第1部 英雄関雎
第17章 君の愛し方

 リュカはフローラとの同衾について、少しだけ無頓着な部分があった。
 それが時として“愛してくれない”という不安に駆られることもあるが、リュカは旅先ですれ違う他の男たちのように、下心を秘めた目線で見つめたりはしない。
 夫婦だから当然とは言うが、フローラと身体を重ねることに対して、時には激しくもするが、そうではない時の方が多いと言うだけだった。清純可憐な心象のフローラを、リュカはいつも気遣っている。リュカは深く愛すればこそ、フローラを壊してしまうような情慾を懐くことはなかった。
「はぁ……はぁ……」
 溢れ来る情慾をすんでの所で堪えているフローラの火照った細い両手が、超深眠呪文(ラリホーマ)にかかったように眠っている良人の頬をそっと挟む。
「起きて……ください……」
「……………………」
 その呼びかけに彼の応えは、すっと伸びた眉毛がわずかに揺らいだだけのものだった。
「意地悪――――」
 フローラは一瞬、眉を顰めると、微かに開いた良人の唇に唇を重ねた。
「んん……んふっ――――」
 フローラの愛らしい舌が無防備なリュカの中に侵入する。少しだけつんと酒精の味がした。
「ん――――……」
 フローラの舌に反応して、リュカの舌もわずかに動く。しかし、依然としてそれに応えず反撃もせず、ただ一方的にフローラの空爆を受けているだけだった。
「あぁ……んんっ」
 ちゅ……ちゅく……ちゅ……
 執拗に、フローラはリュカの唇を塞ぎ、唾液を流し込む。キスをするだけで、フローラのテンションは高くなって行く。
 しかし、リュカは時々無意識に深呼吸をし、寝返りを打とうとするだけだった。
 やがて長い空爆を終え、唇を離し、良人の寝顔を真上から見下ろす。
 青い髪がさらりと垂れ、銀の糸が、フローラの舌の先からまっすぐ、リュカの唇に絡み、青と銀の星屑を鏤めた。
「…………」
 フローラはふと視線を下の方に移す。リュカは普段、紫の外套の下に鞣(なめしがわ)の貫筒衣を纏っているだけだが、今はさすがにそれも脱ぎ、簡素な綿のアンダーウェア姿でいた。 野宿が多い旅の途では外套すら脱ぐことも稀だ。シーツのある寝室くらいは、服を脱ぎ捨ててゆっくりと眠りたいと思うだろう。
 どんなことをしても起きない。安心感がリュカを深い眠りの淵に落としている。
 しかし、それでもフローラの身体の火照りは鎮まりそうにはなかった。
 むしろ、そんなにも安らかに眠り続けている良人に、瞋恚の感情すら懐く。
 リュカの腰に、フローラは目が留まった。微かに、そこは隆起しているように見えた。
「…………」
 不意に、先ほどの光景が脳裏を過ぎった。
 マリアが愛おしそうに、ヘンリーの物を銜えている姿。フローラはぽうっと顔を紅潮させ、目を背ける。
 しかし、自分の奥深くに潜む淫欲が蠢動し、逡巡しながら再び、リュカの中心にその美しい瞳を向ける。
 胸の鼓動が高鳴り、口の中に濃い唾液が分泌されてゆく。
 それはさながら、沙漠を彷徨う旅人が沃地(オアシス)を、孩(ちのみご)が母の乳房を求めるかのように、自分自身がこんなにも烈しく愛欲を求める性格であったことへの驚きと、これから求めしようとしている事への戸惑いと恐怖。
 フローラは呼吸が小刻みに震え、寒くもないのに、わずかにその絹のような白い肌に不相応なほどに毳立つ。
 こくんと、口に溜まった唾液を呑み込む。
 そして、フローラの奥に潜む性蠱は、リュカの愛によって汚れを知らぬ美しく華奢な手を、ゆっくりと、その愛の源へと導いてゆく。
「………っ…………」
 指先が、リュカに触れた。その瞬間、微弱な電流を与えたかのように、リュカの身体が少しだけ緊縮する。
「あ……」
 驚いてすぐに離したフローラが、再びゆっくりと指を近づける。
 男のその部分は、生理現象に重ねて若さもあってか、幾分盛り上がっていた。フローラはまるでこわれ物を扱うかのように、そっと人差し指、中指と、アンダーの上から触れてゆく。
「…………」
 再び、リュカが身動いだ。その動きで、フローラの掌にリュカのものが重なる。
「こ……れが……リュカさ……んの――――」
 声が嗄れる。掌に触れたそれは、熱く、どこかしか蒸れているような感じがした。そして、確実に肌とは違う柔らかさ。
 フローラは思わず目を瞠って掌を見る。
 何度も自分の秘所に受け入れてきたリュカ自身。しかし、今こうしてじっくりとその部分を目の当たりにして触れたことなど、記憶にない。
