Rest Talk vol.4
▼Prayもようやく、本来の主流である第2部に進み、鷹嶺流主フロ小説の基幹に直接関わる描写に事欠かなくなってきているわけだが、ここでひとつ、その第2部・故国瑞祥における主フロのコンセプトについて、読者諸卿にぜひ一度聴いてもらいたい曲がある。
言わずもがな、第2部のアトモスフィアとしている徳永英明の「君の青」と「ラバーズ」という曲なのだが、両曲、とりわけ「君の青」に関しては、タイトルからしても、まさに主人公がフローラに対する想いを表現するために作られた曲なのでは? と思わずにやけてしまいそうなほどに優しくスケールの大きいバラードなのである。
「君の青」は、1989年(平成元年)に発表された、徳永英明のアルバム「REALIZE」のオープニングチューンなのだが、徳永氏がそれまで自身の指標としてきた最高のアルバムである「REALIZE」の、アルバムコンセプトだとするこの曲の持つ意味は途轍もなく深い。
誰が聴いても優しい気持ちになれる。人が誰かに優しくしてあげたい時に歌う言葉。ドラゴンクエストの世界観をつづるすぎやまこういち氏の楽曲に遠からずリンクする徳永バラードは、詞曲ともに多く合致する部分は多い。テレビアニメ・ドラゴンクエストの主題歌「夢を信じて」からも見えるように、徳永氏の描く世界というのは、ドラゴンクエストの主役たちが目指す心の場所に通じるのではないだろうか。実際、「君の青」は「夢を信じて」と同時期の発表作となる。
前作「P.S.抱きしめたい」で波乱ずくめの境遇にあって、フローラとビアンカ、二人の美少女との激愛に翻弄されて流れついた不肖なる主人公像を稲垣潤一氏の同曲をベースとして悲哀色の強いものにした。そして、今作では第1部においてフローラを選んだ主人公が旅立つまで、フローラ自身がきっと旅立つ時まではこうだったのではないかという憶測から綴ってきた訳で、Prayのメインテーマ曲である、DEEN「i...」、「I
say to my love」のように、新婚らしい熱々ぶりを湛えながらも何とか上手く旅立てる。そんなある意味心のゆとりというものがない、気の張った新婚夫婦の様子を描けたのではないかと自己満足に至っているような感覚がする。
第2部では、因縁のあるグランバニアに向かう訳なのだが、その旅路こそが、主フロにしろ、主ビアにしろ、本来この夫婦が本質を見出す良い機会ではないだろうか。子供たちが加わると、それは「夫婦」から「家族」へと昇格してしまい、ある意味この時に得られるべき数限りない宝石の砂を取りこぼしてしまっているのではないかとさえ思える。
「君の青」に描かれる恋人或いは夫婦像は、究極の愛……これを言ってしまえば、鷹嶺のライフソングである「LOVE IS ALL」と重なってしまうのだが、正しく久美沙織の小説に於ける主人公の性格をストレートに思い描けるのだ。
神だけが知る、いつかわかる時が来る互いの心のすれ違いや隠し事、過ちも、泣かずに許し合えればいい……。そんな感じのフレーズがビアンカと結ばれる、久美沙織氏版を始めとする多くの諸作とは視点を変えた、主人公とフローラの想いを描いていると感じられる。「君の青」の舞台、この主人公が回顧する「あの日の青い空」とは、私的には結婚式ではなく、サラボナでの選択の場面と思えてならない。
英詞に綴る「君を愛する為ならば、僕は何だって出来るだろう」、「僕が君を愛しつづけるなら……」月並みな言葉の中にあって、今人が忘れかけている大切な原色の愛をこのスケールの大きい「君の青」に表現されていると思えてならない。
第2部はそんな意味で、あまり二人の愛の営みによる直接的な描写よりも、「君の青」に絡めた、優しくてスケールの大きい内容を描くことが出来ればと思っている。主フロファンならば、ぜひ一度聴いてみるべし。
▼アニメ・ドラゴンクエストの第一期エンディングテーマ曲「夢を信じて」のシングルカップリング曲として知る人ぞ知る名曲「ラバーズ」は、スローテンポながらもリズム感のあるポジティブな曲として人気がある。「君の青」がアルバム「REALIZE」のオープニングチューンを飾るならば、ラバーズは3番目に流れ、心を強く打ってくれる。
ドラゴンクエスト5の中後半を盛り上げる主人公夫婦の子供誕生。青年時代前半のクライマックスとして、双子の子供と出逢う主人公たちの姿は、世界が羨む慈愛に満ちた作品が多く目に留まる。
「ラバーズ」は意味こそ“恋人”なのだが、事実は出逢った時のように、純粋なままの気持ちでいつづけられる夫婦の姿。よくぞドラゴンクエスト主題歌のカップリング曲にも選ばれたなあと思うだけあって、今から思えばドラゴンクエスト5のあの場面は、ラバーズのエッセンスが色濃く受け継がれているのではないだろうかと思うほど、そのストーリーはドラゴンクエスト5の夫婦に準じているのだから面白い。
「誰よりも希望と勇気に輝いたその瞳を、僕はずっと見つめているよ…」と、優しく語りかけるフレーズは、さながら幸宮チノ氏の大作・天空物語に見る双子への、主人公の言葉に思えて涙すら浮かぶくらいだ。その上で、子供たちをこの世界に導いてくれる母親(ここではフローラ)への不変の愛も忘れることはない。「いま生まれてくる生命を、君と守るため…僕は戦いに出る」そう誓うラバーズの主人公を知れば、何か不思議なくらい合致していることに逆にこそばゆさを感じてしまうわけだ。
第2部には双子は登場しない。ラバーズのような究極の主人公像にはひとつだけ欠けるが、この曲がイメージしているコンセプトも、途轍もなく重要な意味合いを持って然るべきだろう。
思い起こせば15年も「君の青」や「ラバーズ」に出逢いつき合ってきたというのに、今になってこの二曲が持つ深い意味を知り、ドラゴンクエスト5という鷹嶺的に名作中の名作の二次小説のコンセプトになれるというのは本当に嬉しい気持ちになってくる。
さすがに無茶を知らず、がむしゃらに限りなく駆け抜けることを厭わなかった、10代のようには行かなくなってしまったが、Prayの執筆において、「君の青」そして「ラバーズ」の二曲は主人公とフローラと共にあると思えば気持ちが若返るようだ。きっと、その旅の中で主人公が一時の休息の時にフローラへ歌っているというべたなシチュエーションを想像する。あながち、5主がこの曲を歌うことは似合いそうだ。コーラスにはフローラと主人公の仲間たち。
何度も重ねるが、Pray第2部をお読みになっていただくならば、この二曲を是非ご拝聴いただければと思う。
January 30, 2005