歴史見解的美少女ゲームエッセイ

With you~みつめていたい~

寝た子を起こす? 鳴瀬真奈美タイプ

ここまで一途な女性はないだろう。
古今東西、すでに男女間の恋愛的天下は横転しつつある中で、かつ6年もの間緬国(ミャンマー)に居住している幼なじみの少女。
未練がましいは男の特権であり、主役を務める伊藤正樹が、人生目標化としている陸上短距離走のきっかけとなった、幼少時の別離は、子供心にすれば泣かせる。
二度と逢えぬと思いつつも、それが使命のように走りつづけることを止めない伊藤正樹は、ある意味素晴らしいし、別の意味をすれば、未練がましいのである。
まあ、後述の氷川菜織のようでもある異性の親友がなければ、さしもの源頼光も、『まさかり担いだ金太郎』こと坂田金時らの四天王を連れずには大江山の鬼退治は諦めただろうと言った感じか。
とにもかくにも鳴瀬真奈美が黄昏の校庭において唐突に正樹に抱きつかなければ、With You~みつめていたい~は始まらなかったのだ。
おかげでどうだ。氷川菜織はその場面を見た瞬間、自分の気持ちに気づいただろう。
真奈美はつくづく運が悪い。寝た子を起こすようなタイプと言える。後記を見ればよく判るかも。

玄奘が主役のハズなのに……

鳴瀬真奈美はいわば『西遊記』の玄奘三蔵(三蔵法師)なのです。いえ、孫悟空ではないです。皆さん、西遊記は三蔵法師こと玄奘が主役なのです。孫悟空ではないのですよ。
何が言いたいかというと、つまり、そう言うこと。With You~みつめていたい~も、鳴瀬真奈美が主人公なのです。
伊藤乃絵美や、氷川菜織は、あくまでサブキャラなんです。
あぁ。でも、なんか真奈美は驢馬に跨りながら、『月の砂漠を~♪』などと歌っていそうな気もします。主人公らしきインパクトはどこの砂に埋もれたのやら。
夏目雅子演じる三蔵は確かに綺麗であったが(俺はいったい何歳だ?)、ゴダイゴの主題歌である『モンキーマジック』にもあるように、……そうです。西遊記はやっぱり孫悟空なんです。ドラゴンボールに玄奘三蔵は出てきません。
と、言うようにいつしかWith You~みつめていたい~も、鳴瀬真奈美はヒロインの座にあって主役にあらず……なんでしょうね。どーしてだろうか?
ま、でも誰がなんと言おうと、私的には西遊記の主役は玄奘三蔵だと思っております。いえ、堺正章よりも夏目雅子の方がいいとは言ってませんって(笑)

時代が求めたヒロイン像 氷川菜織

素晴らしき逆転劇というわけではない。人によっては氷川菜織の様な女性を鬱陶しいと思うのも理の当然と言う訳なのであろう。
しかし正統派たるメインヒロイン・鳴瀬公を抑えて今だ転封の憂き目を見ずにギャルゲー界に隠然たる勢力を保つ、白河法皇的な院勢力は、彼女、氷川菜織ではないかとさえ思うのである。
一昔前までは、『女は男に尽くすもの』という儒教精神今だ冷めやらずと言った感じで、ドラマや小説等を垣間見ても、どちらかというと鳴瀬タイプが主流であり、菜織タイプはどちらかというと脇役となり強いてはヒロインを陥れうる悪役とさえなり得たのである。
いわば主人公正樹を執拗に世話をしたがり、奮起させるために貶す。With You~みつめていたい~をプレイされれば、彼女、理想の女性像とはこれいかに遠いかおわかりになるだろう。
だが、旧来の思想が変遷し、民主主義の根本・男女平等権が21世紀を迎える昨今、男性の脆弱さが露呈する中で、今世、必要なヒロインはまさしく氷川菜織のようなタイプなのであると思えてならないのである。

はかなく、もろく……強がりの隙間

強気な性格こそ、存外もろいものかも知れない。よくぞそう言ったものである。元来、気丈な女性というのは男心をくすぐる。言い過ぎかも知れぬが、氷川公のような女史は、英雄の征服欲を存分にかき立てる要素を持つ。
名を挙げればかのユーラシア大陸を席巻した、チンギス・ハーン。そして彼が一番に愛したと伝えられるクランという女性。クランはいわば菜織のようなタイプである。
クランも菜織も共通しているところ。まあ、そのままであるが『女性』と言うこと。
問題なのは、女性というのは存外強かで根性がある。だが、固いゆえにもろさがある。菜織もまた、しかり。どこかはかなくももろさがある。主人公操るプレイヤーは、自然と菜織寄りの選択肢を選ぶ。一番始めの項、『菜織りに傘を傾ける』これがあなたがチンギス・ハーンの心境と合う部分、いわば『漢』と書いて『おとこ』よ読む瞬間である。

