ラマルカスを発ったその日の夜。海はなだらかでストレンジャー号の揺れもいつになく少ない。
久しぶりの潮風が実に心地よく、リュカは二階の船室に備えられているヴェランダに佇み、星月を眺めていた。陽が沈み、昇りかけの月は、沙漠で見た時の色とは違って、見慣れた、白い色をしている。
「あなた、どうかなさいましたの?」
「ん、いや。ただ、ぼうっと空をね……」
「まあ。うふふ」
さも自然に、フローラは良人の傍に立つ。長い髪が、海風に靡いた。
海洋とはいえ、やはり南の地はどこか暑い。
フローラも、沙漠の乾いた高温から脱し、そこと較べれば気温はぐんと下がったのだろうが、湿度がその実感を良く遠ざけてくれていた。
夜番はテルパドール留守組のプックルとイエッタたち。リュカやフローラとはいえ、決められた順序はしっかりと守る。余程危急ではない限り、夜間の海洋魔族との戦闘は、夜番が行うことになっているのだ。
故にフローラも、いつものしっかりとしたドレスではなく、ラフな夏用の生地が薄い白色のワンピースを纏っていた。袖が短く、胸元もはしたなくない程度に開き、しかし脚だけははだけないようにと、スカートの裾はしっかりと長い。きっと、ルドマンが送ってきた衣服の中にあったものだろう。
「あ、やはりこの服は軽過ぎでしょうか」
リュカはあまり見慣れぬ妻の“普段着”に、思わず魅入っていたようだった。良人に熱く見つめられ、フローラは顔を赤くする。
「そんなことはないよ。……ただ――――」
「ただ?」
リュカはそっと触れるように、フローラの手に手を重ねる。
――――もしも、君が僕と出逢っていなかったら……きっと、普通に色々楽しいこともあって、苦しいことも、窮屈なこともなくて、人並みの幸せがあったんじゃないかなって……。
そんなリュカの言葉に、フローラはすっ……と、リュカの手を解き、その手を自らの胸に当てた。そして、少しだけ棘の立つ口調で言う。
「何故……、そのようなことを言うの?」
思わず、リュカは妻の瞳を見た。月光を含んでいるとはいえ、いつもより少しだけ奥深く黯い瞳。真一文字に結ばれた薄紅の唇が、フローラの心情を良く表していた。
だが、リュカは解っていた。そんな気遣いが、フローラの最も嫌うべきところだということを。
リュカは瞼を伏せた。合戦に及ぶ前に、早々に敗北宣言を発した、愚鈍なる将軍のように、情けなく羞恥に顔を赤くし、肩を竦ませる。
「言うと……君に軽蔑されるから……」
「そ、そのようなこと――――どうぞ、おっしゃって!」
フローラの口調から伝わる。彼女は本気で怒っていた。
リュカはぎりぎりまで逡巡したが、フローラの気に圧され、身を数歩退き、大きく深呼吸をしてから、それでもなお、声を潜ませて言った。
「君の……君のその普段着姿が斬新でッ、……その――――あ、あまりにも……か、可愛くて…………その……くっ……」
声を潜ませているのに、声が裏返る。情けなかった。
「……あなた…………」
フローラの鬼気が瞬間、霧消してゆく。リュカは視線を向けようとはしない。
「はぁ――――――――」
リュカは大きくため息をつき、わざとフローラから数歩離れ、縁に凭れ、月光を細かい宝石の粒に砕く海面を見つめる。
まるでサラボナの街の道具屋の夫婦のような、冴えないぐうたら亭主のような装いのリュカだった。
「僕は……僕は――――ッ。わかるかい。それが君が本来、成すべき身形。……それなのに……僕は――――」
リュカは必至に堪えようとしていた。しかし、フローラはすっかりと毒気が去り、リュカの意を酌み取ったかのように、ゆっくりと良人の胸に身を寄せ、その瞳を見上げた。
頗る潤んだ、フローラの大きな瞳。見慣れたドレス姿の、たおやかだが強い女性。
それが、身に纏っている衣服が少し違うだけで、随分と雰囲気が変わる。
細く滑らかな人差し指がリュカの唇に当てられる。
「成すべき身形なんて……、決めつけてもらっては困りますわ」
「え……。フローラ……?」
フローラはゆっくりとリュカの唇をなぞると、それを自らの唇に当て、薄く睫を伏せた。
