絆という名のペンダント~with TOYBOXストーリーズ~

(C)2000 カクテルソフト/NECインターチャネル/スタック / 2000.4.6 6800¥ CD-ROMx2 キャラクターデザイン 橋本タカシ


★初めて美亜子から『サエ』って呼ばれた日のことは一生忘れない。あの日、あたいは美亜子の誘いを断ってまで無為にクラブに打ち込むだけの自分自身がすげえイヤになって泣きたくないのに泣いちまった。でも…アイツはずっとあたいを待ってくれていたんだ……。あたいのかけがえのない親友ミャーコ、これからもよろしくなっ!

(冴子)

いつも気になるアイツ…

▼ま、ベタ移植なんで……

Win版の『うぃずゆーTOY BOX』と比較してしまうと、評価がゴホッ...ゴホッ...となってしまうので、Win版の『TOY BOX』とまとめてのレビューにしようかと思います。
本編でのサブキャラクタである、俺的【爆○問題】コンビ・田中冴子と信楽美亜子との出会いとその友情をテーマに進んでゆく、無選択肢の完全ビジュアルノベル。
それぞれにキャラクタの個性(本編でのプレイヤーが抱いた印象)が活かされていて、それはそれで大変良かった。物語も彼女らの駆け引きや絡みを通じて、訴えかける要素も多く、また美亜子のようなタイプはざらにはないにしろ、冴子のような心情を抱く人々が多くいることを考えると、『真の友情』を考察する意味でまことに希少価値の高い物語であったといえる。
ただ、残念なこともひとつある。
信楽美亜子との出会いの場面は満更でないにしろ、彼女がいかにして冴子のような朴念仁キャラに興味を抱き、積極的にアプローチするようになったのか。
通常に考えれば冴子のようなキャラよりも親友になれそうなタイプは他にもいたと思われるのだが、まあ、そこはプレイヤーのご想像にお任せといわれてしまえば、そこまでなのかもしれないが、本編でなまじのお笑いコンビ以上の見事なやり取りをするようになった経緯を、この当ストーリー以上にもう少し掘り下げてくれても良かったのではないかと、思われるわけなのである。

▼田中冴子 新生活に対する期待と不安

新しい生活が始まると必ず芽生える不安と孤独感。そして、かけがえのない親友と出会うという期待感。
田中冴子が冒頭の語りでそんな心情を伝えてくれているわけだが、彼女の気持ちは恋愛物語における王道・マンネリの出だしと片づけてしまうには惜しい。
進入学・就職といった、すべての人々が必ず体験する人生の一大イベントの中で、彼女のような心情を抱く人もきっといると思うと、妙に共感・引き込まれると言うものである。
『佳き友に出会える』ことこそがそれからの人生を大きく変えると言う。田中冴子の場合は信楽美亜子との出会いが紛れもなく大きなプラスになっただろうが、果てさて、現実を考えると自分の周囲に、美亜子のような“友達”が一人でもいるのだろうか? と問われれば、答えはどう返ってくるのだろう。
この『いつも気になるアイツ…』のストーリーが良かったというのは、そんな本当の友情の形を自身の中で理想を絵にしたものであるからであろう。

▼信楽美亜子 “遊び人”の真骨頂

美亜子をただのミーハーで遊び好きなキャラクタだと言ってはいけないと思っている。
本編でのイメージからそうなのであろうが、私から見るに、美亜子は本当の“遊び人”である。もちろん、都会にたむろすあてもない若者たちや、無為に金を散財し、異性を買収するような意味の遊び人ではない。
常に自分をわきまえ、奔放な言動が多いながらも周囲に気を配り、友の意志を大事にする。そのキャラクタ性であるが故に、人生相談をシリアスに考えると言うよりも、過ぎたことを悔いず、前向きに笑おうと言う感じで相手を笑顔に導いてくれる。そんな優しい少女なのかも知れない。
世間の流行に精通し、人脈に偏らず、その明朗活発な性格を活かして周囲を明るくしてくれる才覚。これこそが真の意味の“遊び人”であると、私は考える。まあ、かといって実際に美亜子のようなキャラクタを恋人にしようものならば人それぞれ、楽しいライフになるか、疲れてしまうかになる訳なのだが、思い入れからして語れば、美亜子は好きな人が出来れば礼節をわきまえて浮気などするようなタイプではないだろう。“遊び人”の真意を見せながらも想いは愛する人へ……と言ったような感じか。
まあ、ひとつネックなのは彼女のようなタイプはなかなか恋人は現れにくい。八方美人だという第一印象を相手に与えやすいゆえだろう。決してそうじゃないと言うことはこのストーリーで余すことなく表現されてはいるのだが……。


