壮大な結婚式が終わり、夜通しの祝賀もいつしか夏至の朝霞に静まり返る。
絶え間なく酒のボトルを傾けてくる人々の祝いを受けていたリュカに、ゆっくりと語らう時間はなかなか訪れなかった。
ヘンリーの揶揄を受け、彼が賢妻マリアの制裁を受けたところまでは憶えていた。しかし、その後、どうやってルドマンが用意してくれたフローラとの新居に移り、ベットに横になったのかまるでわからない。
ただひとつだけ確かなことは、隣に眠る碧髪の美少女・フローラが自分の妻となり、これから終生の伴侶として共に同じ道を歩み、支え合ってゆくと言う事だった。
(……すうすう……)
安らかな寝息を立てる妻をリュカは見つめる。安心しきった表情を、淡い朝陽が照らす。
リュカの胸に愛おしさがこみ上げる。
ビアンカとの再会に揺れた気持ち。でも、リュカは今を信じた。今を、そして未来を信じてフローラを選んだ。
後悔はしていない。いや、するはずがないのだ。
「素直な気持ちで、僕は人を愛することの意味を知ることが出来たんだ――――。
初めて見た時から……僕は君を愛した。誰にも、渡したくないって、そう心の底から思ったんだ――――」
運命という河の流れが、本当にあるとするならば、フローラはきっと、リュカが彷徨い続けた霧中の舟に、一条の光輝と青空を与え、安らぎの岸辺に導いた、女神そのものだった。
リュカは窓辺に立ち、朝影を胸一杯に吸い込む。新たな旅立ちに熱く高鳴る胸を心地よい冷たさが染みる。
「フローラ……僕は、君がこの先いつの日か、僕と結婚して本当に良かったって、そう思ってくれるような夫(おとこ)でありたい……」
リュカの声が震える。愛おしさとこの上ない幸福感が泪(なみだ)を誘った。
「何もいらない……フローラ、君をずっと、ずっと守りたい――――」
すっ――――
リュカの背中に触れる可憐な手。そして柔らかな頬。
「リュカさん――――いいえ、あなた……」
心安らぐ天使のような聲が、奏でる夫婦の呼び名。
「私……倖せです……あなたに、そう思ってくれるだけで……倖せです……」
フローラの胸にも、万感の想いが去来したのだろう。倖せという言葉が、たった今歩き始めたばかりの若い夫婦の、何よりも強い絆となった。
生まれたばかりの、小さな幸福
これから紡いでゆく、二人の未来……
君と出逢えたこの奇蹟を、ずっと信じよう――――
そっと重なる唇。二人のシルエットを、朝陽はいつまでもいつまでも映していた。