――――魔族擾乱の昔、さる国の王女さまは、厳粛で気高い麗装を身に纏っても、闘志に満ちたその猛き魂を隠せず。
魔大公に深く愛されたエルフの娘は、襤褸を身に纏っても、宝石の涙を流すと言われた、その美しさを隠せなかったのです。
「…………」
「成すべき身形なんて、たとえこの世の誰よりも愛する人の言葉だとて及ばないもの……。私は、あなたの傍にいて、あなたと共にこうして旅をすることこそ、本来の自分と心得ておりますわ」
フローラは睫を上げ、再びリュカを見つめて微笑んだ。心なしか、頬に奔る朱を隠そうと、力んでいるような感じさえある。
「……それに……。このような普段着でも……あなたの琴線に触れる事が出来るなんて……。どうしてでしょう……。嬉しいのに……恥ずかしい…………」
肩を竦め、フローラは顔を僅かに逸らす。
「……ねえ、あなた?」
「ん?」
「パパスお義父さまが、グランヴァニアの至上でしたのならば、あなたは、王子さま……。もし……、もしもグランヴァニアに辿り着いて、今までのあなたでなくなったとしても…………私は…………私は、あなたをずっと、ずっと愛しておりますわ」
心なしか、怯えるような声だった。リュカは小さく笑い、優しく、答える。
――――父さんが、どんな地位にあったかなんて、僕にとってはどうでもいい。
確かなのは、智勇に優れて、海のように心が広くて、優しさと厳しさを兼ね備えた、尊敬すべき父さんも、やっぱり一人の男性だったということ。
僕は、そんな“パパス”の息子なんだ。
……グランヴァニアに行って、たとえどんなことになっても、僕は……フローラ、君を離さない。君だけを愛してる。
「嬉しい……。そう言ってくれるだけで、気持ちがすうっと、軽くなるの。……私、たとえどんなことが待ち受けていたとしても、生涯、あなたについて行きます……ううん、違うわ。あなたの隣を、歩いてゆきたい」
「ああ。まさに君のことを、賢妻というのだろう」
リュカは屈託無く、微笑みを妻に向けた。その笑みの裏に、身体を求めるような、熱い欲気を感じさせない。純粋にリュカは、フローラをそう思った。
「…………」
しかし、そんなリュカにフローラの方が強く心を打たれ、揺り動かされた。そして、その響きはぞくぞくとなるような甘い疼きと共に、フローラの目頭を熱くする。
「どうした、フロー……」
宝石の欠片を瞳に湛え、驚くリュカ。しかし、名前を呼ぶ前に一瞬早く、フローラの白く華奢な腕がリュカの首に絡まり、熱く、良い香りのする息と共に、リュカの唇は塞がれていた。
「んん……」
上からのし掛かるようにフローラはその愛らしい舌を激しくリュカの口の中で躍らせる。驚き、思わず逃れるリュカの舌を追い、捉えて絡みつく。突然の甘美なる奇襲に、さしものリュカも脚に力が入らなかった。
「!」
リュカは床に仰向けに倒れ、フローラもまた、折り重なるようになる。
「フローラ……?」
月がまさしく女神に隠れるようだ。
フローラは身をどかそうともせず、両手でリュカの頬や額をそっと綴り、言葉なく、ただ熱く切なげに、再び唇を重ねる。碧く長い髪がそれを隠すかのように、色っぽく床に垂れる。
それはまるで、“いつも”とは逆。リュカが、責められていた。
「んっ……はぅむ……ん……」
フローラの香りと共に、真新しい衣服の匂いがリュカの脳髄を刺激する。
しかし、それでもリュカはまるで俎の上の魚のように、フローラのぎこちない攻撃を甘んじるしかできなかった。
一瞬の躊躇の隙に、リュカは言う。
「どうしたの、フローラ。今日は……」
フローラはやはり恥ずかしいのか、落ち着かない様子で瞳を小刻みに揺らしている。
そして、弱々しげに、それでも何処かに棘を感じさせるような声で呟く。
「……アイシスさまが、あなたに向けていた眼差し……」
「アイシスさま? 女王陛下が、どうか、したの?」
リュカの訊ねに、フローラは少しだけ瞳を逸らし、切なげなため息を漏らすだけだった。そして、小さく首を横に振ると、熱く潤んだ瞳を、再びリュカに向ける。
(リュカさんは……リュカさんは私の……!)