★僕が乃絵美ちゃんに寄せていた想いって、何だったんだろう……。恋? それともただの憧れ?  アイツのせいで乃絵美ちゃんは深く傷ついている。僕は気づいていた……でも、僕に何が出来る?
今日、雨が降った。まるで乃絵美ちゃんの心を表すような、激しい雨だった。夕方に雨は晴れた。そしてふと、東の空を振り向くと、大きな虹が見えたんだ。僕は思った。あの虹が、僕と乃絵美ちゃんの心をつないでくれるならば……

(鳴瀬 健一)

たったひとつの冴えたやり方

▼“真のヒロイン”と目された、伊藤乃絵美サブストーリー

PC版『With You~みつめていたい~』を一通り終了した当時は主人公の妹である乃絵美は期待したほどのインパクトはなかった(参照→FAVORITE GAMES【With You~みつめていたい~】レビュー)訳であるが、風評を聞くに及び改めてその存在の意味とプレイヤーたちの心情をしっかりと押さえた人物像であることがようやくわかったという気がするわけである。
と、ここまでメインヒロイン鳴瀬真奈美を凌駕した恋愛美少女ゲーム界下剋上・伊藤乃絵美のサブストーリーは、本編中で一瞬だけ登場した真奈美の弟・鳴瀬健一と、乃絵美の視点両方から展開される有選択肢のビジュアル・ノベル。本編を通じての敵役は柴崎拓也という、この分野にはなくてはならないスポーツ万能のイロ男。乃絵美が柴崎に想いを寄せていたという話から、柴崎の存在意義以前にほとんどのプレイヤーたちから非難の目を浴び、このサブストーリーで幾ばくかは見直されるかと思いきや、かえって逆効果であったりする。

▼柴崎拓也…未完成のヒーロー。過信と慢心、誰もが抱く心の落とし穴

本編並びにこのストーリーの乃絵美については各関連サイトで評価されているので、今になって私が話しても何ら共通しているので語るには及ばない。私が注目したのは、乃絵美を哀しみに追いやったことで一斉に非難の的となってしまった未完成の英雄・柴崎拓也である。
柴崎は乃絵美の回想録で中学時代に純粋にサッカーに打ち込む姿があり、さもドラマティックな展開で柴崎と知り合い、惹かれて行くと言った感じなのであるが、高校生になった柴崎の豹変に乃絵美は苦しむこととなる。
本編・東ストーリーを通じ、取り巻きを従えて乃絵美を邪気にし、あまつさえ鳴瀬真奈美に言い寄るという怒りと憎悪の壺をつく登場を見せる訳なのであるが、果てさて、一概に柴崎を悪役と言い切ってしまうのはあまりにも酷だと言えよう。
柴崎はいわば自らの才能に慢心し、迷ったときや悩んだときに支えとなった乃絵美という存在を忘れてしまっている。誰しもが、勉強・スポーツ・仕事・遊びにおいて、自らの才能を活かし、順風満帆に事が進めば、必ず慢心するものであろう。いわば柴崎拓也は『初心を忘れた頃の自分』の姿なのである。乃絵美ファンは一度冷静になって柴崎像を自らに重ねてみれば、彼の気持ちも分かるというものであろう。ただ、練習試合に負けて乃絵美と語り、初心を取り戻すと言うのは安直であり、俺は誰とも付き合わない、プロを目指すという結論に達したのは、恋愛物語のライバルとして実にらしい清々しさをたたえているのだが、彼の場合その第一印象からやはり損をしている。乃絵美とつき合うような展開はそれもそれで非難を受けるし、この結果も結局、乃絵美を悲劇のヒロイン的存在に祭り上げたという印象からすこぶる非難を浴びる。乃絵美をヒロインとするならば、柴崎は終盤なりかけて、ついにヒーローとなり得なかった、ある意味可哀相なキャラクタだった。

