具現化した破壊神・ユリス。しかし、その邪塊もヒトの心を神剣として、無の鋼体が次々に切り刻まれてゆく。

 うおぉぉぉぉぁぁぁぁ――――――――!

 プラズマ状に分離し始めたユリスの思念に、ヴェイグは万感の想いを一心に剣身に込め、閃光を薙いだ。

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 ――――――――

 暗黒の氣は滅びた。ヒトが生みだした悪しき神。ヴェイグたちはまた、ヒトが生みだした善の剣となり、更に希望の力を得てこれを絶った。

 邪気を祓い、世界を包む人々の歓びの側らで、欷泣に暮れる廉潔の将軍。
 その腕に、既に冷たくなったガジュマの麗人をかき抱きながら、生涯ただ一度と誓う涙を流す。

 許してくれ――――
 許してくれ――――

     ――――アガーテ――――

 ヴェイグたちは、言葉を呑み、ただその悲哀に満ちた背中を見つめるだけしかできなかった。

三年後――――
南都・バビログラード

 ラドラスの落日から時を経て、リンドブロム王家の血統は途絶えた。
 カレギア王国は君主を失って久しい時が過ぎても、ヒューマとガジュマ、二種族に根付いた確執の中で、王国瓦解の事実が国民の意識に須く伝わるのには余りも長い時を要した。
 聖廟に向かい枢機卿が奉読する、『カレギア民主共和国』樹立の大憲章(マグナ・カルタ)に対し、ミルハウスト・セルカーク、そして白銀の武官甲冑に身を包んだユージーン・ガラルドは武官最高の礼である跪拝の礼を捧げていた。
 追尊哀賢帝ラドラス、そして、うら若き姫・アガーテの遺詔。
 ミルハウスト、そしてユージーンが、お隠れになった賢主の意をもって進めてきた王国解体の道、新憲法発布に向けた、大憲章の創設。
 負の権化が滅亡したとはいえ、ヒューマとガジュマ。その二種族の因縁は未だ深いままだった。
 国王親衛隊・『王の盾』総隊長であったユージーンは、ヴェイグたちと共に世界の危機を救うことになったが、その経緯は実に波瀾に満ちたものであった。
 アガーテが崩じて後、一時はかつて共に出奔したマオと共に世界を廻る旅にでも興じようかとさえ考えた。
 しかし、根から忠義の士。父の仇とされてアニーの怨みを一身に背負ってまで、親友と王家のために粉骨砕身してきた忠勇の漢に、瀕死のカレギアを見捨てるような道を選べようはずもなかった。
 ミルハウスト、そしてかつての腹心・ワルトゥらの嘆願を受けて、彼はついに中央に復帰することになった。

 ――――王政の闇を一身に背負うのではなく、王民を光となって導くために、力を貸して欲しい。

 『カレギア民主共和国』として新たに歩み始めた王国の歴史。元首は置かず、立憲合議制の政体としたのは、何よりもミルハウストの強い冀望があったのだという。
「民族融和が成り、十年の後にすればいい」
 そう理由づけるミルハウストの真意を、ユージーンは何となく気がついていた。

