銀河の海を望む窓辺、入日の窓辺と同じ位置で、青大が窓の縁に凭れ、明日香が青大の首に腕を回しながら細い身体を押しつけるようにして、はげしく舌をからみ合わせる。
「ん‥‥ん‥ぷぁ‥‥!」
息継ぎに一度顔を離した明日香。恍惚とした表情、瞳は潤み、火照った頬がはっきりと分かる。
「あの時のようにはならないから‥‥」
明日香が切なそうな声を出す。
「あの時?」
「先に‥‥寝ちゃうなんてことは――――ないから」
それは忘れもしない、ラブホテルでの初体験未遂。
お互いにテンパってしまい、思い出しただけも全身の力が抜けてしまいそうなほどだ。
「あン時は、オレもテンパっとって‥‥その‥‥」
明日香の髪を梳く手が思わず止まる。
「今日は‥‥あの時の約束、果たせるね」
「?」
「私もがんばるからさ‥‥続き――――しよ?」
そう言うと、明日香が顔を寄せ、青大に唇を重ね、戸惑うように、舌を入れてくる。
(明日香‥‥)
「んっ‥‥んんッ‥‥!」
口の中に広がる、明日香らしい柑橘系の香りに青大の脳髄が刺激された。
男の情欲なんて実にもろいものだと思った。あれほど押しとどめることに苦心を感じなかった日々だったのに、今はむらむらとこの華奢で快活な健康的な少女の身体を、心の底から欲しいと思っている。
ちゅるちゅると、粘っこくて淫靡な舌のからみ合いが鼓膜を刺激し、青大の身体の中心からゾクゾクと痺れが走る。
「んん‥‥んぁ!」
青大が浴衣の上から、明日香の小ぶりな胸に触れると、ぴくんと彼女の身体が振れた。
「や‥‥ぁ‥‥ち‥小さい‥‥からァ」
唾液で濡れた小さくて薄い唇から、まるでうわ言のように呟く。何度褒めちぎっても、やっぱりコンプレックスは簡単には克服されるものではないらしい。
「ええと思う‥‥オレは‥‥明日香の胸、好きじゃ」
何度もくり返した言葉。不思議なものでこういう言葉というのは、百回くり返しても飽くことがないのだという。
キスをしながら青大が胸をまさぐると、明日香も反応して舌をくねらすのだ。
「明日香のここ‥‥こりこりしとるのに、やわらけぇ」
青大が親指と人差し指で胸の先っぽを軽く摘みながら、明日香の耳元に囁く。
「あ、や‥‥やぁ‥は、はずかしいこと‥‥言わねぇで」
ぞくぞくと明日からの身体が痙攣するのが分かる。
青大は一瞬、甘美な痺れに目がくらむと、明日香の耳に舌を這わせた。
「あっ‥‥やだぁ!」
はげしく首を振って耳もとから奔る快感を拒もうとする明日香。しかし、青大の優しい束縛は明日香の拒絶をあっさりと無にしてしまう。
まるで甘美の水中に溺れかけたように、ほのかに喘ぐ清純な唇を、青大はまた塞ぎ、蹂躙する。
「んん‥‥んぷっ‥‥ぷぁ‥‥あぁ」
薄い上唇、下唇と、青大が自分の唇で挟み、吸い込み、何度も舐める。明日香の唇は口紅を差したかのようにぱっと色づき、星の光に映えててかった。
「力抜けて来たんか‥‥?」
もたれかかる明日香の重みが増すのを感じる青大。
「うん‥‥ちょっとだけ‥‥ゴメンね‥‥私、がんばるから‥‥」
苦笑いを浮かべて、明日香が上体に力を入れようとする。浴衣の胸許ははだけ、“美乳”が青大の目を捉えた。
「今度は‥‥私にさせて?」
「明日香?」
青大が恥ずかしそうに微笑を浮かべる明日香を見つめると、明日香はこくんと小さく頷いた。
そして、そのまま青大の首筋にその薄い唇を押し当ててきた。
「う‥‥」
まるで、小さなナメクジのようなぬるりとした明日香の舌の感触が、青大の首筋からゆっくりと下に伝う。
「‥‥はぁ‥‥」
痩せすぎでもない青大の胸板。時々、明日香は唇をすぼめて痕を残す。
「えへへ。こうすればキスマークが出来るんでしょ?」
ちゅううとわざと音を立ててみる。
「め‥‥目立つところに‥‥つけんなや」
そんな言葉も、明日香には伝わらない。
「あ‥‥青大のここ、たってるよ?」
「えぇ?」
明日香がとろんとした眼差しで青大の胸の先を見つめる。
「男の人もこう‥‥なるんだぁ」
まじまじと見つめた後、明日香はおもむろにそこを口に含んだ。
「うあ! あ、明日‥香‥‥」