「フローラ、言って。心に押し込めちゃいけない。君の全てを、ぶつけて」
リュカの裏がない、本気なる優しさが、フローラの心をかき立てる。時に、そんな愛おしい彼を蹂躙してみたい、どす黒い獣慾のような線が、心に奔るのだ。
リュカの両頬を、少しだけ熱った掌で包みながら、フローラは艶冶な色を醸し出し、リュカを見つめる。
「あなたを……リュカさんを……愛したい…の……」
少しだけ躊躇する声、頬に射す朱。リュカの中で、何かが疼き、大きく波打った。
一瞬、閃光が発したかのように目の前が眩み、鼻の奥がつんと熱くなる。ぞくぞくと震えが奔り、そしてかき立てられるようにフローラのリボンの下に指を潜り込ませ、一気に引き寄せると、激しく唇を重ねて、舌を絡ませた。かつんと一瞬歯がぶつかるのも構い無く、舌が暴れ、唾液を注ぎ込む。
「はっ……んぷっ……くちゅ……はぁ、はぁ……リュ…カ……」
まとわりつく唾液が淫音を立て、眠れる性蠱を揺さぶり行く。
フローラは嬉しさか快楽のあまりに一粒、瞳から宝石を零すと、そっとリュカの肩に指を添えて離れる。
「……?」
フローラの愛らしい唇とを繋がる銀の細い糸が、すうっと消えた。
フローラは、切なげにリュカを見つめると、恥ずかしそうに囁く。
「……今日は、私が…………」
縁に備えられた、掃除道具が収められている木箱を椅子代わりに腰掛け、凭れるリュカ。
「ん……」
星空を仰ぐリュカに、フローラはそっと身を重ねて唇を重ね、舌を絡ませてゆく。熱いキスの交歓は、決して飽きない。フローラは、言葉もなく、ただ愛おしい男の反応を求めるように舌を絡ませてゆく。
ちゅく……ちゅる……くちゅ……
リュカはフローラの動きに任せていた。普段は貞淑をそのまま具現化したようなフローラ。そんな彼女が、セックスの時に一変、乱れるという姿は何度も見た。
だが、フローラ自ら求めてくることなど、夫婦となってから、今まで無かったことだった。
爽やかで、どこか甘いフローラの香りは、リュカが求めて得られるもので、フローラが与えてくれることはないに等しい。
リュカは思わず、フローラの服に手を掛けようと、腕を伸ばす。
「ん……」
しかし、フローラはぴくりと身体を強張らせ、動きを止めた。「動かないで」と、暗にそう言っていた。
フローラはリュカの逞しい肩に手を添えながら積極的にキスの雨を降らせつづけていた。唇、頬、瞳……首筋へと。
どこかこそばゆい気分になる。ちらりと見た彼女の表情は、行為が煽る艶めかしさの中に、フローラ独特の婉然さを失っていない。
リュカの上体がはだけ、引き締まった肉体が月光に晒される。
瞳が重なり、フローラは微笑む。心を擽るような、愛おしい微笑。リュカの甘い情慾をかき立てる、その清楚さ。
触れることを許してもらえないもどかしさが、反って刺激されるようだ。
「リュカ……愛しています……」
フローラは切なげにそう呟き、唇を重ね、舌を絡めてくる。何度も、何度も聞いた、飽くなき愛の言葉も、また違った意味に聞こえるのが不思議。
「はっ……あぁ……」
まるで自らを慰めているかのように、フローラはそれだけで感じているように思えた。
心の中の躊躇いの枷が外れてゆくように、フローラの唇は、そのまま下へと滑り落ちてゆく。
ちゅ……ちゅう……
「うぁ……」
リュカが思わず仰け反り、身体を強張らせる。フローラの唇がリュカの胸の突起を捉え、唇と舌で弄んでいた。くすぐったさとぞくぞくした斬新な快感に、リュカは思わず甘い声を出してしまう。
フローラはそんなリュカの様子を見逃さない。
「あぁ……気持ち、良いですか、リュカ……」
「うぁ……」
リュカが相槌を打つのに精一杯だと知ると、フローラはくすっと微笑み、再びリュカの胸を責める。空いた手で、もう片方の突起を弄る。音を立て、時に軽く歯を立ててみる。
「ああぅ! ふ、フローラ……!」
電気が走るかのような甘い痺れに、思わず跳ねてしまいそうだ。