With You~みつめていたい~ カクテルソフト Windows95/98 7800円 98.9.11

パッケージ添付のアンケート用紙に記入した原文
■With you~みつめていたい~プレイ感想ならびに意見

評価 S-A-B-C-D-E(個人的6段階 良←→悪)
シナリオ:S グラフィック:A 音楽:A ボイス:B ゲームバランス:S マニュアル:B
性的描写の必要性:C 感動度:S 共感度:A 総合:S

■『高恋愛』ゲームの真髄を見るようだ

私はゲームに関して基本的に「18禁」とか、「エロゲー」という呼び方が嫌いである。ストーリー性もなく、安易に性的描写の場面に移行するようなゲームはハッキリ言って論外であると思っている。
ただし、With you~みつめていたい~(以下、当作品)のような完璧なストーリーを備えていて、一部に性的描写を持つゲームを「高恋愛ゲーム」と自分勝手に名づけている。
他社の作品を持ち出して誠に申し訳ないが、『ときめきメモリアル』や『トゥルーラブストーリー』などの作品を「純恋愛」とするならば、当作品や、「同級生シリーズ」といった作品は、「高恋愛」と位置づけられる。
高恋愛のストーリーは、純恋愛ストーリーより一歩前に進んだ展開を見せる(つまり、性交渉のこと)。ゆえに、性交渉という、いわば当たり前の展開を運ぶためには、純恋愛ストーリーの数倍も説得力が必要であると考えているのである。
ストーリー性もなく、なまじ愛だ恋だと方便を乱発させて、複数の女性キャラクタを裸にするようなゲームは、高恋愛とは言えない。当作品のような完璧かつプレイヤーを感動させ、性交渉の場面に移ってもあまりエッチさを感じさせないようなストーリーこそ、高恋愛と言える。
純恋愛は、まさしく理想の固まりのような清らかなストーリーを展開させるが、高恋愛は純恋愛の理想を持ちながらも、自然の成り行き、当たり前さを持つために、どこか親しみさを感じる。言い換えれば、純恋愛は「高嶺の花」と言ったところだろうか。素人観念で申し訳ないが、草薙氏のシナリオには高恋愛の真髄を見ているような気がしてならない。
当作品をプレイするまでは、「同級生」シリーズに高恋愛の真髄を見ていたのだが、当作品をプレイして強烈なインスパイアを受けた。

■忘れかけている大切なこと

ストーリーの対象が二人のヒロイン「鳴瀬真奈美」と「氷川菜織」という二人のキャラクタに絞り、ほかの女性脇役たちはあくまで脇役に徹すると言った物語だとは、当作品情報収集の段階では信じられなかったというのが、正直な気持ちである。
だが、実際は本当に主人公やヒロインをもり立てる脇役に徹しているストーリーと知って、大いに賞賛を送りたい。半信半疑で購入したのだが、正解だった。
話は逸れたが、当作品のストーリーは、私が現在趣味で創作しているオリジナル小説の方向性に見事拍車をかけるストーリーであったこと。強烈なインスパイアを受けた理由はそこにある。
「幼なじみ」という、恋愛創作において一種の「王道」を、こうもストレートかつ、理想型ながらも現代人に訴えかけるような味付けに仕上げているゲームは、おそらく他に類がないだろうと思う。
「今、私たちが忘れかけている大切なことを思い出す」という、自身の創作観点を、当作品によってまた一歩、違ったものに切り替えられそうである。
「幼なじみ」が、幼少の頃の記憶をたどりながら、現在を生き、葛藤に悩み抜き、結果、未来を目指してゆく。なるほど、「幼なじみ」という設定には、昔を回顧するという考えもあるのかと、当たり前のようだが、改めて強く感じ入りさせられた。

