快楽に歪む清美の四肢。気丈で芯の強さを具現する怜悧な白さを持つ肌が、たった数時間前まで親しい友達だったはずの青大から送られる甘美な熱を一身に受けて赤みを帯びている。
モデルも羞じて舞台袖に遁走してしまいそうな、量感のある長い脚も、うっすらと汗の玉を作り、はだけたバスローブから薄桃色の太腿を青大の足に絡めてきた。
「うふ……ん……くちゅ……」
飽きることのない胸の堪能。しかし、青大は顔を上に上げてせがむように唇を突き出している清美に応えた。
清美の舌は長い。唇を重ねただけで、まるで蛇や蜈蚣のように青大の舌や歯茎に絡みつく。その快感に喘ぎ、果てそうなのは青大の方だった。
清美のキス攻撃に苦しくなって思わず陣を引いた青大が、ぱっつんの前髪を優しく掻き上げながら、言った。
「お前……エロすぎじゃ。そんなんで風間に迫っとったら、保たんぞきっと……」
「そ……そんなこと……。ただ私自身の気持ちに、素直になっているだけ……なんだけど……」
「初めてするやつのキスじゃねえ……」
無意味な敗北感が青大の心を重くする。それが暗い情欲の苛立ちとなった。
青大は人差し指と薬指で清美の高く柔らかな陵から、引きしまった腰に向かう滑らかで綺麗な稜線を辿り太腿の付根を覆う、布地を跨いだ。
「あ……」
おそらく、今この豊満な美少女の身体で、一番熱い場所だ。気温三十度越えの真夏の雨を思わせる、女体の熱帯雨林。青大の神経がゆびさきに集中し、未開の奥地に到達する。
「すごい……んか? ここ」
惚けたことを言う青大に、清美の顔が真っ赤になる。
「そんなこと……聞かないでよ!」
「触っても、ええんやな……」
青大が更に訊ねると、今度は清美の反応がない。
するっと、布地の護謨が一瞬だけ、青大の指に抵抗する。しかし、青大はあっさりとそれを押し退けて、清美の中心地に侵入していく。
白く柔らかな大地がぴくんと反応する。そして、さほど草木の深くない熱泉を探り当てた。
「うわぁ、ホントにこんなんなるんやな……」
指に絡みつく熱い液体に、思わず簡単の声を上げる青大。
顎を仰け反らせ、下腹部から奔る甘い痺れに時世が飛びそうになるのを、青大の言葉がかすがいとなってしまう。
「もぉ……いちいち言葉にしないで! ぁん……」
男の性なんだろう。指を蠢かすと、まるですった薯蕷芋のように粘りつく、猥らな音が聞こえてくるのだ。それが、青大を更にかき立てる。
青大の足に絡みつく清美の肉づきのよい柔らかな太腿がぷるぷると震える。そこから伝わる振動が、たまらないほどに淫靡だ。
「浅倉……」
青大は敢えて秘所に深く進もうとしなかった。驚くほど、彼女の秘泉が滔々と溢れていた事への驚き、そしてそれ以上に何よりも普段の浅倉清美とは裏腹に乱れを堪え、必死に青大からのぎこちない愛撫を拒もうとする健気な姿に、獣欲に似た感情がわらわらと惹起してくるのが、自身感じていたのだ。
指を引き抜き、濡れててかったゆびさきを目の前にもってくる。それを目の当たりにした清美がいやっと疳高い声を発し瞳を逸らすが、青大は舌を出し、自らの指を舐めて見せた。
「お前の……味や」
その行為と激しくギャップがある普段と変わらない微笑みが、清美の目に映る。それが余計恥ずかしく感じさせた。
「んんぅ……はぁ――――くちゅ……ぷぁ!」
青大が顔を背ける清美の唇を強引に奪うと、清美の身体の硬直が解れ、全身が敏感な性的端子となり、触れあう肌が甘美な痺れとなって伝わる。
青大が清美の肌から寸暇も唇と舌を離すのも惜しむかのように、蛞蝓のような跡をつけながら首筋、肩、乳房、臍へと下って行く。時々、清美が激しく喘ぎながら痙攣する箇所があった。慣れてくれば世に言う性感帯にヒットしているのだろうが、それを探るときではない。