それはセックスの時にリュカがフローラに対してする行為。そのまま仕返すだけ。
ほどよく大きな乳房を、彼はいつも優しく掌で愛してくれる。唇や舌や、甘い言葉に反応し、屹立した、愛らしい桃色の突起を舐め、舌の端で転がし、吸い、更に愛してくれる。愛に満ちた、リュカ独特の苛め。
「気持ち……いいの?」
フローラは熱い息とともに、まるで譫言のように言う。
「あぁ……気持ちいい…………かも」
リュカの声に、フローラは小さく微笑を浮かべると、再び、リュカの肌に唇を当て、にじみ出る汗を吸う。
ゆっくり、ゆっくりと、フローラはリュカの締まった身体の線を辿ってゆく。
「フロー……ラ――――」
臍をまさぐっていた感触が離れ、リュカは“敵将”の名を呼ぶ。
しかし、将は熱い溜息を返しただけで、言葉もなく、躊躇う。
そして、元々外しやすい腰蓑は、フローラがそっと手を掛けただけで、あっさりと滑り落ちた。
「あ…………」
フローラは目前に晒されたそれに、息を呑む。月光に浮かび上がる、リュカの分身。未経験の奇襲の連続に刺激され、既に硬くそそり立っていた。
「すごい……こんなに……」
見慣れているばかりか、何度も受け入れ、馴染んだはずの良人の器。しかし、いつもとは違うシチュエーションのためか、それとも、元々清楚な性格のフローラの避けられぬ素振りなのか。一瞬、恥ずかしそうに瞳を逸らす。
「君に……フローラに触れていないのに……あぁ……」
リュカは思わず顔を背ける。得も言われぬ不思議な性衝動が気を高ぶらせていた。そして、そんな良人の様子に、フローラも気分は萎えるどころか、沸々と静かに、熱く滾ってゆく。
そして、フローラがゆっくりとリュカの足元に身を屈める。
「ぁ…………」
眼を細め、おそるおそると手を伸ばす。いつも身体で感じながらも、やはり何処か不慣れ。リュカの優しさ、逞しさとはまるでかけ離れた、その異様な形と蠢き。だが、今は何故か、不思議に魅入ってしまう。
フローラの唇から、自然に熱い息が溢れ出すと同時だった。
「うぅ……!」
リュカは体芯から響くひやりとした感触とぞくぞくするような震えに、一瞬痙攣する。
程良くひやりとした、細く、美しいしなやかな指が、リュカの怒張を優しく捉えていた。
まるで灼熱に滾り、脈打つ生物のようなそれを初めの頃とは違って、フローラの指の動きに、大きな躊躇いはなくなっている。
しゅっ……しゅっ……
「あはっ……フロー……ラ……」
あまり男性自身を触れられたことがないリュカは、フローラの行為に対して、極めて不慣れな部分があった。
フローラがゆっくりと扱き上げ、ぎこちなさの中で生まれる絶妙な強弱が、ものの見事にリュカの急所を突きまくる。
「あ……すごい……」
思わず、フローラがこぼす。指を動かすたびに、素直に限りなく硬く、大きくなって行くような感じがした。掘り起こした泉のように、先端がうっすらと月光を帯びて輝く。それが、フローラの好奇心を刺激し、身体の奥を更に熱くさせた。
「気持ち、いい……ん?」
自らの指の中で膨張してゆくリュカのものを感じながら、フローラはその感触にまた、自らの性感を刺激しているようだった。
声に更に熱を帯び、まるで娼婦にも擬すかのように、瞳に月光を揺らし、自然に指の動きが速くなる。
くち……ぐちゅ…………
フローラの手の中でそれは徐々に湿り気を帯び、淫猥な音を立て始める。
最初の頃は恐怖が先行した。触れることに、自分に対し無理じいしていた。
それが、今は恐怖とは全く違って、激しくどきどきする。触れるたびの変化や、リュカの悶々とした表情が歓びと感じる。
「フ、フローラ……、あまり……あまりすると……うぅ……」
決して抜群の気持ちよさというわけではない。いかに気分が昂ぶっているとは言っても、やはり、不慣れな事は変わりない。
それでも、フローラなりに自らリードして良人を気持ちよくさせてあげたいという直向きさが、何にも勝る快感となってリュカの局部から全身に駆け抜けてゆく。
「はぁ…はぁ……リュカ……」
