桐島青大×浅倉清美編 涙の夜に~Night of tears~ 第5話

 ……ぽすん……
 寝台のシーツに仰向けに倒れると、本当にそんな音がする。
 腰まで伸びたまっすぐな髪が墨絵のように白いシーツに広がり、そこに落ち、泣き腫らしたばかりの茫然とした瞳が、きょとんと天井を見つめている。
「大丈夫か……」
 そんな清美の身体の上にあり、髪を手櫛で収拾し、両脇の下に肘を突いて、体重をかけないように気遣う青大。真上からその瞳をのぞき込む。彼女も見つめ返して微笑した。
「大丈夫……ありがとう……うれしい……わ」
 気丈でどこか天然。それでも隠しきれないほどの弱さが、青大の琴線を大いに刺激する。
「浅倉……」
 青大がたまらず目を細めて顔を落とすと、清美は唇を少し尖らせて青大を先制した。薄めだが、弾力のある感触。その美貌にわずかに残る淋しさと、恍惚とした表情が今の浅倉清美の心情を表していた。
 青大がもう一度頭を上げると、清美は薄目を開け、おもむろに腕を青大の首に廻しながら、言った。
「ねえ……桐島くん?」
「な、なんじゃ」
「お葬式の会場から出るとき、何を言いたかったの?」
「は? 薮から棒に何を……」
「私を見ながら、まァな……って。はぐらかしたでしょ?」
 それは、風間の言葉を思い出しての独言だった。
「あぁ……」
 清美の指摘がきっかけとなって、青大は風間の言葉を思い返した。
 今となっては、それを胸の奥に仕舞っておく必要も無いのか。あいつを過去として、今こうして清美と一線を越えようとしているのに、格好つけもないだろう。
 青大は身を捩り、清美の傍らに仰向けになった。清美の腕が外れ、宙を彷徨う。
 青大はその手をそっと掴むと、話を始めた。風間の壮行会の夜、青大に清美を託すと言われたことを。
 話しているうちに、清美は青大の腕にしがみつき、バスローブ越しに胸に顔を埋める。
「ばかな人……。気にもかけてくれなかった人のことを心配するなんて……」
 清美は笑い声混じりに呟いたが、声が震えている。青大は片腕を清美の背中に回して抱き寄せると、苦笑気味に言う。
「まあ……お前にとっちゃ、確かに迷惑な話じゃろうけど……」
 すると清美はひょこっと顔を上げ、にこりと笑みを見せたと思った途端、青大に伸し掛かり、キスをして舌を絡めた。数秒の交歓の後、清美は顔を上げて青大を真上から見下ろし、目を細めた。唇を繋ぐ銀糸が、輝く。
「そんなことないわよ」
「浅倉……?」
「あなたのことは、恭輔くんの次に好きよ――――」
「…………」
「あなたのことはあの時から見てきただけだけど……恭輔くんに似ているのね――――だからかしら……。あ、勘違いしないでね。二番目って訳じゃないわ。恭輔くんと……彼と同じくらい……きっと……」
「自分に似ているから……安心してオレにお前のことを……?」
「あなたより長く付き合っている友達っていっぱいるのにね。東京が短いあなたを択ぶくらいだから、よほど信頼されているのよ……桐島くん……」
「そうか……風間のやつ――――だから……」
 青大も顔を逸らし、唇を噛んだ。今になって、再び悲しみが去来する。
「恭輔くんは……もういない。……だから、もう私には桐島くん、あなたしかいないわ」
 清美の言葉に連動するように、バスローブが彼女の肩からするりと滑り落ちて行く。白い肌に豊満な乳房が、まるで柔らかな護謨のように伸び、桃色の先端が青大のはだけた胸に落ち、わずかに硬い乳首が重なる。ぞくっとした快感が青大の身体を駆け抜けた。
「浅倉……」
 顔を朱に染め、潤んだ瞳を細めて熱い息を漏らす清美が、微笑みながら青大を見つめる。
「抱きしめて……桐島くん……お願い……私を……思いきり、包んで欲しい…………」
 それが青大の情欲に火をつけた。
「はぁむ……んんっ…………ちゅ……ちゅ…る……あ……は……」
 清美の頭を引き寄せ、青大は清美の唇を強引に奪い舌を絡める。彼女も負けないとばかりに青大に反応し、長い舌を青大の口腔に捩じ込んでくる。
 息が詰まるかと思うほどの積極的な清美の欲求に、青大はたじろぐ。
 負けじとばかりに、青大は掌を動かし、清美の豊かで柔らかな胸を横から撫でるように包み込む。
「んっ……ぷぁっ……!」
 初めて触れた女の子の乳房の感触は、青大の想像を絶するほど心地良い弾力と、滑らかさだった。指先の力が抜け、関節が痒くなり、がくがくと痙攣してしまいそうな感覚だった。
 清美が思わず唇を離し甘い声を上げる。わずかに弓なりに反る身体。その隙に青大の掌が更に清美の高い肉陵を駆け上る。そして、ぴんと張った桃色の小さな頂点を、掌の中心に感じる。