■性的描写を省き、少年たちにも当作品を

性的描写の必要性として、評価をCと最も低くしたのは、別に性的描写に関する嫌悪感ではない。前述したが、当作品は「高恋愛ゲーム」である。内容がすばらしいゆえ、性的描写のシーンは違和感がなく、むしろプレーヤーを安心させる効果を生みだしていると言えよう。
ただ、こんなに完璧なストーリーを蓄えているのに、性的描写のシーンがあるがゆえに成年指定とされるには実にもったいなさ過ぎるのである。
私は自身のホームページで論じているのだが、「恋愛ゲームに裸はいらない」という観念がある。
すばらしいストーリーを持つ、「高恋愛ゲーム」は、成人のみが容認されるには惜しむべきものだ。
当作品は終章における性的描写がある。現在の法律上の関係、残念だがこの部分を脚色し、ぜひ全年齢に対照する作品をプレイステーションなどのHDに移植していただきたいと思っている。大切な心を失くしていった少年少女たちにも、恩恵を与えていただきたい。

何かと強い感銘を受けると、その思いというものをあらわすために、くどい文を書きたくなるのが私の悪い癖である。この文書を読み、気を悪くされたら申し訳ない。
 最後に貴社の以後の作品も、当作品のような「高恋愛」なゲームを期待する。
 提供して下されたスタッフ一同に対し、改めて感謝と激励を贈りたいと思う。
98'9/28

これはまさしく面白い作品だといえます。
18禁というのがネックなんですが、ストーリー性は抜群によろし。ちなみに購入したきっかけはストーリー性。18禁と名のつくゲームは外見性にこだわるものが多く、全くと言っていいほど興味がなかったわけであるが、同級生シリーズのように、芯のしっかりしたストーリーの流れから絡み場面に持ってゆくという話は、ビジュアル面を除いて恋愛バイブル、小説のネタ取りに最適であります。
ちなみにこうした幼なじみとか言う設定にはかなりグッと来るものがある。生来、そう言ったいきさつはないのであるが、子供の頃の想い出を忘れずにいられると言うことは、とても大切な感情ではないかと思っているので、洗練されたストーリーを持つ恋愛ゲームに当たると、かなり感動してしまう性質なんですね。

氷川 菜織

やっぱり僕としてのいちおしは彼女・氷川菜織でありますね。
実家が神社であり、巫女服を着て庭掃除のアルバイトをしているという陽気でちょっと気が強く、お節介焼き。小さな頃から真奈美に思いを寄せていた主人公・伊藤正樹の事をずっと励まして支えつづけていた彼女が、自分が正樹のことを好きだと気づいて、やがて葛藤する・・・などというストーリーは王道だが、やっぱり王道には正統派の感情移入が出来る。ストーリー終盤にはいると、すごくか弱い女性になっていて、ずっと泣きっぱなし。前半の陽気さはどこへやら(笑)
正樹との進展(菜織ストーリー)のきっかけとなるのは、ある賭けを二人で交わし、負けた方が勝った方の言うことを聞くということで、正樹の方が勝ったことからである。
二人がふれあっていくうちに、互いの本当の気持ちが明らかになって行くのだが、真奈美ストーリーと比べて現実感が満ちあふれているからすごくいい。

鳴瀬 真奈美

鳴瀬真奈美はお約束のメガネっ娘ですね。決して嫌いだというわけではないんですが、彼女のストーリーは、胸に提げているペンダントのいわく、ファンタスティックな展開を見せているので、今ひとつ現実感というものが伴いませんでした。ただ、両親の仕事上の関係で6年前にミャンマーに引っ越し、ひさしぶりに国に帰り正樹と再会したこと。絆が失われずに、ずっとお互いを思い合っていたという心境には純粋に共感していました。大切な気持ちを忘れずに・・・という私のテーマ要素のひとつとして、彼女のストーリーは大いによろしかったです。最後はまたこれが泣けてくるような展開でして、終了した後、即行で創作詞『You far away~走りつづけて~』を書き上げたほど。

チャムナ・フォン

脇役の一人チャムナ・フォンはミャンマー出身で、何処か謎めいた雰囲気を彷彿とさせるキャラクタです。真奈美ストーリーに大きく関与してくるわけですが、彼女の言った台詞のひとつ「自分の思いに正直に生きる・・・それって間違っているの?」には正しく私自身が追求するテーマのひとつだったので大きな衝撃を受けたわけです。
彼女のラストシーンは結構涙がちょちょ切れます。

