第18章 愛のかたち
「ロイド、何を考えてるの?」
レアバードを一路、メルトキオに向けているロイドとコレット。一人抜け出そうとしたロイドを、コレットは不安に満ちた表情でずっと見つめてきた。
物言わぬロイドに、コレットは思わず声を荒げた。
「危ないことしないなんて、嘘。ロイド、絶対何かしようとしてる。私、わかるもん」
問いつめるコレット。しかし、ロイドは彼女を一瞥しただけで、瞼を伏せた。
「……お前が昔、再生の神子だった時、世界と俺たちを較べようとしたことの意味、何となく解ったような気がするぜ」
「……ロイド?」
「……コレット。俺の側から、絶対離れるな」
「え――――?」
どきりとなった。唐突な愛の告白にしてはいささか装いが違う。イセリアを旅立つ前夜の時とも違う、どことなく緊張感に包まれた表情。しかし、続く言葉はなく、そのまま二人はメルトキオにたどり着いた。
セバスチャンの厚意でゼロス邸に逗留するロイドとコレット。
ロイドはそこで初めて、コレットに、メルトキオに先駆した理由を告げた。
「内務卿のカーネルに、直談判する」
「ロイド……それって――――」
不安に翳るコレットに向けるロイドの微笑みは、聊か悲愴にも似たものを感じた。
……先生やリーガルが言うみたいに、俺は政治的なものは何もわからねえ。
ただ、テセアラの人たちを分断するような、二つの正しい勢力がいることってだけは理解できた。
でも、いくら正しいって言ったって、それに巻き込まれてセレスの命が奪われるなんておかしいだろ。……ホント、よくわかんねえけど、助けてやるしか道はなかった。
それでこの国の人たちが敵に回るというなら、俺を敵にすればいい。そう、思った。
ロイドの吐露に愕然となるコレット。
「どうしてっ、ロイド。どうしてロイドが。捨てて良い命なんてひとつもないって、強く信じてきたロイドが、そんなこと……」
彼の真意を感じ始めたコレットは声を震わせる。ロイドはそっとコレットに寄り添うと、その肩を軽く抱きしめた。
「コレット。伝えられてきた古代大戦の終戦の話、覚えてるか」
「え……うん。ミトスが、シルヴァラントとテセアラの王を仲介して停戦調印したって伝説でしょ?」
きょとんとロイドを見つめるコレット。
「何かさ、これからやろうとしてる事って、似てるのかな……なんてさ。ちょっと思ってたりするんだ」
「保守派と急進派の和解……?」
それは、水と油を融合させるようなものだ。
「ロイドは、ミトスに憧れるの? それとも、ミトスの懐いた想いが、解る?」
すっと、ロイドはコレットの肩を抱いたまま腕を伸ばし、見上げたコレットの瞳をまっすぐに見つめて笑った。
「俺は、今になって少しだけ、大戦を『終結』させたミトスの気持ちが、解るような気がするよ。……でも、コレット」
「…………」
ロイドはそっと、人差し指でコレットの頬にかかるプラティナ・ブロンドの髪を梳く。
「……俺は、やっぱミトスじゃない。ミトスにはなれない。……でも、ミトスには負けない――――」
ロイドの強い言葉に、コレットの胸は熱くなった。
「エクスフィア回収の旅は、まだ始まっちゃいない。これから色々と計画立てなきゃダメだよなあ」
「そだよ? ロイド、最近ずっと私のことほったらかしなんだから」
こつんと、額をロイドの胸に当てる。
「ごめん、ごめんなコレット。でも、あと少しだけ、寄り道につき合ってくれ」
「…………うん」
コレットは頷くしかなかった。
国王への拝謁は愚か、登城すらも内相派によって厳しい制限が掛けられていた。アンドリュース辺境公らの急進派は大分排斥され、王宮の政庁はほぼ政権右派・保守勢力によって押さえられていたためであった。
ロイドがマーテル教会に拝謁を願い出てからすでに五日。ゼロス邸に足止めをされている。
「ロイド様、お客様が――――」
セバスチャンはそう言ってドアを開ける。そしてロイドたちの前に現れた人物に、目を瞠る。
「先生、リーガルッ!」
二人は素の表情のままロイドたちの姿を見ると、軽くため息を吐く。
