まえがき

常闇の町アーリィ
宿屋 ナイトドリーム

「うぅ、参ったぁ~! 早いとこ寝ちまいてぇ!」
 クレスが真っ先に宿屋に駆け込む。ミントが苦笑しながら後に続き、クラースが呆れたようにため息をつく。かじかむ手に息を吐きながら、アーチェとチェスターが続く。
 外界の極寒の風景と比べて、やっぱり宿の中は暖炉が効いてて別世界だ。
 宿泊料金を支払い、部屋へと続く途中にある大広間に向かう。宴会にも用途がある結構広いところ。通路兼用なのが、いささか難がある。

「あーはっはっはっは!!」
「くだらねー! くだらねー! もういいぜ、そんな与太話!」
 突然、わあと宿泊客達の喚声がクレスたちを止める。

「と、その後それぞれの愛と絆が二つの世界、そしてこの地を――――」

 円形に囲んだ客達の中心で力説する不精風の男に、宿泊客達から次々に野次が飛ばされ、言葉がかき消されてゆく。
「どうしたんですか?」
 ミントが何事かとばかりにすぐ近くの宿泊客のひとりに尋ねる。
「ああ、あの似非講釈師が今どき子供でも信じねぇおとぎ話始めやがってよぉ、次々そのバカ話に興味あってご覧の通りよ。あはは、みんなヤジるために集まってやがるのさ」
「おとぎ話?」
 クラースがその男を怪訝そうに見た。
「どんな話だよ」
 チェスターが尋ねると、客は興味なさげに鼻であしらうと、面倒くさそうに言った。
「興味があるなら彼奴に聞けばいいさ。同じ事、なんでも熱込めてしゃべりやがるぜ。まあ、そのたびに茶化されてるけどな、奴は」
「・・・・・・」
TALES OF SYMPHONIA創作小説「キミとともに~愛のかたち~」イメージソング
永遠の果てに
☆テイルズオブシリーズ初の創作小説です。DEENの「夢であるように」で知った、テイルズオブデスティニーから6年を経て、今回このシンフォニアをもって初書きとさせてもらいたいと思いました。一応、恋愛をテーマに挑戦! 名作な分、緊張しています。
今回フィーチャーする楽曲は、徳永英明さんの「永遠の果てに」と「君をつれて」です。「永遠の果てに」は、奇しくもテイルズオブファンタジアが発売された1994年発表の曲。人の愛と命の大切さを表現した名曲です。今回の創作において、プレセアをイメージして当てはめました。プレセアファンの方は是非、一度お聴きになってみて下さい。今回の創作の主旨の一部が分かるかも知れません。
TALES OF SYMPHONIA創作小説「キミとともに~愛のかたち~」イメージソング
君をつれて
☆ロイド×コレットの恋愛を描くにおいて欠かせないと思ったのが、2003年(シンフォニア発売年)発表の新曲「君をつれて」です。この曲は文字通り、どんな苦難にも君といれば乗り越えていけるというテーマに、愛と勇気の素晴らしさを歌い上げており、正しくロイドとコレットの新たな旅立ちにふさわしい曲だと思いフィーチャーいたしました。
今回の創作においては、本編ではあまり語られなかった恋の話。ついて鷹嶺 昊が一番気になった、ロイドとコレット、そしてジーニアスとプレセアを焦点に書いてみたいと思います。
勿論、ゼロスやしいなも登場します。
稚拙ですが、その後のシンフォニアの小咄的感覚でお付き合い願えればと思います。
 やがて、興味が無くなったのか、或いは飽きたのか。講釈師風情の男の周囲から、宿泊客達の姿がだんだんと消えていった。そして、最後のひとりが抜けた時、男と、クレスたちの視線が合った。男は目を見開いてクレスたちを凝視し、クレスたちはどこか気味悪ささえ感じて身を退いた。
「あぁ! 君たちは――――」
 男はわずかに充血した目を輝かせてクレスを見る。
「あの……ちょっと良いですか。お話を……」
 ミントがおそるおそる、声を掛ける。
(おいミント!)
 チェスターが小声で止める。

「あー、興味があれば……このコウ・タカミネの講釈、聞いてみませんか?」

 怪しい様子の男が、そう言った。きょとんとなるクレスたち。
「これから再び、時空を超えんとする、強き勇者たち。君たちのこれからの戦いに、少しでも勇気を与えられればと思う――――」
 コウ・タカミネはそう言って立ち上がる。ぼさぼさの髪の毛をむしり、にやりと笑った。
「! ……どうしてそれを」
 クレスの驚きに、コウ・タカミネは笑う。怪訝の視線を一身に浴びながら、コウ・タカミネは窓辺に立った。冴え渡るほどに凍った晴天の夜空。
「聞くか、聞かざるか」
 コウ・タカミネは目を閉じて尋ねた。
「聞かせて下さい。ううん、聞きたい気がする」
 アーチェが言った。
「聞いて損する話じゃないだろうな」
「少なくても、損はしないと思うぞ。それよりも・・・」
 怪しい講釈師風の男。悪意のない雰囲気を感じ取ったクレスたちは、他の客にそこまでヤジられたこの男のおとぎ話に、何故か興味を惹かれていた。
「よろしい……」
 コウ・タカミネは、ぼさぼさの髪をくしゃくしゃに掻き上げると、懐から出した扇子でパンと膝を叩くと、それで窓の外を指した。
 空には、二つの月が、晧然と輝いている。
「シルヴァラントと……テセアラ……?」
 ミントが呟いた。するとコウ・タカミネは、嬉然とした声を張り上げた。

「さてさてお立ち合い!! これから語る小咄は、この空に浮かぶ二つの月にまつわる伝説の知られざるアクトインフィニティ! 危難に立ち向かいし英雄たち。苦難を共にした男と女、そこに芽生えし淡き想い! “大いなる実り”を守り抜いたように、おのが心に芽生えた大いなる実りも守り抜くことが出来るのか!!」
 と、コウ・タカミネは、扇子をびしっと、クレスとミントに向けた。
「?」
「??」
 きょとんとする二人。顔を見合わせる。
「ああ、戦いとは非情なり。おのに芽生えた甘き想いすらも忘却せしめて世界のために剣を揮うのか。そして戦いは終わり……気づき始めるのだ~~~~!!」

 ぱんぱん!!

 大広間に異常にハイテンションな講釈師ひとりと、5人の若者。呆れたように通り過ぎてゆく宿泊客達。

「長くなるかもね。覚悟はいいかい」

September 11, 2003 Kou Takamine.