 ミルハウスト・セルカーク、大将軍拝命
 ユージーン・ガラルド、中将軍拝命

 事実上、国を先導する地位に二人が就き、建国式典の慣例・禊ぎの儀を経て、大憲章発布という歴史的なイベントは幕を閉じた。

「長かったが、やっとここまで辿り着けた」
 祭祀殿の控えの間。美事な黒毛を靡かせながら、正装の白銀の兜を脱いだユージーンが、珍しく相好を崩し、ミルハウストを見た。
「貴公がいなければ、この国に光明を見出すことは出来なかった。感謝の言葉すら思い浮かばない」
 両手を胸に合わせて、ミルハウストは拝礼する。
 笑顔だったが、完全に取りつくろわれた寂しき瞳。あの日から見せる渇いた微笑。三年の時が経っても、ユージーンは見慣れない。純忠一途な建国の功臣はただ直向きにその武略を再建の為に注いできた。
 愚直なほどに「私」を捨てるミルハウストの姿をユージーンは常に痛々しく思えた。
「ミルハウスト大将軍。十日後には共和国宣言を祝い、国を挙げての謝肉祭が催される。国民のためにも、その勇姿を堂々と現すことを願う」
 するとミルハウストはひとつ、大きく頷き、微笑みを浮かべた。
「大将軍などと呼ぶ必要はなし。しかしお気遣い、感謝するユージーン殿。……なに、ご心配は無用。十日の望(もちづき)には、共に枢都の輪舞に加わりましょう」
 するとユージーン、安堵の表情で言った。
「それは良い。きっとヴェイグたちもそれに思いを巡らせておりますぞ」
「……ヴェイグたちがバルカに。それは珍しい」
「彼らもようやく身辺が落ち着いた頃合。このような時くらい、何もかも忘れて共に粋狂に耽るのも悪いことではないだろうとな」
「それも一理――――彼らとは、積もる話もある。会うのが楽しみなことだ」
 ミルハウストは立て掛けていた宝剣を佩き、徐に兜を正す。
「ミルハウスト――――」
 ユージーンが呼び止めると、彼はぴたりと歩を止め、わずかに横顔を精悍なガジュマの戦士に向ける。
 ユージーンはふたつ、ゆっくりと、深く息をつくと、まっすぐに廉潔の美将軍を見据えて言った。
「……たまには、酔いつぶれてみるのも悪くはないぞ」
 するとミルハウストはふっと笑って答えた。
「貴公の右には、及ばぬ」
 扉が閉じられると、ユージーンは小さく呆れたような笑みを浮かべた。
 バビログラードの沿道で、ガジュマの花売り娘がスターチス・ミスティブルーをひと束、騎士に売った。とても静かで、そこはかとなく哀しく、遠くを見つめるような色をした騎士。
 決して華やかではない、素朴な花だけを求めたその意味を推し測るには余りにも次元が違う。花束を大事そうに胸に包んだ彼は、一度澄みきった天を愛おしそうに仰ぐと、ゆっくりと歩を踏み出していった。

第1章 カレギアの謝肉祭(一)
カレギア民主共和国 大都・バルカ

 ぼさぼさに伸びたヴィリディアンの髪を霧風に靡かせながら、ティトレイ・クロウは、バルカ南門をくぐり抜けた。
「んん――――――――っとぉ!」
 背を伸ばして深呼吸をするティトレイに、藩屏は怪訝な眼差しを向ける。
「な、何だよ! ここで背伸びしちゃ、悪いってのか」
 すると興味がないとばかりに、藩屏はそっぽを向き、職務に励む。
「変わりのねえ街だぜ、ここはよ――――」
 態とらしく、ため息を藩屏の背中に投げつけると、ティトレイは南門広場を抜け、殷賑たる様相を見せる東区に向けてゆっくりと歩を進める。
 カレギア民主共和国・大都バルカ。カレギア王国の王都として、千歳の繁栄と文化を伝えてきた古都であり、かたや蒸気機関車も走る新都でもある。
 文明の坩堝、一年の多くを霧中に暮らす大都市は、文字通り理想と現実、明と暗を合わせ持ち、行き交う往来の様々なドラマと共に、百万の表情を見せる。
 それは、ヴェイグたちと出会うまでの間、姉セレーナと暮らす、幸福さえも単調な生活と思っていた、ペトナジャンカの日々とは天地の差ほどもある、都会特有の躍動。
 ヒューマやガジュマという民族の軋轢、そして融和。どんな小さな心の動きさえも人の数だけ大きくうねる街。
 共和国宣言を祝す意味を込めた謝肉祭を間近に控えた大都はまた、ヴェイグたちとの旅で、何度も訪れた時とは確実にワン・オクターヴ高い陽気に包まれている。
 郊外に及ぶまで、本祭は始まっていないというのに、まるで年に一度、工場組合の大利益を祈願し、祝うペトナジャンカの大祭に匹敵する喧噪だ。
「ひぇ~~~~、今からこんなんで、祭りになったらどうなるってんだ――――おっと、お嬢ちゃん気ィつけなよ」
 歩きながら、危うくぶつかりそうになった子供を柔らかくかわし、ティトレイは大きく息をつく。
 歩道は多くの人々が行き交っている。謝肉祭に備えた買い出しやら、ティトレイのような、地方からのお上り組。
 よくよく見れば、人の数と言うよりも、そうした荷物を抱えた人々が通行の妨げになっていると言った方が、正しい表現に近かった。
 バルカにどうも不慣れなティトレイ。見ず知らずの通行人にしょっちゅうぶつかるのも気が引ける、かといって行き交う老齢の御仁を手伝うにせよ一人、二人では済むまい。不用意な親切心は埒があかなくなる。
 思いあぐねたティトレイは、建物と建物のわずかな隙間に退避した。この人の流れも、波というものがあるだろう。空白が生ずる時を見計らうことにした。