 いつもはリュカの力強く、優しい愛撫に身を委ね、愛と快楽の波に身を漂わせるばかりだった。
 そんな良人の未知なる部分、自分に愛おしい人の情を感じさせてくれる砲台を、フローラは見つめ、触れていた。
 すっ――――
 フローラの掌がスライドする。
「ん……」
 リュカが一瞬、弱い声を上げる。
「…………」
 再び、掌がこすれた。その瞬間だった。
 リュカのものはまるで火山のマグマが盛り上がるかのようにむくむくと膨れあがり、アンダーを押し上げてゆく。
「あ――――――――!」
 思わず、フローラが声を上げて手を離した。屹立したリュカの部分を、フローラはぱちぱちと目を瞬かせて見つめる。
 まるで別の生き物に触れるかのように、おそるおそるフローラは指を近づける。
「硬い……」
 何故か、フローラの表情は緩んでいた。それは知っている感触だった。
「リュカさん…………」
「……んん――――」
 フローラが呼びかけると、リュカは二度ほど呻るも、起きる気配はなく、身体を捩ろうとした。しかし、フローラの手が小さな壁となって寝返りは打てず、同じ体勢に落ち着く。
 フローラはそっと、リュカのものを掌に包み込むと、良人の寝顔を見つめながら、少しずつ、掌を動かし始めた。
 しゅ……しゅ……
 アンダーの衣擦れ。フローラの白く細い指が、リュカの部分に絡みついている。
「うぅ……」
 寝息が小さな呻き声にかわる。軌道に乗るかのように、フローラの掌はぎこちなくもリュカをアンダーの上から確実に擦り上げていた。
「あ……あなた――――」
 フローラは恍惚とした瞳を彷徨わせながら、持て余したもうひとつの手を再び自分の秘壺に滑り込ませる。
「う――――――――ん……」
 フローラの刺激に、リュカのものは更に大きく、硬くなっていく。そして、リュカの寝顔と寝息が安眠から苦しそうなものに変わると、フローラは驚いて自らを慰める手を離した。きらきらと光る愛液が、絡んだ。
「苦しいの……?」
 フローラはそれでも目覚めないリュカが少しだけ可哀想に思えた。リュカのアンダーはもう破れてしまうかと思うほどにぱんぱんに盛り上がっている。
「……脱がせましょうか――――」
 誰に尋ねるわけでもなかった。フローラは高まる情慾の助けもあって、リュカのアンダーを下げることに躊躇いを感じることは少なかった。
 リュカの太腿はがっちりしているが、奇麗な形をしている。滑るように、アンダーは落ちてゆく。
 そしてその直後、束縛から解放されたリュカ自身が、天を衝くかのように硬く屹立し、フローラの前にさらけ出た。
「こ……こんな……」
 フローラは一瞬、目の前が眩んだ。男性自身を直接目の当たりにしたのはこれが初めてである。
 リュカのものがどれ程のものなのか、較べようがないが、自分の秘壺にこんなものが入るのかと思うほどに、それは立派に見えた。
「リュカさん……すごい……」
 フローラは再び、今度は直接男芯に指を触れた。灼けた鉄を握るかのような熱さ。絡めると、びくびくとリュカの血潮が脈打つ様が伝わってくる。
 じっくりと眺めると、それはリュカのイメージとは確実に乖離したグロテスクなものであった。まるでそこだけが別の生物かのような物体。脈打ち、微かに蠢き、錆色に近い褐色。
「…………」
 くち……
 恐怖心と言うよりも、興味が先行していた。フローラが息を呑み、軽くその錆色の鉄棒を覆っていた皮膚を擦ると、粘っこい音がまるで声のように響く。
「うぅ……」
 躰芯から発せられる快感に、無意識にリュカが呻き、ぴくんと身体が強張る。
 フローラは食い入るように男芯を見る。触れるとそれ自体、そしてリュカ自身も切なげな反応をする。それが、フローラの中にあった恐怖心を好奇心にトランスさせた。
 くちっ……ずりゅ……
 今度は両手でそれを包み込み、上下に擦ってみた。淫音が響き、それをくり返すだけで、何故かフローラも徐々に恍惚となってくる。
「はぁ……あぁ……」
「うぅ、う――――――――ん……」
 リュカの先端がしっとりと濡れてきた。それが伝い、更に滑らかになる。
 ふと、フローラはマリアの行為を思い出す。
 愛おしそうに、至福な表情を浮かべて……。
 フローラは澄んだ瞳をリュカの怒張に集中させた。
(ヘンリーさん……すごく気持ちよさそうだったわ――――。リュカさんも、そうなのかしら……)
 そう思ったのも束の間、フローラは自然にゆっくりと顔をリュカの股間に近づけていた。
「……!」
 しかし一瞬、フローラは顔を背けそうになった。