▼鳴瀬健一…押しが足りないゆえの『いいひと』止まりに

鳴瀬健一のようなタイプは当然いい人止まりに終始する。自らの思いを言葉に出来なければ当然相手には伝わらず、態度だけでは当然無意味。乃絵美自身が柴崎への思いを振り切っていない以上、そこに介入しても待つのは撃沈。分かってはいるというものの、随分と損な役回りではある。 まあ、設定が乃絵美よりひとつ年下(中学3年生)と言うことも、未だ恋愛における紆余曲折を知らないと言うことなのかも知れないが、少々子供過ぎてはいないかなあと言う感覚が否めない。行動・言動ともに今時の中学生とは思えないほど子供っぽいし、ストーリー後半に絡んでくる橋本みよかよりも子供ではないかと思ってしまう(みよかよりも年下なのだが)部分がある。
健一サイドからプレイすれば、健一のはっきりとしない態度に随分とやきもきするのであるが、何々、彼のように伝えられない想いを秘めていたり、自分自身の気持ちすら分からないと言う心境は往々にして存在する。『健一:あなたが好きです』『乃絵美:イヤです』などという率直とした展開の方が個人的にはいいと思うが、それでは恋愛物語にはならないので、恋愛物語の主人公的タイプとしては彼のように、プレイヤーをいらつかせる優柔不断がいいのだろう。テレビドラマの主役たちは夙に優柔不断。

▼時代が生んだ、理想の兄妹像

歴史的見解で伊藤乃絵美を語らせれば、記紀神話以降、乃絵美のような妹像は皆無と言っても過言ではない。古くは邪馬台国の卑弥呼女王から聖徳太子が活躍したと伝えられる日本初の女帝・推古天皇の御代、女人救済を唱えたことで知られる法然が生きた鎌倉時代や、男尊女卑、女は男に尽くすものと言った儒教が隆盛した江戸時代に至るまで、乃絵美のような献身的とも言えるほど兄に尽くし、高名を馳せた妹はいないのである。つまりは日本の史実に語られる紀元以降の妹像は、むしろ乃絵美よりも橋本みよかにより近いものであっただろうと推察できる。
確かに、主人公・正樹と乃絵美の関係は、兄のために昼食の用意をしたり、貧血で倒れた乃絵美を兄が背負い、安心しきったように兄の背中で眠るという、理想的な兄妹愛の真髄なのであろうが、言葉を変えれば背徳感、禁忌的情愛を無意識のうちに感じさせ、近親間の恋愛という、現状では非人道へのスリル感を主人公役に与える。ただ、乃絵美のような(に、似た)妹が実際にいるとするならば、兄として純粋に守ってあげたいと言うのはごく当たり前なことであり、恋愛感情になったとしても至極不思議なことではない。乃絵美が劇中・兄やヒロインたちに憧れているとは言うものの、憧れと言う言葉は実の兄妹に対する謙遜の意であり、恋している、愛していると言う真意と全く変わりはないと思う。事実、先述の推古帝以降の飛鳥時代においてまで、皇族間において、いとこ同士は当然のこと、親子兄妹の恋愛・結婚は全くの普通であった。記述を見ても乃絵美が兄に“憧れている”と言うような言葉に真意を秘めているものがある。つまりは、妹が兄に抱く恋愛感情は、推古朝以来全く同じだと言い切っても、決して言いすぎではないと言うわけだ。
しかし、残念ながら、乃絵美のようなキャラクタは実際にはいなかった。乃絵美に写す理想の妹像は、あの絶世の美女と謳われた市姫の兄・織田信長でさえも抱いていたかも知れないと思うと、何々、乃絵美がこれほど人気が高いゆえんは、数世紀越しの想いの現れなのだろうかとすら思えてしまう。余談だが、その市姫は群を抜いたブラコンだったらしい。


ロマンスは月影のため息

▼何故かアクション系になった天都みちる編サイドストーリー

ゲーム本編を通じて、天都みちる先生の存在意義はいささか画竜点睛を欠いている。メインヒロインの真奈美と絆の守護精霊チャムナと大いに関係してくる謎の人物かと思いきやそうではなかったため、美少女ものによく付き物の美人教師という範疇に忠実に収まってしまっている。しかも主人公との恋愛関係に発展するわけでもなかったので、なになにアウトオブ眼中と評価されたプレイヤーも多いことかと思われる。
PC版・SS版本編もさりながら、『うぃずゆーTOYBOX』の当サイドストーリーも、本編での完全サブキャラとして確立したみちる像を強引に主人公、もしくはその他のキャラに絡ませることを潔しとしなかったのかどうかは分からないが、みちること美少女義賊セイント・エンジェルなどと変身もののアクション系という全く別のストーリーになってしまっている。ユーザーの意見の総括から生まれたストーリーであることが一目瞭然で、ミャンマーに在住していた真奈美の『緬甸拳法(ムェカッチューア)』まで飛び出すというコミカルさ。さながらオールキャストの文化祭劇のようであり、どちらかというとシリアスな展開を見せてくれる本編、ならびに他の3サイドストーリーとは一線を画す内容の有選択肢ビジュアルノベル。