「ううう……」

 しかし、過ぎるとも一向に人の波が途絶えることはなく、かえって窮屈な建物の隙間に押し込まれた格好となり、ティトレイは疲労がたまってゆく。
「チクショー! なんで途切れねえんだよッ、はかってんのかオイ!」
 誰に向けているのではなく、ティトレイは思わず叫んでいた。

 その時――――。

「あの……ティトレイ……さん……か?」
「うわっ!」
 背後に広がる暗幕から突然声が発し、ティトレイは驚きの余り、思いきり壁に頭をぶつけてしまった。
「っ………てててて――――……」
 後頭部を押さえるティトレイ、声の主は、激しく動揺したように声をつまらせる。
「だ、大丈夫……か?」
「いやいや、かなり世界が廻ってるぜ――――んん」
 じんじんと脳漿を揺さぶる痛さに、さしものティトレイも引きつる苦笑。声の主は申し訳なさそうに深くため息をつき、項垂れる。
「って――――あんたは…………おお、もしかしなくても、ミリッツァじゃねえか」
 痛さをこらえて無理矢理笑顔を作り、指をかざして挨拶をするティトレイ。
 褐色の肌に暗銅色の髪、二本の角に驢の耳。見た目の通り、ヒューマとガジュマとの夫婦の間に誕生する、ハーフ。深く茫洋とした蒼い瞳が、躊躇いがちにティトレイに向けられている。
 彼女こそ、かつて王の盾の中で最強と謳われた、『四星』の一人、ミリッツァ。居場所を求めてヒルダと袂を分かち、ヴェイグやティトレイの行く手を阻みつづけるも、獣王山の戦いで敗北。ヒルダの諭旨を身に染みて、ワルトゥと共に投降。戦後、バルカに仮住まいをしていた。
「元気そうだな――――って、なーんかこんな場所でそんな会話するのも間抜けってもんだがなー」
 ティトレイの伸ばした掌が後頭部に触れると、激痛が身体を駆け抜けた。
「いてえ――――――――――――!」
 大きな、たんこぶが出来ていた。
「だ、大丈夫か――――!」
 思わずミリッツァが駆け寄る。心配そうに、ティトレイの顔と頭を交互にのぞき込む。
「身体は別にかまいやしねえが、精神的には保ちそうもねえぜ。どーなってんのよこの街はよオ」
「今年の謝肉祭は、いつもとは違う特別なもの。こんなに人がくり出すのを見るのは私も初めてだ」
 そう言いながら、ミリッツァは手のひらを翳し、ティトレイの頭に触れようと近づける。
「てゆうかさミリッツァ。シーユーラター。この体勢、何とかならねえ?」
 ティトレイがミリッツァに振り向くと、彼女は慌てて手を引き戻し、どちらかというとポーカーフェイスの頬に、目立たぬ朱を奔らす。
「そ、そうだった……。ああ、こっちだ――――」
 くるりとそっぽを向き、ミリッツァはティトレイを導くように、暗幕の奥に続く隘路をすり抜けてゆく。