「『せんせいっ、りーがるっ』じゃなくてよ、ロイド。私が出した課題もしないで、何かにつけて単独行動とは、ずいぶん良い度胸ね」
リフィル師はこうした素の表情の時が最高レベルに怖い。
しかし、ヒートアップしかけた声のトーンが、急速にしぼむ。
「……でも、結局あなたらしいと言えばそうね。どんな理屈があっても、あなたは‘同じ’だったこと、判っていたはずなのは、私たちだったから……」
「先生、ごめん……本当に、ごめん――――」
「今になって謝らなくても良いわ。これからあなたが何をするかは敢えて訊かないし、止めもしないけど、私たちには同席する権利があるわね」
「そなた達だけでは、魑魅魍魎を
「……ありがとう。心強く思うよ」
そしてリフィルは付け足すように言った。
ジーニアスとプレセアは、アルタミラ行政府の庇護を受けるように、行政長官のジョルジュに頼んだとのことだ。先行きの空気を察知してのリフィルの機転に、ロイドは感謝した。
「リーガル=ブライアンである。陛下への拝謁を賜りたし」
門兵に名乗りを上げるリーガル。しかし、兵士は長槍を交えて拒絶する。
「内務卿の通達です。申し訳ありませんが、いかなる者も通すなとのご命令でございます」
「むう……力ずくと行かねばならぬか」
「我らはテセアラの
緊張感が走った。力で押し切ることは容易い。それが出来るのであればだが。
膠着状態も長くは続かなかった。
「ブライアン、久しいな」
良く透る低い声がロイドたちの気を惹かす。振り返ると、腰に宝剣を
「お主はアーネストではないか。アルタミラに在していたのではなかったか」
「ゼロス殿と藤林の姫御前がフラノールに来られた。随分回りくどいことをするものだと思ってね」
と、アンドリュースはリーガルとの挨拶もそこそこに、ロイドに視線を移すと、目を細めた。
「君がロイド・アーヴィング君か。ゼロス殿から色々と話は訊いている。私が、アーネスト・アンドリュースだ。よろしく」
アンドリュースはそう名乗って手を延べた。
戸惑いがちにロイドはアンドリュースと握手を交わす。クラトスやリーガルとはまた違う、逞しさを感じる掌だった。
「あなたが……急進派の党首……ですか」
「まあ、話はまた後でよいだろう。それよりも、陛下への拝謁叶わずに困っているのであろう。私に任せなさい」
アンドリュースがロイドの肩をポンと叩く。
「ああ、それと、ここに来る途中、蠎と名乗るミズホの民から、ゼロス殿からの言伝を預かっている。『……お前には、最後の最後まで面倒かけちまうな。ありがとう……』だそうだ」
「ゼロスが…………」
ロイドは思いを巡らせ、ゼロスの言葉を反芻した。そして、小さく微笑むと、頷く。
「アンドリュース公、お願いできますか」
「うむ」
「アンドリュース公――――」
間を置かずにロイドが呼び止めた。振り返るアンドリュース。ロイドは毅然とした眼差しを、壮士に向けて、言った。
「俺はこの身、惜しまない」
言葉を呑むコレット。アンドリュースはふっと笑みを浮かべて返した。
「良い覚悟です。それでこそ、勇者ロイド=アーヴィング殿」
門を堅守する兵に、アンドリュースは貴族の威厳をして
「アーネスト・アンドリュース。
動揺する門兵。
「どうした。陛下よりの官位をお返し奉るのだ。内務卿の意より超越しているはず。通せ」
「は、ははっ――――」
テセアラの王制憲法で示された、国務大臣の辞任は、国王の御前にて了承すること。つまり、いついかなる場合でも、国王に拝謁を許されるのだ。
「アーネスト、本意か」
リーガルの問いかけに、アンドリュースは自分の頸に手を当てながらふっと笑う。
「偽りであればこの首が飛ぶよ」
国王は休息の間に在しているという。
さすがに王宮内までは警戒態勢は敷かれていなかった。ロイドたちは政庁を抜け、かつて一度入ったことのある休息の間へと足を進めた。
その途。ロイドたちは政務室の一室から出てきた、齢三十六・七くらいの貴族の男性に出会した。目の色を変える貴族。そしてリーガルとアンドリュースもまた殺気を立てる。
「貴様たちは……」