 近づけただけで男性特有の強烈な臭いが、フローラの嗅覚を襲ったのだ。噎せかけて、堪えた。
「……そんな……」
 フローラは戸惑った。いかにリュカのものだとはいえ、この強烈な臭いのものを口に入れるのは抵抗が強かった。
(……でも……でもマリアさんは……。ヘンリーさんはあんなに悦んで……)
 フローラの中で消えかけていた男芯に対する恐怖感が再び惹起する。
 そっと握りながら、リュカであって、リュカではないそれが、フローラを狙うようにそそり立っているように思えた。
(でも……リュカさんが気持ちいいなら……)

 眠っているリュカ。本当ならばここで止めてしまえばいいと思った。そうすれば、リュカはフローラがこんな事をしているなど、何も知らずに済む。
 フローラ自身も、怖じ気づいたならばここで止め、明日からまたいつものように夜毎リュカの愛撫を受け、若き性欲を満たす日々にすればいいはずだった。
 だが、フローラはそれがいやだった。
 眠りながらも苦しそうにしている良人。無意識に、リュカは美しい妻が施す性技に欲望を満たしたいと思っているのだと思った。かちかちに硬くなり、フローラの白魚のような美しい指に絡められている男芯がそれを訴えているように何となく思えた。
 そして、フローラは意を決した。
 息を押し殺し、躊躇いがちに唇を男芯に近づける。リュカの褐色の先端が、フローラの花弁のような唇を求めていた。
 ちゅ……
 先端に、唇が触れた。
「うぅ……!」
 リュカの瞼が動いた。さすがに、波動のように押し寄せる快感に、深い眠りから押し戻されるかのように、意識の浮揚を感じる。
 ちゅ……ちゅる……
 ゆっくりと、フローラの唇が開き、リュカのものがフローラの唇の中に沈みかかる。
「……っ」
 臭いと、何とも言えぬ味に、フローラは噎せ、吐りかけた。押し寄せる悪寒、痺れを、フローラは懸命に堪えて、怒棒を呑み込もうとする。
 その時だった。
「……! ふ、フローラッ?」
 リュカが目覚めた。下腹部から押し寄せる甘い痺れに、遂にリュカの意識は戻った。
「!」
 良人の声に驚き、フローラは思わず身を離し顔を背ける。
「うっ……ごほっ、ごほっ」
 堪えていた悪心を解き放つフローラ。咳き込み、少しだけ、胃液をこぼした。
「な、何を……」
 リュカは愕然となって自分の下半身を見る。むき出しになった男芯。そして、半裸の妻。
「フローラ……まさか……」
「ご……ごめんなさい――――」
 咳き込む中で、フローラは謝罪する。リュカは何が起こっていたのか、瞬時に覚る。男芯からまるで余波のように、甘い感触がじんと伝わってきたからだ。
「フローラ……」
 リュカは上体を起こし、背を向けるフローラの肩に手を添えた。
 ぴくんと肩を竦めるフローラ。罪悪感が、彼女の心を蝕む。
「…………」
 フローラはその直後、リュカの激昂を打ち込まれるかと思った。しかし、リュカは身を縮ませる妻をぐいと引き寄せた。
「あっ……ん……!」
 良人の胸に引き寄せられたフローラの唇に、リュカは半ば強引に唇を重ねて舌をねじ込んだ。
 くちゅ……くちくち……
 舌を絡め合い、そのままリュカは舌を使ってフローラの唇を舐め、胃液の跡をなぞった。
 涙目のフローラ、じっと良人を見つめている。
「無理するな、フローラ。……そんなことしなくても、僕は君と愛し合えるだけで、幸せなんだって」
 リュカはそう囁いて微笑むと、フローラの首筋に舌を這わせる。
「あぁ……あなた……でも……でも私――――」
「ん――――?」
 舌の愛撫を中断したリュカに、フローラは経緯を簡単に言った。
 リュカはくすくすと笑うと、フローラの唇、そして瞳や耳朶にキスの雨、そして舌の跡を刻みつける。
「あの二人に出来ることがあるなら……僕らには、僕らの愛し方ってものが、あるだろ?」
「……でも……」
 フローラは寂しげに睫を伏せる。
 リュカは少し思いを巡らせてから優しい微笑みを向けると、フローラの美しい髪を撫でながらそれにキスをし、耳元に囁く。
「――――胸を見せて。……フローラの、奇麗な胸が見たい……」
「え……?」
 予想にもしていない要求に、フローラは驚く。
「胸……ですか? いつも、見慣れているのに……?」
 リュカは頷く。
 フローラは凭れていたリュカからそっと身を起こし、おずおずとビスチェを外す。
 フローラの上半身が裸になった。
「な、なんだかは……恥ずかしいですわ」
 改めてそんなことを言われるとそう思ってしまう。