 バルカ東区のやや外れは、王政時代の官憲たちが暮らしていた住宅地がある。ミルハウストとユージーンらの尽力によって、強権を振るっていた一部の悪吏は一掃され、体制再編によって大幅に人員削減された結果、住宅地は新たに、ラドラスの落日以来、不幸を背負った人々が身を寄せる住居へと変わっていた。
 ミリッツァは、共和国樹立の布石のひとつとして、ユージーンの推挙でワルトゥと共に新設の公安府に職を得、目下ヒルダと共に、そこに暮らしていた。
 初めはそれまでの所業への罪悪感と負い目から固辞していたが、ヒルダやユージーンの説得に絆された形となった。
「――――でさぁ、『……ぶつよ』がかなり効くね。ギンナルたちもあれくれえの威圧感ありゃ――――」
 ティトレイがはまっていた場所から、ミリッツァたちが暮らす住まいまでは結構な距離がある。その間は、ティトレイ特有の雑学弁舌が冴えに冴えわたる、独擅場だ。
「ギンナルたちは、我ら公安府で仕事をしている。なかなか役に立っているみたいだ」
「おお、そうか。そりゃ良かったー。いやな? 実はあいつらのこと密かに心配してたのよ。もしもこの先食うに困るようなことがあったら、高札掲げてでもうちの工場で雇ってやろうと――――」
「…………」
 ミリッツァはまっすぐに唇を結び、茫洋とした瞳をティトレイの横顔に向けていた。一人で語り、満面の笑顔を向けている青年を、不思議に思えた。
「あー、そう言えばミリッツァ、助かったよ。それにしても、グッドタイミングで、あの場にいたなあ」
 ティトレイが振り向くと、即座に瞳を逸らす。
「用事があって、その帰りだった。何となく、覚えのある氣を感じて辿ってみると、あなたがあんなところに……」
「久しぶりの再会が、ちょいとお間抜けだったようだあ――――」
 はにかみながら、ティトレイはぼさぼさの髪をかきむしる。
「……あの、ちょっと、訊いても良いか――――」
 不意に、ミリッツァが不安そうな声を上げる。
「おう。政事とか金勘定とか細々したこと以外なら何でもいいぜ」
「…………」
 ミリッツァは、一瞬、言葉を呑み込む。心なしか、胸の鼓動が速くなる気がした。
 しばらくして、逡巡するハーフの娘の眼前に、ティトレイは突然、握り拳を突き出し、親指を突き上げて見せた。
 驚くミリッツァ。見開いた瞳を明朗なヒューマの青年に向けると、彼はにやりと白い歯を見せて笑い、とんとんと自分の胸を軽く叩く。
「言ってんだろ。ココにためんな、遠慮はムヨウ」
 無理矢理眉をまん中に寄せて、ティトレイは言う。
「……」
 きょとんとするミリッツァ。この青年の言動が殊の外可笑しい気がした。しかし、笑うと言うことに、未だ不慣れな女性。
「……困らないか。私と話していて――――」
「ん、何が」
 ようやく発したミリッツァの言葉にティトレイは本気で首を傾げる。
「私は……私は――――――――」
 歩調が落ちる。ティトレイの明るい会話や口調を聞いているうちに、ミリッツァの心の中で、痞えていたものが、鈍い痛みを発していた。それが、声色に表れた。
 その様子に、ティトレイはひとつ息をつくと、言った。
「ミリッツァは、ミリッツァだろう。おおよ、かつての宿敵、今はヒルダの朋友、それは、俺にとっても友達だ。それが、どうしたん?」
 ぴくりと、ミリッツァの耳が振れた。ほんの少しだけ怯えた眼差しで、ティトレイを見ている。
「友達…………。友達なのか、こんな私を――――」
 するとティトレイ、思わず吹き出してしまう。その様子に、ミリッツァは呆然となる。
「おいおい、何かと思えば、改まってそんなこと聞きたかったのかよ。友達だからこんなくだんねーバカ話してたんだぜ? それに、友達だから無様なカッコで壁にサンドイッチ状態であくせくしてた俺を助けてくれたんじゃねえのかよ」
「そ、それは……」
「あ、わーった! ミリッツァ、まさかこれから隙を見て俺の身ぐるみを剥がしてノースタリアの雪原にポイと……」
「違う、そんなことはしない!」
 ティトレイの冗談に、本気で否定するミリッツァ。屈託なく、彼は哄笑する。
「じゃ、どうなんだ」
「…………あなたの、言う通りだと、いうことで――――」
 ミリッツァが唇を窄めながらそう言うと、ティトレイはにいと笑ってブイサインを作った。
「いいね。それが最高だぜ、やっぱな」
「…………」
 ミリッツァはふうとため息を漏らしながら、この不思議な楽観志向の青年を見つめていた。ほぼ無理矢理、ティトレイの言葉によって懐いていた心の枷を外されると、何となく気持ちが軽くなるような気がした。獣王山での会戦以来、少なからず重かった胸が、すうと空いてゆく。