「このような場所で会おうとはな、カーネル卿」
アンドリュースの声に、テセアラ内務相ザクソン=カーネル卿は動揺を呑み込み、にやりと嗤う。
「……そうか。国務大臣の辞職を切ったか。迂闊であったな。しかし、結局は私の手間が省けるだけというものよ。何を弄しても無駄だぞ」
「それはどうかな。教皇の
貴族の言い合いに、ロイドが間に立ちふさがった。驚くカーネルに向かい、ロイドは言う。
「ロイド=アーヴィングです。早速ですがカーネル内相、あなたにお願いがあります。俺……いや、私たちは国王陛下にお話がありますので、ぜひ内相にも同席をお願いします」
「…………」
毒気を抜かれた様相のカーネル。無礼だと怒鳴る島もない。
「……そなたがロイド・アーヴィングか。……全く、余計な事をしてくれたものだな」
憮然とした物言い。すると、リフィルが目を細めて切り返した。
「クルシスを壊滅させたことを謝ればよろしくて? それとも、教皇に倣い簒奪の計に与することがよろしかったかしら」
鼻持ちならぬ言葉に、カーネルは顔を顰めた。
「いずれにしても、陛下は我らが“お守り”奉っておる。下手な小細工は弄するな」
テセアラ国王・マリウス=テセアラ18世は心労を理由に再び臥していたと言うが、実質、保守派勢力による軟禁状態にあった。
唯一の肉親であるヒルダ王女も離宮にあって、事実上引き離されたままであり、カーネル派による政治の壟断はもはや明らかであった。
ディ・ザイアンからクルシスと戦い、大いなる実りを取り戻し、世界統合の大業を成し遂げ、ミトスの野望を封じたロイド=アーヴィングとその仲間たち。
戦後、テセアラに再び巡り合った八人の先途とするには、あまりにも小さな政争の仲裁となるに等しい。
強大な力を持ったミトスを殪したロイドの心は、不似合いなほど戦慄していた。
「何用か。予は疲れておる。
リーガル、アンドリュースの拝礼も虚ろとばかりのマリウス王。
ヒルダ王女を救った時に見た、活気のある賢君の印象は再び削がれていた。比喩すればひねくれて家に引きこもる子供のような様子と、リフィルは述懐する。
「国務大臣ならびにフラノール辺境公の位を辞するにあたり、陛下の御前にて、奏上奉りたき儀、これあり」
アンドリュースがロイドを一瞥する。
「手短にな」
留意もせず、マリウス王は眉を顰める。思わず身を乗り出そうとしたロイドを、リフィルが止めた。
ロイドはひとつ大きく深呼吸をすると、身を正してマリウス王に対した。
「ロイド・アーヴィングです。ご無沙汰してます、テセアラ国王陛下」
「久しいな、ロイド。活躍は聞いておったぞ。クルシス追討のこと、祝着なことだ」
「ありがとうございます。それもこれも、俺だけじゃなく、ここにいる皆、そしてゼロスやしいなの助けがあってこそです」
「……言わずもがな、か――――して、かような時にいかなる用向きか」
ゼロスの名に再び表情を曇らせるマリウス王。ロイドは故意に沈黙の間を作ると、しかめ面のカーネルを一瞥し、王に視線を戻してから、ゆっくりと言った。
「用向きは二つ。まずひとつ目は、ゼロスの妹、セレスを解放したことのご報告です。ここ最近、セレスの近辺が実に物騒なため、その身を慮ってのことです」
その瞬間、王とカーネル、特にカーネルはひどく愕然とした様相になる。
「何と。確かゼロスの妹は、南洋の修道院に在しているという。それを解放とな。それに、物騒とは聞き捨てならぬ」
「純粋に兄を想い慕う、か弱い女の子を政治の権力争いに巻き込まれるのを、黙って見過ごしてはいられないでしょう」
マリウス王の言葉を制止し、カーネルが声を荒げる。
「ロイド・アーヴィング。それは真実か。お前たち、恐れ多くも陛下の御前で、脱島
躍起になるカーネルを、ロイドは厳然と睨みつけ、言い白けさせた。
「一国のお偉方が、ずいぶんと穴のあなの小さいことですね」
「な、何を言うか。セレスは罪人の子ぞ。経緯はお前たちも判っているだろうが」
すぐにロイドが反論する。