▼天都みちる…失われた教師の理想像か

個人的視点から見れば、まあ歳も近いと言うこともあり天都先生のキャラとは親しみを持てる。おどけていながらも芯をしっかりと持っていて教師という職業柄、生徒を愛していることがひしひしと伝わるようで見習うべき点が多い。
教職ではないのでその世界のことはよく分からないのであるが、一昔前が金八先生型が理想教師像であったように、今はとかく有名なGTOや伝説の教師のような熱血と言えば語弊があるが、破天荒なタイプが主流なのだろうか。天都先生もさりげなくも破天荒に近い。とかく授業において不具合なサスペンス映画のワンシーンを取り上げた物騒な英訳、授業を聞いていない不真面目な生徒へは、いつもの笑顔調子で東大へのストレート合格を約束された超優秀な学生ですら到底一日では終わらないほどの宿題を平然と出すなど、やることは彼らにも及ばないほどハードだ。
それでも彼女のようなタイプの教師ならば、今時の少年少女たちもすんなりと受け入れられよう。今や聖職という言葉すら死語となった教師。生徒を待つのではなくて、自ら生徒に飛び込む天都先生から学ぼうと言いたくなってくる。

▼『衛ちゃん』を出して欲しかった(笑)

1990年代初頭に大流行した某有名美少女アニメのタキシード姿の仮面男ですが、どうせここまで話をずらすならば、これに似た謎のヒーローを登場させて(俺的には橋本先輩)、セイントエンジェルとのロマンスを演じさせてもらいたかった気がする。シリアス的要素を求めずにこのストーリーだけに集中させれば、このヒロインは陰謀に巻き込まれた主人公たちを守ろうとする桃太郎侍に徹している。己の愛する人のために~という場面が見出せなかったために、なるほど格好良かったことに変わりはないのだが、物足りなさに終始した。感情移入できる、男性キャラクタの重要性を思い知らされた、サイドストーリーである。


とどけ! この想い

▼思春期特有、同性に対する憧憬を描いた物語、なんですけど……?

PC版TOYBOXでは、開始時点からいきなり変な展開(?)になっているが、さすがにPS版では脚色されています。それはそうでしょう。『With You~みつめていたい~』ならびに『絆という名のペンダント』本編において、田中冴子の追っかけファンをしている橋本みよかの視点から展開する無選択肢・ビジュアルノベル。
あこがれているとか、自分の目標となっている先輩のために、何かの役に立ちたいという少女期特有の同性に対する思いを彼女らしく純粋に描かれているのだが、なにぶん、『妹』という概念から、伊藤乃絵美と比べられ、極めて損をしている。所以は言わずとも知れたこと、理想の妹である乃絵美と違って、みよかは極めて現実の妹に近い姿だからである。このサイドストーリーにおいて、注目すべき点は、彼女が冴子を慕うという点よりも、主人公の兄妹と比べた実兄との関係についてではないだろうか。

▼橋本みよか 実兄まさしとの関係

実際に妹がいるプレイヤーの皆さんに聞きたいのだが、あなたの妹の実像はこの『橋本みよか』に限りなく近いのではないかと推察するが、如何だろうか。
『たったひとつの冴えたやり方』のレビューにも書いているが、伊藤乃絵美のような献身的な妹タイプはまずない(と言うよりも、乃絵美ははっきり言って、自分の恋人を『お兄ちゃん』呼ばわりした、擬似兄妹である)。私個人としては、現実的ならば、みよかのような妹像を描く。主人公に色々とアドバイスをしてくれる、橋本まさし先輩が、その実かなりのシスコンであるということもさりながら、この橋本兄妹の仲というのが、伊藤兄妹(主人公・乃絵美)よりも、現実理想の関係であるのではないかと思うわけである。
まあ、私自身には姉がいるので(この姉弟・小さい頃から仲は終始悪かった)、『姉弟』関係ものには萌えないのと同じ。妹がいる人ならば、きっと『兄妹』関係ものには萌えないのでしょう。気持ちはよくわかる。むしろ、この橋本兄妹像が本来の姿。