「ここだ」
 石造りの平屋。決して大きく広い建物ではない。むしろ、家族もちで暮らすには不便なくらいの小さな家。その前で、ミリッツァは指さした。
「帰っていればいいが――――」
 ヒルダも仕事にありついている。手に職と言うが、彼女の占術は以前より、かなりの高評を博していた。
 元々、非常に艶冶なる容貌を備えるヒルダ。その雰囲気は、今やハーフという域を超え、神の御使い、御託宣の神女と呼ぶ者もあり、収入は日によって一万ガルドを余裕とするほどである。
 居を共にするものの、最近は直接顔を合わすことも減ってきたという。それほど、ヒルダは多忙のようであった。
「いけねえな。実にいけねえ。どんなことあってもゆとりを失くしちゃあよ。あいつ……ただでさえ自分のこと――――」
 思わず、独り言を呟いてしまうティトレイ。ミリッツァは彼のその瞳が、今までと少しだけ違った色に見えた。
「まあ、事によっちゃあ、ヒルダの寝台(ベッド)借りても良い、ミリッツァ?」
 直後、ティトレイは振り返り様にそんなことを言って戯ける。
「…………」
 しかし、何故か凝り固まるミリッツァ。その直後。

「……ぶつよ。――――だけじゃ、足りないわね」

 完全に殺気を絶ち、低音だが、芯から響くような大人の色気鏤む声と同時に、鋭利なタロットカードが、ティトレイの喉元に突きつけられる。
「なーんて、塵粒ほども思っちゃいねえかもよ、ヒルダ・ランブリング。お久しぶりー……」
 何故か両手を上げ、嗄れた声を出すティトレイ。すると、呆れたようなため息と共に、鋭利な刃が離れる。
「態とらしく人をフルネームで呼ばないでくれるかしら、ティトレイ・クロウ君?」
「金はねえが、人質解放のためなら、何でもするぜ」
 ティトレイが振り向くと、開かれたドアの前に、腰の下まで伸びた美事なソヴァージュの黒髪が印象に強い美女が立っていた。
「おとといきやがれ、ね」
 ヒルダ・ランブリング。背が高く、肩から踝まで真っ直ぐに繋ぐ白法衣の上からもわかるほどの抜群のスタイル。そして、少しだけうつむき加減から見える頭部には、折られた角の痕跡。それは、ミリッツァと同じ、ハーフの証。そして、ティトレイにとっては、何よりもかけがえのない、仲間の一人。そして……。
「ティトレイ。この界隈であまり挙動不審なことしないで頂戴。あんたのせいで、私たちにも類が及ぶから」
「って、相変わらずキツイなー……」
 ヒルダの先制パンチに、ほぼ三年ぶりの再会の感動など、微塵も感じられなかった。