「ゼロスたちはマナの神子の宿命から解放された。ゼロスも、セレスとの因果を赦した。何も問題はないはず。これから兄妹、仲良く静かに暮らせる時を、無理矢理権力の争いに引きずり込み、挙げ句の果てに――――」
「ロイド。それ以上はダメよ」
「確固たる証拠はないの。たとえあっても、私たちにはどうすることも出来ないわ」
リフィルの冷たい眼差しは、終始カーネルに向けられていた。ロイドはきゅっと唇を噛みしめると、怒りを堪えるように言った。
「……そうだな。わかったよ先生。……ともかく、もうこれ以上、あの二人に辛い思いはさせないでくれよ。静かに、暮らさせてあげて欲しい」
「…………」
言葉を失うマリウス王。かたやカーネルはなおも動揺を隠しきれない。
「しかし、脱島は天下の大罪。このまま見過ごすことは、テセアラ国民に対し示しがつかぬ」
道理に適うことだった。謀殺を事前に防いだ結果になったとはいえ、法的には正当防衛の手段からは著しく
「脱島の責任は、指示したこの俺にある。懲罰なら俺が受けてやる」
「ロイド!?」
兢々としていたコレットが、思わず大声を上げた。
「何を言うのロイドッ」
立ち上がり、ロイドに駆け寄ろうとしたコレットを、リーガルは抑え込んだ。
「まだ、ロイドの話は終わっていない」
「でも……リーガルさん……ロイドは……ロイドは……!」
コレットの焦燥をよそに、カーネルは飄然とロイドを見る。
「ほう。統合世界を成し遂げたシルヴァラントの勇者が、罪業を背負うか。面白い」
ロイドはカーネルに向き、妙に爽やかな笑顔を作った。
「……まだひとつ、願い事がありますカーネル卿」
「……承ろう」
するとロイドは一度振り返り、仲間たちを見つめる。
「コレット。一度外に出ていろ」
「……え?」
どくんと、コレットの胸に嫌な衝撃が走った。
「先生、リーガル……悪ぃけど、頼むぜ。ええと、これって、何て言ったっけ……」
「……『人払い』よ、ロイド。……あなた――――ううん、良いわ。わかったわ」
リフィルはロイドをまっすぐに見つめ、やがて得心したように頷いた。
「コレット。ここからがロイドの本題。すぐに話は済むでしょうから、私たちは一度外に出ていましょう」
「……いや。私、ロイドと一緒にいるもん。ロイドの傍から離れない」
「――――気持ちはわかる。しかしコレット、ロイドがああ言っているのだ。察してやらねば」
リーガルの宥めにも、コレットの胸の不安は急速に膨らんでゆく。
「わからないよっ! ロイド、言ったよ? 危ないことしないって。俺の傍から離れるな、絶対離れるなって。イセリアの夜も、この前も……だから……だからっ!」
「先生、リーガル――――」
コレットの言葉を透かしたロイドが静かに促すと、二人はほぼ強引にコレットの腕を掴んで退出していった。
「ロイドッ、ロイド! 嘘つき――――
うそつき――――…………」
重い沈黙。
その場にはマリウス王、カーネル卿、アンドリュース公、そして、ロイドだけが残った。
「恋人に嘘つき呼ばわりか。珍妙なことだな」
カーネルが皮肉まじりに言う。
「なんでもいいや」
ふっと笑うロイド。
「ロイド君。仲間に席を外させるとは、いかなる仕儀あってのことか」
アンドリュースの言葉に、ロイドは一度瞳を伏せ息を整えると、突然跪き頭を垂れた。
驚くマリウス王たち。ロイドは次の瞬間、豁然と目を見開き、マリウス王に対し言葉を放った。
ロイド・アーヴィング。この身を賭けて国王陛下に願う――――――――。
全ての人々のために……ご退位を――――。
「……ロイドッ!」
思わずコレットは閉ざされた扉に振り返った。リフィルに肩を抱かれ、彼女に手をしっかりと握りしめている。
その直後、旅の最中、魔物と出会った時に何度も耳にして聞き慣れた金属音が、コレットの鋭い聴覚に響いた。
「…………」
殺気と極度の緊張感に、不気味なほど沈黙する座所。
ロイドの喉元に突きつけられた宝剣。
「正気か、ロイド・アーヴィング君」
アンドリュースが冷たい目でロイドを見下ろす。
「あいにく、身体も頭も毎日鍛えてるから、どこも悪くないな」
ロイドは動じない。