やがて、見目引く美しい太腿の付根に、青大の舌が辿り着いた。
もう彼女の放つ色香と媚態に興奮しまくりの青大の瞳孔は開き、醜悪な支配欲が沸き起こる。
「…………」
「桐……しまくん……?」
青大が布地に手を掛けた。もはや汗と体液で役に立たず、くしゃくしゃに乱れたバスローブをも濡らしているそれに、本来の意味はもはや失っていた。それでも最後の砦とばかりに不安そうに青大の名を呼ぶ清美の声を、青大は口の端で嗤って無視した。
両手でそれを引き剥がす。するすると、滑らかな肌を伝った。清美も脚を動かし、声と裏腹に助勢した。
そして、ついに清美の桃源郷の奥、その秘湯が露わになった。
「やぁ――――! みない……で……」
顔を腕で隠し、清美は頭を左右に振ってもがいた。長い髪が、顔を覆った。
「す――――すげ……」
眩暈を覚える青大。両の太腿を閉じようとする清美の片脚を、青大は突然抱きしめ、つま先から太腿の付根に至るまで貪るようにキスをし、舌を絡ませた。
「あっ…! そ、そんなとこ……だめ……」
足首、膝の裏、内もも。青大が愛撫する度に浮かび上がる汗を、吸う。ぞくぞくと快感が奔り、それが大地の核を刺激し、熱泉を促す。
「これが…………これが女の子…………」
清美の美脚を貪り尽くした青大が、いよいよ秘湯に焦点を当てる。無意識に感動し、囈言のように呻き、食い入る。
「いや…………桐島くん……だめ……そんなに、見ないで…………!」
怖物を見るかのように、清美の弱々しげな瞳が青大に向けられている。しかし、それはむしろ逆効果だった。普段は誠意を尽くし、優しさに満ちた青大。だが、その心の裏には,彼も男らしい嗜虐心がある。清美の弱々しい表情や言葉は、それを刺激するのに十分すぎた。
青大は両手で太腿の付根を広げ、清美の表情を楽しむように見ながら、舌を伸ばしていった。
「あっあぁぁーー――――――――! やぁ――――――――だめぇ!」
指で振れたときとは段違いの淫音に、清美が思わず叫ぶ。
ただでさえ止めどなく溢れる泉を、青大は口を押し広げ、熱天下渇きに餓えた人のように女泉を吸い舐め尽くす。脚を閉じようと太腿に力が入る。しかしその柔らかな圧迫感すら、快感となって青大の情欲を高ぶらすのだ。
初めてのことだった。だからまとわりつくような快楽を愉しむゆとりなど無い。青大にとっては今はただ、目の前に素肌をさらし快楽に漂流する、恋心を抱いていた親友を亡くして悲しみにうち沈む気丈な美少女を猛然と抱きたいだけ。浅ましくてもよい。獣のようなやつ、ただやりたいだけだろという誹謗もいい。こんな媚態を目の前にして、何も出来ない方がおかしいのだ。
青大のそれはいつしか痛いほどに怒張していた。よく大きいとか小さいとか意識したことはない。多分、普通だと思う。どういう基準でそう言えるのかと言われればアレだが、ガイジンとかウマナミなどでは決してない事くらいは確かだ。
清美の綺麗な肢体に集中していて、青大自身が怒れるほど清美を求めているなんて気づかなかった。
「浅倉…………オレ……もう――――」
青大が顔をてからせながらうつろな瞳を向けると、清美も恍惚とした視線を重ねて、荒い息遣いでうんと言った。
「んん……くちゅ…………ア……はむぅ………んぁ……」
再び胸を合わせ、激しいキスを交歓する。そして腰を動かす。
青大の敏感な場所に触れる清美の太腿の柔らかさに、脊椎に冷たい電撃が奔る。思わず、唸ってしまう。