 リュカは再びそっとフローラを抱き寄せ、背後からフローラの胸に手を這わせる。
 豊満な乳房……と言っては少しだけ語弊がある。
 決して大きすぎもせず、かといって小さすぎでもない。精巧に作られたヴィーナスの彫刻か白磁の様な抜群の形。
 それでいて、普段のドレス姿よりも大きい双丘、その先に控え目に立つ、小さくて鮮やかな桃色の蕾。フローラの胸は、良い意味で矛盾に満ちた美乳そのものである。
 リュカは手の力が抜けてしまいそうなほどに絶妙なフローラの乳房を揉みながら、既につんと立っている蕾を弄る。
「あぁん……いい……。胸が……胸が気持ち……いいです……」
「ねえフローラ。ひとつ、お願いしてもいいかな?」
 胸のまろみを飽きることなく堪能しながら、リュカが言う。
「んんぅ……はぃぃ……」
「僕のものを……フローラの胸で――――」
 リュカの言葉に、フローラはとろんとした瞳を向けた。

 寝台に腰掛けるリュカ。彼の太股の間に跪くフローラの生白く輝くシルエットが浮かぶ。
「うっ…………」
「ん…………」
 躰芯からこみ上げてくる柔らかく、温かな刺激にリュカは息を荒げ、顔を仰け反らせる。
 フローラはリュカの望み通りに、体勢を変えていた。
 羞恥と困惑、安堵、好奇。清楚可憐なフローラの混淆としたその仕種が、実にアンバランスな色気を発し、その艶冶とした姿にリュカ自身もフローラに遅ればせ、気を高ぶらせる。
 フローラはリュカの太腿の間に膝を折ると、美しい双丘を両手で寄せ、ようやく目立つほどの谷間に、リュカ自身を宛がったのだ。
「うう……いい……すごくいい!」
 芯から得も言われぬ快感が駆け抜け、リュカを思わず悶えさせた。
 濡れた蜜壺に突き刺し、フローラの中で搾りあげられる獣欲の感触、フローラの手に触れられる、意識的に強弱の調整がつく快感。そしてフローラが無理をしようとした、唇での愛撫。そんなものとは格段に違う、フローラの胸。
「ん……んんっ……」
 リュカのものを挟むだけのフローラ。それだけで、じんと身体が熱くなる。
「そのまま、動いて。上下に……擦ってみて……」
 リュカの言葉に、フローラは頷く。言う通りに、ゆっくりと上体を動かす。
 しゅ……しゅ……
 若く瑞々しい、弾力のある乳房は幾度もリュカの硬直をはね除けようとする。そのたびに、フローラは慌てるように胸に繋ぎ直す。その不器用さに、フローラは半ば慌ててはにかみ、リュカはそんな献身的な妻を愛しいと思う。
「んっ……んぁっ……」
 しゅ……しゅ……しゅ…………
 リュカをしごきながら、ぞくぞくと痺れが走り、甘い声が上がる。
 リュカの男芯からは、フローラの精美なる肌の毛穴の隆起や、きめ細かい凹凸の刺激とともに、フローラの行為の温かさが絶え間なく脳髄に伝えられてゆく。
「あぁ……。き、気持ち……良いですか……あなた……」
 顎を上げ、下からリュカを切ない表情で見つめつづけるフローラ。その艶めかしさに、リュカは目が眩むようだった。
「いい……フローラの胸……すごく気持ちがいいよ……気持ちよすぎて…………!」
 びくびくと、フローラの乳房に律動が伝わった。リュカが唇を噛みしめ、太股に力を込める。「あなた……?」
「だめだっ」
 驚き、離れようとするフローラをまっ先に制止するリュカ。
「続けて……。頼む……続けて……」
 堪えるように歯ぎしりをし、それでも優しい微笑みをフローラに向けるリュカ。
「いきそうだ……。フローラの胸で……いい?」
「あ…………」
 ぽうっと赤くなるフローラ。わずかに睫を伏せると、こくんと頷き、再び美乳を両手で寄せた。
 リュカが気持ちよくなってくれている。それだけで、フローラは心が軽くなって行くのだ。
「あぅぅ……くっ」
「んん……あ、あん……」
 リュカの堪え悶える表情を、フローラは恍惚とした、半開きの瞳で捉えて放さない。リュカが呻くたびに、フローラもまた身体の芯から甘い波動が発する。
 しゅ…しゅ…ぽふっ……ぱふっ……
 リュカの脈打つ怒棒が、深く柔らかく、それでいて弾む瑞々しい白の谷間から覗き、また埋もれる。フローラの律動が徐々に早くなるたびに、得も言われぬ摩擦によって発生された甘い電流が、やがてリュカの中心を強く撃ち抜いた。
「うああぁ――――フローラッ!」
 その瞬間、リュカは両手でフローラの頭を鷲掴み、背中が弓なりに反り、大きく口を開けて唇を噛んだ。
「えっ……あぁっ!」
 気づいた時は遅かった。

 どくっ……どくどくっ!