ぶるぶると青大の身体がはげしく痙攣し、硬直して仰け反る。思わず、明日香の細い肩をがっつりと掴んでしまう。
「んふふ‥‥きもちいい?」
上目遣いに青大を見ながら、明日香がちゅぷちゅおうと音を立てながら、唇をすぼめた。
「あぁっ、うぅ‥‥かはっ!」
そこからぞくぞくと奔る電流。くすぐったさを通り越して、のたうち回りたくなるくらいの甘い痺れに、青大の表情が切なく歪む。それを、愉しそうに見上げる明日香。
「ん‥‥はぁ‥‥」
明日香はもう片方の指を、青大のもう一つの胸に這わせながら、唇と下をさらに下につたう。
青大は筋骨隆々というわけではなかったが、そこそこ引きしまった身体をしている。テニスサークルで市原に酷使されている甲斐もあるというものだ。
明日香の小さな舌の微妙な感触が、波のように寄せては引き、それがどうしようもなく青大の下腹部から欲情を発生させる。
明日香も本能的にそれを知っているのだろう。青大がしたように、自分も青大の胸を指でいじりながらその度に反応を返すことに悦びを感じ、昂揚してゆく。
「いいんだ――――青大‥‥」
そして、明日香の目の前には、はだけた浴衣から露わになった彼の下着、チェックのトランクスが映る。
「‥‥‥」
「明日香‥‥なにすん‥‥いい――――」
逡巡した様子の明日香に、青大が声を掛けたと同時に明日香の手が伸びる。
「は、恥ずかしいけど‥‥あの時のお詫びさせてくれ青大――――。き、今日は‥‥私がお前のこと‥‥」
明日香は潤んだ瞳で青大を見上げ、覚悟を決めたように一回、瞼をきつく閉じると、トランクスのゴムに掛けた指を下げると同時に、顔を寄せていった。
「うぁ‥‥あ、すか‥‥」
ひやりとした柔らかな感触と、湿った熱い空気が、青大のその先に触れる。今まで全く知らない、えも言われぬその感覚に、青大は全身が千切れるかと思うくらいの甘い電撃に打ちのめされた。
「ふっ‥‥は‥‥」
その感触に戸惑うのは明日香もだった。温泉の香りとはあきらかに違う青大のその部分の匂いと味覚。
顔を背け、飛び退きたくなった。唇が震え、顔の神経が弛緩して倒れたくなる。
一瞬だけ目にした突出した青大の部分。殺伐とした見た目の他、浅い知識があるとはいえ、初めて見る明日香にとっては、それがどれくらいのものなのかは全くわからない。
(っつーかオレの方もそんな大したコトねーし‥)
あのとき、青大が言っていたことを思い出すが、誰と較べるわけでもない。すべてが青大基準なのだ。
だから大学の友達や、その方面の映像や書籍から得たつけ焼き刃の性の知識を明日香は真似る。
「はっ‥‥! ちゅる、ちゅ‥‥」
先を唇で挟み、舌を伸ばしながら、怯えるように硬くなっている部分に這わしてゆく。
「うぅ‥‥ちょっ‥‥ちょッ明日香」
腰砕けになりそうな青大が思わず明日香の頭を両手で掴み、離す。
「ご、ごめん‥‥気持ち‥‥良くなかった?」
半開きの唇のまま、切なそうに青大を見上げる明日香。
「そ、そうじゃのォて‥」
「へた‥‥でしょ? ゴメンね、初めてだから、わかんなくて‥‥」
「‥‥てか明日香、どこでこんなコト――――」
「え? えっと‥‥友達の話とか‥‥本とかなんだけど‥‥よく、わかんなくって――――。やめようか」
恥ずかしさで死にそうになる。明日香の顔は今にも火が出そうだ。
「いや。オレも初めてで‥‥明日香がこんなんしてくれるて思うと、頭がクラクラしそうなんじゃ」
「もォ‥‥あんまり言うな――――」
明日香が顔を背けると、青大が言う。
「椅子に座ってもええか。立ったままじゃと、保たんわ――――」
明日香が青大をちら見すると、青大もまた、恍惚とした表情で、明日香を見つめていた。
「あ‥‥うん‥‥ゴメン、立ったままじゃ、疲れるよね――――」
広縁に備え付けの椅子に青大が腰掛ける。まるで麻酔に掛けられたかのように、下半身がフワフワする。
明日香も体勢を直すと、椅子に座る青大の両脚の間にうずくまる格好になった。
上から見下ろす青大。そこはかとなく、偉くなったような錯覚がする。
「明日香‥‥」