文字通り、腰砕けになってしまいそうな下半身の快感。痺れを切らしてしまったかのように思うように腰の操作ができない青大。
「あ……れ? なんか……」
困惑する青大に清美は両手で頬を挟み、言う。
「大丈夫? ……桐島くん、仰向けになって……」
そう言うと、清美は身体をすっと横にずらし、青大の身体がぽすんとベッドに落ちた。
「浅倉?」
うつぶせの青大。その横顔に微笑みながらキスをする清美。指で青大の脇を軽く押すと、青大はころんと仰向けになった。
見上げる形の清美の裸体。彫像のような美しさだ。風間のために磨き上げてきたという身体。それを今、自分のものにしようとしていると考えるだけで、血が滾る。
首を軽く払い、ほつれた長い髪を背中に戻す。そして、ゆっくりと長い片脚を広げ、青大の上に跨がるような姿勢になった。
「これって……お前……」
「言わないで。恥ずかしいんだから……」
わずかに外方を向き、ため息を漏らす清美。
そして自ら腰を動かし、指で青大の腰をまさぐった。
「うぁっ!」
清美の長い指が青大のそれに触れた。ゆびさきのほんのりとした冷たさが青大に未曾有の快感を与える。
「あぁ……すごい……こんなに硬いの……?」
怖物に触れるかのように激しく逡巡する清美の手。やがて、おもむろに慣れて行く指の動き。青大を搦め、ぎこちなくもそれを上下に動かして行く。
「あっ……浅倉――――だ……め……じゃ!」
怖ず怖ずとした動きが却って青大の頂きへの近道を示す。ゆっくりと景色を愉しむ暇もない。
「もう……桐島くん…………あっ…………そろそろ?」
手の動きを止めて清美が青大を見つめる。青大の切なくも茫然としたため息まじりの表情に、そこはかとなく嬉しそうな表情を浮かべ、清美が膝を寝台に突き立て、軽く腰を上げた。
そして、その瞬間――――
(お前にしか……頼めねぇことだ――――)
(風間……?)
(あいつは大事な幼なじみだからさ――――桐島にだったら、安心して任せられると思って――――)
「はああぁぁ! くぅ――――――――うあぁぁぁ!!」
(そん時に……清美とつき合ねーかって言ってんの)
一つに繋がった瞬間に、大きく弓なりに仰け反り、ぶるんとその豊満な双陵が揺れた。
青大も、たまらず腰を突き上げる。痛みもそこそこに、深く、奥まで一気に繋がる……。
(風間…………馬鹿野郎――――)
清美の締まった腰を片手で掴み、もう片方の手でその胸を激しく揉みしごく。そんな青大の脳裡に一瞬、過ぎった親友の影。大波のように体芯から沸き起こってくる白き欲望に意識が囚われて行く中で、今はただ風間恭輔への餞として清美を激しく抱擁することが、青大に出来ることだった。
激しく喘ぎ、身体をくねらせる清美。結局、初めての夜は幾度となく涯を見、早暁になって、ようやく眠りについたのだった。
「ねぇ……桐島くん」
始発を待ちながら、清美が青大の腕をそっと両手に掴む。
「なんじゃ」
「ごめんなさい……」
「何を謝ってるんじゃ」
「だから……その……」
すると青大は人目も憚らず、清美の肩をぐいと抱き寄せた。
「後悔なんぞする訳ないろォが。言うたじゃろ。オレは……お前のそばに、おうたる。これからも、ずうっとじゃ」
「桐島くん……」
「な、あさ…………清美」
にこりと、青大がいつもの笑顔を向けた。
「あ……ありがとう――――きり……青大!」
そして、電車は、前夜の雨とは違う、快晴の東京に向かって走り出した。
高校を卒業して、大学も卒業し青大は清美と結婚した。でき婚かと言われたが、子供が出来たのはそれから数年の後。
“彼女”とは、あの親友の葬儀以来、二度と会うことはなかったのだった。