「どういうつもりだ。お前ごとき者が陛下に退位を迫るなど」
カーネルがひどく苦々しい顔つきでロイドを誹る。
――――世界を分かつこと四〇〇〇年。
繁栄と衰退の中で、俺たちの想像につかない程の痛みや苦しみ、哀しみが歴史に刻まれてきたはずだ。
俺たちは世界を在るべき形に戻した。
一言で言えば簡単だ。
でも、俺たちはディザイアンに苦しめられ、クルシスの野望に利用され、エクスフィアの犠牲になった無数の人たちを目の当たりにしてきた。
みんな、いずれ統合世界が開かれる未来に寄せる想いは、争いも差別も、前向きに理解し合える平和の世だ。
それを、たった一部のお偉方の浅ましい権力争いなんかで、培ってきた努力が無駄になることを誰も望んでなんかいないだろ。
もう、傷つけ合うのはたくさんだ。ミトスを殪したことが、最後であればいいと思っていた。
でも……それでも、この世界の民を導くべきお上が、なお分かちあえずにいるんなら……国王陛下。全ての民を導くべきあなたは非力を恥じて王座を降りるべきだと思う――――。
ロイドの頸に、剣がかする。うっすらと赤い筋が奔った。
「失望するぞ、ロイド君。いかにカーネル卿と相容れぬ身とはいえ、王を危うくする者を助けるわけにはいかない」
「言ったでしょう、アンドリュース公。俺はこの身、惜しまない……って」
「お前は勇者だ。お前の言葉は多くの民を動かす力を持っている。そのような者の野心を聞いたからには、このまま黙って返すわけには行かぬな」
カーネルがアンドリュースを見る。
「陛下。やる気があるなら、見せて下さい。無ければ、辞めるべきだ」
ロイドの捲し立てに、アンドリュースは剣の柄を構えてロイドの背中を撲った。鈍い音を立て、ロイドは突っ伏す。
「それ以上は無用だ」
「……はっ!」
カーネルは突然意識を外に向けた。そして慌てて通路に出ると、そこにコレット、リフィル、リーガルらの姿はなかった。
「ロイド君、最初からこれを狙っていたか。私としたことが迂闊だったな――――」
アンドリュースが苦笑する。
「外患とは当に貴様のことを言うのよ。ええい、誰かある。この者を入牢させよ」
カーネルの命令で駆けつけた兵士。ロイドは抵抗することなく、連行されていった。
「陛下、お心患わし――――」
陳謝する二人の貴族。
「……………………」
しかし、マリウス王は何も答えぬまま、困惑の表情だけを周囲にさらけ出していた。
…………ロイド…………
ゆっくりと瞼を開いても、闇の世界。
……ロイド…………お前という奴は……
(クラトス…………とうさん…………?)
フッ……お前らしいな――――どこまでも、お前は、お前であり続けるのか――――
(俺は……変わらないよ、きっと……ずっと……)
だが……お前に政は付き無い。お前のまっすぐな心だけでは、政は立ちゆかぬ。
(相変わらず、きついなあ。クラトス……)
――――だが、お前は不思議な子だ。時としてその心が、大いなる力となる。こたびも……お前のしたことは全て無駄ではなかった……
(そう……かな……そう、思うのか)
……フッ。まあ、いい。それよりもロイド。もういい加減に、そなたを想う娘の心に応えてやれ――――
(どういう……ことだよ)
気づいているのだろう、ロイド。
たった一人を信じ、守り、愛する強さこそ、お前が求め追いつづける理想の世界への一歩となるのだ――――
(たった、一人――――)
世界はお前たちの力で、確実に真の再生へ向けて動き始めている。……もう、お前は、お前自身の心に甘えても良いのだぞ、ロイド…………
(クラトス…………)
私も――――アンナを随分と泣かせたものだった…………ロイド、お前はコレットを、これ以上泣かせるな。自分の気持ちに、素直になれ。コレットも、それをずっと、待っているのだからな――――
(コレットが…………良いのか。クラトス、俺……俺本当に、いいのかな――――)
フッ……訊かずともいいだろう……
ロイド――――お前は幸福になれ――――その時が来たら、旅の空でまた会おう――――…………
ロイドの目が突然、真っ白に眩んだ。