▼橋本まさし 我が妹にとどけ! この想い

このサイドストーリーをひととおり進行させた後、思ったことがある。メインタイトルの『とどけ! この想い』とは、みよかが主人公ではなくて、兄のまさしだったのではないかと(笑)
はっきり言って、みよかと田中冴子との出会いや経緯は語るまでもなく大筋わかっていたし、多少のすれ違いから元通りの先輩後輩に収まる……。『いつも気になるアイツ・・・』や『たったひとつの冴えたやり方』に比べれば、みよか視点から見ればかなりへぼいお話だろう。むしろ、あえて主役のみよかを差し置き、兄であるまさしの視点から全体を見れば、なるほど実に面白いではないか。邪険にされつづける兄貴。俺はこんなにお前を愛しているのに・・・なぜわかってくれないんだぁ!!
妹がいるプレイヤーは怪訝に、妹萌えのプレイヤーはやきもきと。みよかが乃絵美と化すか、果てさて、あなたの妹さんと化すか。ある意味、想像力を豊かにしてくれるノベルであると思う。


鳴瀬真奈美編(第一・第二)

▼個人的には第二シナリオがいいと思う

SS版のべた移植なので、SS版との総合レビューになると思います。
私個人としては、メインヒロインの鳴瀬真奈美編のストーリーは、期待していたほどのものはなかったような気がします。特に第一ストーリー(PC版~)は、途中から急に伝奇ものに転向してしまったため興醒めとなり、現代恋愛ものとしては後述の氷川菜織編が特段良かったのだ。その欠点を補足しようと、第二ストーリーが組み入れられたSS版~PS版。確かに良くなった。しかし、そのおとなしい性格のせいなのか、いささかインパクトに欠けてしまったのは仕方のないことなのかも知れない。

▼鳴瀬真奈美 下剋上にしてやられた悲運のヒロイン

知っている人は多くを語らなくてもいいだろう。鳴瀬真奈美は、名だたるギャルゲーの中でも、メインヒロインという座にあって、完全なる脇役に明々白々、その座を追われたという実に尾張の“織田リン”、美濃の“土岐っち”のようなキャラクタである訳なんです。
言わずと知れた、氷川菜織と伊藤乃絵美が、彼女をヒロインの座から引きずりおろした張本人。いや、これは私の趣向だけではありません。世の情勢、すべてをふまえた第三者論です。
真奈美は確かにつぼを押さえたキャラクタだったかも知れません。ただ、彼女のようなキャラクタは以前ならば良かったでしょう。しかし、時代は確実に動いているんです。菜織タイプや乃絵美にヒロインの座を追われてしまったのは、いわば時代の風潮。正統派のヒロイン像はもはや時代遅れだったのでしょうか。いやいや、そんなことはありません。ただ、何分PC版や、SSの第一シナリオで途中から伝奇ものになっていったのがまずかっただけです。たぶん。

氷川菜織編

▼真奈美を超えた、魅力の謎

その魅力を語るのは訳がない。容姿にこだわれば、巫女服にバッシュであるし、はねっ毛だし。外見だけで言うと実に嗜好度が高い。
性格もまたつぼを押さえていると思う。主人公に対し極度とも捉えられるほどの世話焼きで、姉さんぶる。その強気な性格に見え隠れするもろさ。つまりは主人公のことが好きでたまらないくせに、親友の相手(鳴瀬真奈美)に遠慮してしまう。
まあ、物語の途中にファンタジーになるならないを別にしたとしても、常に受身がちな真奈美に比べて、菜織の方がはるかに感情の起伏が多くて人間味にあふれている。ここも彼女のほうが人気強いことのひとつの証明。

▼走りつづける理由を… 学園恋愛ものとして見れば菜織がメイン

メインテーマは『絆』なのだが、前半あれほど盛り上がった主人公の陸上競技のさまざまな葛藤が、真奈美編のストーリーになると、後半全くかすんでしまう。当然といえば当然なのかもしれないが、初めのイメージを崩さずに物語を流すというのならば、菜織編だろう。ところどころ問題提起していた『走りつづける、理由』というのが菜織編のストーリーでは終始廃れることはなく、なかなかに巧妙なやり取りをしてくれる。イベントは多いが、心象の薄かった真奈美編。イベント自体は少ないが、心象が強かった菜織編。ここまで歴然とした差を見せつけられたギャルゲーは、類を見なかったような気がする。