかりの高尚な恋愛観をして加賀正午を初めとする人間関係に優しく溶け込んでゆく。正しく、稲穂信は史上最高の第二の人なのである。
今坂唯笑や双海詩音、白河ほたるや南つばめ。荷嶋姉妹と霧島小夜美と世間を代表する美(少)女を『親友』に持つ稲穂信と、彼女らと結果的に恋愛関係になる各話の主人公達。憧れる立場とするならば、私は迷うことはなく稲穂を選択するであろうと確信できるのだが、結果としてそれってやっぱり自分が年を取った所為なのかも知れないと言えばそうなのかとも思える。恋愛に疲れたとか、そんな暇はないとか、ただ単に恋愛というものに無縁なのかはともかくとして、やはり自分としては、極めて恋愛に近い、恋愛ドラマの主人公などに感情移入するよりも、むしろそれを応援するような『いいやつ友人』にありたいと思うし、自分としてもそれが一番性に合っているのではないかと思えるところがあるのだ。
稲穂信はシリーズを通して、恋人は欲しいと反芻はしているものの、彼の持論から推し量れることは恋愛に対する無欲の観念に事欠かないところであろう。終始、迷える三上から加賀に掛けてアドバイスをする有能な軍師。ええ、恋愛戦線における諸葛亮とまでは言い過ぎかも知れぬが、徐庶元直であると言っても良いほどである。見た目もなかなか二枚目なくせに女性に無縁。世間のメモオフ女性ファン層の心を掴む要素は実は稲穂信にあるのではないか。
現実離れした恋愛劇を繰り広げるヒーロー・ヒロインの宝塚寸劇じみた物語を満喫するに飽き足らずば、君自身が稲穂信になって、現実でもよく使えそうなアドバイスを、恋愛に悩める君の友人に問いかけてみてはどうかな? きっと、稲穂信の胸中、幾ばくかでも解るであろうぞ。