良人の喘ぎに、フローラも更に刺激され、本能的に指の動きを速くした。繊細な指から発せられる衝動の幅が一気に狭まり、水嵩が瞬く間に膨れあがる感覚。
「くあっ……だめ……だめだっ……もう……フローラッ」
しかし、その直後、突然、フローラの動きが止まる。
「…………」
直前で焦らされる、得も言われぬもどかしさ。その抜群の時宜は、焦らしの技巧が、フローラ天性のものであるかのように思えた。
「くすっ…………」
恍惚とした表情で微笑み、フローラはリュカを見上げる。その艶めかしい表情に、リュカは息を呑む。
「うれしい……すごく……うれしいの……」
月光にてかるリュカ自身の先端を愛おしそうに見つめていたフローラは、ふとそう呟くと、眼を細め、躊躇いもなく、その小振りで薄く形の良い唇を開き、そこへ近づけた。
「んん……」
くちゅ……
淫欲をかき立てる秘所独特の音。
「うぁっ! フ、フローラ……」
「…………っ」
先端を覆う可憐な唇と、恐々としながらも温かい舌が、リュカの割れ目をなぞる。雷光にも似た、びくびくとした絶え間なき電流がリュカの理性を奪いそうな感覚になる。
理性と優しさを一瞬だけ捉えたリュカは身を起こし、フローラの両頬を押さえ、離す。
「あっ…………」
つつっと、フローラの唇から伸びる糸。とろんとした眼差しは、少し口惜しそうに深い蒼色をしている
「無理はだめだ……。気持ちは嬉しいけど……君は……」
すると、フローラは恍惚とした微笑みを浮かべながら小さく首を横に振り、再び、指をリュカ自身に絡ませる。フローラの唾液によって、ますます潤滑になっていた。
「フロー……ラ……!」
「だい……じょうぶです……はぁあ……あなたの……リュカの……欲しいの……」
感極まったかのような声を上げ、フローラは再び、今度は深く、リュカを呑み込む。
ぐちゅ……ぐぐっ……
「あうぅ……!」
「は…………ぅん……」
リュカの嬌声と、フローラの喘ぎが淫猥な空気を醸し出す。
異質とも言える男の強い匂いに、フローラは一瞬、再び吐き出しそうになった。だが、リュカに寄せる強い性欲と、二度目という慣れが、それを覆い隠し、反ってフローラの気を高ぶらせる媚香となった。
「ん…………んんぅ……はうぅん……」
フローラはまるで全てを知っているかのように、ぎこちなくも巧みにリュカの男芯に愛らしい舌を絡め、唇で締めつけてゆく。
「ううっ……」
「あふっ…………ふぅ……ううん……」
ぐっ……ぷちゅ……ぐぷ……
リュカの股間にその美しい貌を埋め、淫靡な音を立て、熱い息をこぼしながら男のものを銜える白薔薇。
大切なものを汚す背徳感と、嗜虐の狭間にあって、それはリュカの理性にとって、どの様な高揚感をもたらす薬や呪文よりも効果があった。
フローラは懸命に銜え、舌を這わしているだけだった。時々、リュカの怒張に白い歯が引っかかった。
だが、そんな事よりも、フローラが自分のものを口で愛してくれている。奉仕をしてくれているという斬新さと歓びが、リュカにとっては何よりも愛おしく思った。
「あぁ……んふっ……くちゅ……ちゅる……」
ぐち……じゅる……ずっ……ずっ……
首を上下させながら、フローラはリュカを自らの唾液まみれにする。熱く滾った怒棒は、フローラの口の中で激しく脈打ち始めていた。
「くぁ………あぁ……で、出る……出ちゃうよ……、フ……フローラ……!」
限界が近づき、リュカが思わずそう叫ぶと、フローラは名残惜しそうに唇を窄めながら、ゆっくりと唇を離す。
……ちゅぽん……
まるでワインのコルク栓を抜いたような音を立てて、フローラは唇から白い線を垂らし、糸を繋いだ。
また焦らされ、妻に虚ろな目を向けるリュカ。
良人を一方的に責め立てる立場のフローラが見せる、妖しげで艶やかな微笑。
フローラは、ゆっくりと立ち上がり、太股をすり合わせる。
「私も……もう……」
隠しきれない羞恥に、満面を朱に染めたフローラは、ゆっくりと、スカートの裾を両手でたくし上げていった。