 若い男の濃く軟らかい欲望の塊が、先端から飛び散り、フローラの美しい貌や胸元を汚した。
「…………」
 蒸れた夏草の様な強烈な臭いが瞬く間に寝室に広がる。
 飛び散ったリュカの精は、呆然としているフローラの頬や顎、そして一部が眦の近くまで飛散し、白い胸に小さな水溜まりを作っていた。
「ご、ごめん……」
 リュカはゆっくりと、指でフローラの貌を汚した白濁を掬う。
「…………」
 しばらくの間、フローラはとろんとした瞳のまま、リュカから浴びた熱い液を感じている。
「采女の仕事、増やしてしまうな」
 そんな冗談を言いながら、リュカはシーツに指をなぞった。
「フローラ……」
 リュカの呼びかけに、フローラはようやく焦点が合う。
「あなた……。そ、その……こ、こんなことで――――」
 そこはかとなく、怯えた感じに見えた。リュカはくすと優しく微笑みながら、頷いた。
「当たり前じゃないか。フローラの胸でしてもらえて、すごく嬉しいし、気持ちよかったよ……。だから、ほら――――」
 そう言ってリュカはフローラを抱き上げ、頬に残っていた白濁を舐める。
「あ――――」
「耐えきれなかった。君の貌を汚してしまうなんて……」
 見つめ合う二人。フローラはほっと息をつきながらも、すぐに羞じらいを強めて瞳を伏せる。
「だ、大丈夫です……。それよりも、良かった。あなたが気持ちよくなってくれて……」
「ははっ。実は、ずっと君にしてもらいたかったんだ。これ――――」
 萎えかけたリュカ自身。その理性の間、少しだけ、戯けてみた。
「そうでしたの?」
 真に受けとられ、今度はリュカが真っ赤になる。
「うふふ……あなたが気持ち良くなってくれるなら、これからもして差し上げますわね」
 リュカに凭れながら、フローラはそう言って微笑む。
「あは――――。本当、良かったよ。何よりも」
「え……? 何よりも?」
 こくんとリュカが頷く。
「フローラ。君が気持ちよくならなければ、僕も気持ちよくならない。君が無理しても、僕は嬉しくないよ」
「……あなた……」
「僕はフローラ、君を愛している。だから、無理はするな。ゆっくり、楽しもうよ」
 するとフローラは瞳を潤ませ、リュカに身を擦りつける。
「ああ、リュカさん……。私もリュカさんを愛しています――――リュカさんの……」
 しかし直後、フローラの唇はリュカに覆い塞がれ、舌が烈しく絡み合い言葉は掻き消された。
「んんっ……ん……ぷはあっ……」
 驚き、少しだけ責めるような瞳を良人に向けるフローラ。リュカは言った。
「こんな時くらい、さんづけはダメ。いいだろ?」
 するとフローラは嬉しそうに、そして恥ずかしそうに逡巡し、こくんと小さく頷いた。
「言ってごらん……フローラ」
「はい……。リュ……リュカ……あい……愛して……います――――」
 その瞬間、リュカのものが急速充電された。フローラの内股に、硬直が当たる。
「あ……また……」
 少しだけ脚を広げるフローラ。細く美しいラインが伸びる、太股の付け根の間に、充血したリュカのものがぴょんと屹立した。
「今度は……僕が君にお返しだ」