「あ……ン……だめ……きりし……ま……クぅン!」
 眉を顰め、眦から一筋の涙を通し、赤らんだ唇から体奥の火照りを吐く清美。青大が指を窄める。
「あぁ……だめよ……恥ずかしいから……」
 青大の手にも収まりきらない清美の胸。風間は本当、見る目がない。なんてことを一瞬思った。
「やっぱ……でけぇ――――思った通りじゃ」
「ふぇ? ……なぁに?」
 気の抜けた声で反応する清美。青大はくすっと微笑んだかと思うと、もう片方の手も動かし、清美のもう一つある未踏の丘陵に滑り込ませた。
「……んんッ……くすぐっ……たいわ……もう……ふふっ」
 感触に慣れてきたのか、ぞくぞくと背筋に走る快楽の電撃を、清美は嬉しそうに甘受し、恍惚で妖艶な表情を創り出す。
「小学生の頃な、牛飼ォてる農家に乳搾りの実習したことあったんじゃ……そして、こんな風に――――」
 青大が悪戯っぽく笑うと両手の指をまるで閻魔大王が舌を抜くときに使うペンチの先ように指をCの字に曲げ、横から清美の乳房を掴む。
「痛ッ!」
「あっ……痛かったか――――悪ィ」
 慌てて手を離す青大。
「ばか……強くすれば痛いに決まっているでしょ! それに、何? 牛の乳搾りって……どーゆー意味かしらッ!?」
 怒気が籠もった声に、青大が苦笑する。
「ゴメンナサイ……やってみたかったんです」
 青大がしょげると、清美はすぐに機嫌を戻し、くすくすと笑った。
「……ねぇ、私の胸……どうかしら?」
「ど、どうかしらって、な、なんや」
「ヘン……じゃない?」
 甘く妖艶な声だ。
「ヘンじゃ……ねぇよ、うん」
 改めて聞かれると何故か恥ずかしい。
「ふぅん……そう――――」
 清美が小さく舌を出して唇をひと舐めすると、突然自分の掌で大きな胸を持ち上げ、上体をずらして青大の顔を挟むように伸し掛かったのだ。
「えい!」
「んん――――――――」
 極上の柔らかな二つの胸肉に息を塞がれる青大。頬、こめかみにしっとりとした絹の肌触りと、得も言われぬ柔らかな圧迫。そしてボディソープの甘い香りが、青大の鼻腔を直撃する。
「ふふふっ、どうかしら。ギブ?」
 そんなの、少し力を込めれば簡単に解放される。だが、そんなことするはずがない。清美の双陵は、きっと男ならばそのまま窒息死しても良いと思えるほどに、心地良いものであった。
「んんん――――――――」
 青大はもがくふりをして頭全体に受ける豊満な胸の感触を堪能した。そして、腕を清美の背中に廻し、抱きしめると、そのままぐるりと体勢を反転させた。
「あっ……ん」
 清美が下になり、青大が上になる。当然、胸肉の束縛はあっさりとほどけてしまう。
「あーさーくーらー!」
 わざとらしく怒ってみせる青大。両手の指を思いきり広げ、わしゃわしゃと関節を動かしてみせる。
「うふふふ、きゃぁーー!」
 清美もそれに乗ってじゃれ合う。
 青大の両目から見下ろす清美の双陵は、想像以上に美しい形をしていた。
 大きいだけでなく張りがあって型崩れの一つもしていない。光に照らされた先端も綺麗な桜色で、誰の手にも触れられていなかったことを示す、処女そのものの新鮮さだ。
「綺麗なムネ……じゃ……」
 青大が思わず呟くと、清美はくすくすと笑う。
「誰と較べているのかしら?」
「いや……あか……誰でもねェよ。……そう、雑誌のグラビアじゃ」
「桐島くんって、おっぱい星人?」
 突然の質問に驚き青大の唾液が鼻に逆流する。
「な……だ、誰がじゃ」
 こいつは俺と風間との会話聞いていたのではないかと思われるほどに核心を突く質問を飛ばしてくるものだなと、青大は思った。
「よくわからないけど、男の人って、大きな胸の女の子が好きなんでしょう?」
(それをお前が言うか……)
 青大が心で呟く。
「そんなことは人それぞれやろ。……でも……」
「でも?」
 青大は、今度は優しい手つきで清美の双陵をなぞる。
「…………んっ…………」
 目を細める清美に、青大が言う。
「お前はそこいらの頭の悪いグラビア女なんかより、ずっとキレイでスタイルもええよ」
 すると清美は嬉しそうに青大の頭に手を回す。

「彼に見て欲しくて……頑張ってきたんだから――――当然よ。……だから、桐島くん……もらって――――ね?」

「浅倉……」
 青大はたがが外れたように、清美の乳房に貪りついた。未踏の頂きを、舌で転がし、強く吸い付いた。
「あぁ――――いい! きもち……いい……わ――――ねぇ……もっ……と……もっと吸って、きり……しま――――くぅん!」