青大は気を取り直すように明日香を抱き寄せ、唇を重ねる。
「んっ‥‥んんっ‥‥ちゅ‥‥」
いやらしく舌を絡め、唾液の交歓をまったりと味わう。指で硬くなった明日香の胸のしこりを摘む度に、喉の奥で甘い呻きを上げるのだ。
「また‥‥そろそろ‥‥」
青大が鼻から抜ける声で促すと、明日香はこくんと頷き、上体をすぼめる。
そして、再び、青大のそこに顔を近づけた。
「あ‥‥なんか、さっきより大きくなってるよ?」
くすりと笑う明日香に、青大は恥ずかしそうに返した。
「お前を見とると‥‥こうなる一方じゃ」
「よくわかんないけど‥‥喜んでいいんだよな」
そう言って、明日香は唇を開いた。
「はん‥‥うむ‥‥‥は‥‥」
火照った口の中に分泌されるいつもより粘っこい唾液。雰囲気に中てられたのか、明日香は最初よりもすんなりと青大のそれを、ゆっくりながら呑み込んでゆく。
(あ‥‥すこししょっぱくて――――むにゅむにゅする感じ‥‥)
一瞬、異物を口に入れた時に催す嘔吐感に襲われたが、咄嗟に舌を動かし、青大のそれに唾液とともに絡めて抵抗した。
「うあっ! あぁ‥‥明日‥‥香ぁ」
弓なりに仰け反る青大の背中。あごが大きく傾き、喉の奥から裏声の悲鳴が上がる。
「ふっ‥‥ふぁ‥‥ふぁる‥‥ほ‥‥?」
恋人のその様子に、明日香はさらに不思議な高揚感に囚われる。
舌の真ん中に唾液を溜め、それで青大の先端部分を一気に絡みつけて撫で上げる。そして、先で段差を弾くように弄し、分身の胴をつついた。
さらに、上下の唇を突き出したりすぼめたりしながら、青大の分身をしごく動きをした。
「くっ‥‥あぁ――――! 明日香‥‥いい」
明日香が自分のものを口に入れている、そしてぎこちなくも唇や舌を使って刺激をしてくれている。そう思っただけで、青大は快楽の頂に達してしまいそうな感覚になる。
「んぷっ‥‥はぁむ‥‥んぐっ、んぐっ‥‥!」
決して心地良い感じではなく、むしろ嘔吐感に苛まれる明日香。まなじりから無意識に流れ落ちてゆく涙。それでも懸命に青大のものを口で愛そうとする姿に、青大も愛おしさと情欲が同時にこみ上げてくるのだ。
吸い上げ、舌で絡め、頭を前後に弛まなく動かし続ける明日香。初めての行為に集中し、ただ青大に満足してもらいたいと願い、頑張ってくれているのだ。
「うぅ‥‥明日‥香――――」
「んむ‥‥?」
とろんとした目で青大を見る明日香。
「なん‥‥か。や、やべぇ‥‥」
体奥がじゅんと熱くなり、何かがこみ上げてくる青大。思わず、明日香の小さな頭を掴む。
「はっ‥‥んんぅ!」
驚き、目を見開いて怖いものを見るかのように青大を見る。
「あああっ、は、離れろぉ明日香! ま、マジでやべぇ‥‥!」
ぐいと腕を突き上げる青大。だが、明日香はぶんぶんと首を横に振って拒否する。そして、青大の腰に回していた腕にきゅっと力を入れた。
ぐっちゅ‥‥ぐぷぷっ‥‥
明日香の口許から漏れる粘音がさらに淫猥度を増す。
そして、青大の体感温度が一瞬、大きく低下し、ひときわ大きな痙攣が下半身にこみ上げた瞬間だった。
「うあああぁ!」
無意識に青大が腕を縮め、明日香の頭を強く股間に押しつける。
「んんんぐあぅ――――――――ッ!」
喉奥に青大のものが突き刺さり、明日香の瞳が飛び出すかと思うほどに開き、くぐもった悲鳴が室内に反響した。
どっく‥‥どくんどくん!
口の中ではげしく脈打つ青大の分身から、熱い液体が迸り、明日香の口内を満たす。
「うっ‥‥ごふっ、ごほっ、ごほっ」
経験のない感触と味にはげしくむせる。
「あっ、はぁ‥‥はぁ――――」
吐き尽くした青大は脱力感に腕を落とす。そして、明日香もゆっくりと顔を引いた。
ちゅぷ‥‥
唇をすぼめる明日香の口の端に白みがかった液体がわずかに垂れていた。
明日香は青大を見上げてくすっと微笑むが、何かを怺えた苦しさが滲んでいる。
「明日香‥‥吐いて――――」
青大が言いかけると、明日香は首を振り、少し間を開けると、上を向き喉を鳴らしたのである。
「明日香――――!」
「んんっ‥‥あはぁ、苦いじゃん、これ‥‥」
舌を出して苦笑した。