田中 冴子

脇役の一人・田中冴子は絵に描いたような男勝りでスポーツマンであり、正樹の親友でもあります。ちょっと恋愛感情があるのかなあ・・・などと考えたりもしましたが、どうやらストーリーの流れを見ているとそんなことはないようでしたね。後輩から慕われるカリスマ性を持つ一方、強がり、猪突猛進タイプな単純さもあって美亜子からかわかわれたりしている姿には微笑ましくさえ感じてしまいます。お化けや幽霊が大の苦手。
私なりの解釈だが、彼女は爆笑問題の田中裕二なみのつっこみセンスを持っていそうで面白い。もしも相方・太田光なみのボケセンスがあったとしたならば、冴子と夫婦漫才でもしたいなあと、ちょっと考えたりしたものです。

信楽 美亜子

脇役の一人・信楽美亜子は新聞部のカメラマン記者という肩書きを持ち、常に特ダネを求めて走り回っているそうだ。
彼女の人間性は以前の私であったら嫌っていたでしょう。何事もプラス思考で明朗活発。ムードメーカーとはまさしく彼女のようなキャラクタを言うのでしょうね。友人として遊びに誘えば絶対ついてきてくれる感じがするし、こう見えて実は芯がしっかりとしたキャラクターだと感じます。決して八方美人というわけではなく、自分を飾らず、ありのままに生きている・・・常に正直な性格。ゆえに人から好かれるのでしょう。冴子の事をからかうのが好きなようだが、なんだかんだと言って結構いいコンビである。
この手のキャラクタは恋人と言うよりも、よき親友としてつき合いたいものだと感じました。

柴崎 拓也

これも必ず恋愛ものにはつきものの三高の「いい男」。彼、柴崎拓也はなかなかいい味を出しています。ヒロイン・鳴瀬真奈美にモーションをかけつづけ、結局はそれ叶わず。いい男の王道を行く正樹のライバル。
しかし、彼は意外と純粋さも持っているようです。昔のようにいやな性格一筋はもはや通用しないのか、登場の最後あたりでは本当の愛に目覚めてハッピーエンドとなります。少なくとも同級生の相原健二、2の西御寺有朋よりはずっとましなキャラクターだと思っています。

伊藤 乃絵美

正樹の妹・乃絵美は絵に描いたような薄幸の美少女系を貫徹されている。病弱で優しい兄貴にいつも支えられてきたという。そして、理想の男性像は兄正樹。菜織や真奈美のことも姉のように慕っているという健気で純粋な、本当に理想の兄妹像を映し出されている感じがします。
当初は意外と活躍してくれるのかなあと思っていたんですが、そのあまりにもおとなしすぎる性格のためか、印象にはあまり残ることがなかったようです。薄幸の美少女系に感情移入される方にとっては、やや彼女の存在は薄味かなって感じですね。まあ、それがいいという方もきっといるでしょうが(笑)

天都 みちる

担任教師・天都(あまみや)みちるの初登場は美術展会場。妙な明るさとミステリアスなことを言いながら正樹たちに近づいてくる。いかにも怪しい闇の組織員風な感じを受けたのだが、何々、実はすごくいい人だった(笑)真奈美ストーリーで活躍。
そう言えばこのストーリー、悪人っていないんですよね。むさ苦しい、いかにも怪しいと思わせる刑事も真奈美に対しねちっこく嫌みたらたらなひねくれ親父かと思ったが、終盤になってスチュワーデス物語(ふ・・・古い!)の石立鉄男よろしくすごくいい人だったみたいな感じだったし。
それはそうとして、現実に天都先生のような美人教師っているんですか?

橋本 まさし

正樹が所属する陸上部主将・橋本まさしは、真奈美・菜織両ストーリーで結構活躍してくれているのに、別グラフィックがひとつもない、別の意味でかわいそうな男性キャラクターであります。だからいつもスポーツタオルをぶら下げて腕組みをしている姿しか想像できない(笑)
さすが人格者らしく、正樹のことを先輩として心配し、よきアドバイスをしてくれる、典型的「いい人」でした。ちなみに妹は冴子の追っかけをしているらしい。先輩は大の妹思いである。
真奈美ストーリーでは主人公と大会の代表選手の座を賭けて対戦。「お前は、お前が走る理由のために走れ」そう正樹に叱咤激励する姿、かっこいいですよ。腕組みをしながら今日もまた後輩を案じているのだろう。菜織ストーリーではちょっと菜織との絡みがあったりするが、全然爽やかさを失わない。いいです。その前にこんな先輩がいたら、その部はきっと全国トップクラスの力を持つでしょうね。