君は振り向き、そこに刻まれた足迹を数えたことがあるだろうか featuring 君が微笑むなら from Yasushi Nakanishi 第6話

Chapter.6 堕天使の狂宴

 人間ならではの長い前戯という行為。
 狭い建物の合間に小さく反響する、熱く、湿り気を帯びたくぐもった声。秋口の涼しい風も、この小さな世界には通り抜けることはない。
 青大に求められるままに、煤けた壁に両手を突き、懍は羞づかしそうに腰を僅かに突き出す。
 青大は背後の壁に寄りかかりながら、ゆっくりと片手でズボンのベルトを外してゆく。こういう時というのは、ぎこちなくも不思議と手先が器用になるものだ。
 すっ…と、掌で払えば、懍の短いスカートの裾がまくり上がる。
 男の劣情をかき立てるかのような下着を履いているのが、薄暗く狭い空間の中でも見えた。それが懍にとって、懸命に頑張ったものである、と言うことが青大には分かった。微かに震える腰、押し殺すような息遣い、きゅっとすぼめた唇と、怖れるかのような眼差しを隠すように閉じる瞼。
「ええんか、懍ちゃん……」
「……はい……」
「嫌じゃ言うても、止まらんけぇ。やめるなら、今じゃ」
「青大さんこそ――――止めたいなら、今じゃないですか」
 この小生意気さが、懍らしかった。いや、もしかすると敢えてこう言って挑発し、青大の裡の欲望を煽り立てているのだろうか。
 こんな屋外で、しかも恋人の妹とこのような状況になってしまったことへのある意味、背徳への興奮があった。それが、結果的に懍の“策略”に嵌まることになるわけだが。

 青大のそれは、自身でも驚くほどに怒張し、懍の細くも形の良い内股の中心を目掛けて砲身を向けていた。
 そして再度、懍に念を押すのも興醒めだ。青大は喉奥に溜まったひどく粘ついた唾液をごくりと飲み込み、僅かに残っていた躊躇いを振り払い、手を懍の腰に伸ばす。
 柔らかく、滑らかな感触に懍も小さく反応した。
 此の期に及んで強がりを言ってもやはり怖いのか、と青大は心裡で嗤ったが、懍の期待とも不安とも言えぬ生めかしい表情がそんな揶揄を一瞬で消し去った。
 懍だからという訳ではないだろう。若い女性の肌はこんなにも滑らかで弾力があるのだろうか。
 青大はそこに触れ、いつも以上に敏感なその感触に、思考が真っ白になりかけていた。
「んっ…………あ…………!」
 そこだけ妙に熱帯のような湿度に包み込まれ、冷気通り抜ける空間。
 熟れた柚希との交歓で迷うことはないと思っていた。だが、なぜか思うように行かない。懍の涌泉に宛がうものの、そこからがまるで未知の領域に逡巡し蹌踉とする足取りのようになってしまう。
 焦らされているのかと思ったのか、懍は僅かに腰を揺らして青大を促した。
「うっ……」
 懍の秘孔を覗く青大自身。青大は感じた。そこは確実に、柚希とは違う。まだ未踏の狭き領域。青大は意識していないだろう、一般の男たちからすれば羨ましいほどに、二つ目のこんな美しい奥地を初めて独り占めに出来ること。

 男というのは普段どんなに聖人君子を気取っていても、こんな時は俗欲の色魔に擬するものだ。
「っく…!」
「あぁっ!!」
 青大がぐっと腰を押し込むと、懍の全身が強く収縮した。それと同時に疳高く悲痛な叫びが、その小ぶりな唇から反響された。
「うぁ、懍……」
 まるで、突然深い水の底に潜り、その水圧と息苦しさに窒息しそうなほど、懍の体奥から伝わる快感が青大の体芯を締めつけた。
「ん……あはっ………はっ……」
 懍らしく、余裕ぶり微笑みを作ろうとするが上手くいかない。懍のような華奢な身体で、男では想像も出来ない位の破瓜の痛み。全身に力が入らないはずなのに、この小悪魔は強がり、青大の侵入をまるで“そんなもんなんですか?”と言わんばかりに不敵に笑おうとさえしている。
「大丈夫か……懍ちゃん」
 背後から伸し掛かるように、青大は懍の耳元に囁く。
「あ……ふふっ、大…丈夫ですよ……これくらい……」
 その繕った微笑みが懍らしさを保っていた。
「きついようやったら……すぐに止めるけぇ」
 青大なりの気遣いだった。だが、その言葉に懍が嗤笑する。
「そんなこと言って……ん……青大さんのほうが、自信……ないんじゃ、ぁ……ないんですかァ?」
 分かっている。だが青大は思った。今更遠慮する必要も無い。挑発に敢えて乗ってやる。
「後悔すんなよ」
 そう言うと、青大は後ろからそのまま懍の豊かな乳房を両側から鷲掴みにすると、ぐいと彼女の状態を持ち上げたのだ。
(うわぁ……柔らけぇわ)
 柚希とはまた違った、手の平に収まりきれない程の弾力が青大の欲望を刺激する。
「んっ……そこからだけで、いいんですかぁ?」
 青大は言うまでもなく、開いた胸元から指を滑り込ませ、懍の白き陵を急くように駆け上った。
「ブラ……しとらんのか――――悪い娘じゃ」
「…………」
 青大の手全体に伝わる体温と肌のきめ細やかさ。そして、ぷくりとその先だけ滑らかに、そして堅く凝った小振りの蕾。そこを青大は親指と人差し指で軽く弄り、摘む。
「あっ……や……やぁ!」
 聴くだけで劣情をかき立てるような、小悪魔のか弱き喘ぎ声。
「気持ち、ええんか? 懍ちゃん」
 胸を揉みながら、青大は耳を覆う懍の髪の毛を唇で掻き分け、桜貝のような耳朶を舐めながら囁く。
「そ……そんなこと……あんっ……ありません!」
「へぇ……」
 青大は頤を反らしながら強がりを言う懍の様子を愉しみながら、今度は腰をすうと引き、ギリギリのところで思い切り突き上げた。
「ひぁあ!! ああーーーっ!」
 ジェットコースターのように襲いかかる快感に、懍の瞳が大きく見開かれ、無意識に開いた唇からは、あの小生意気で悪戯っぽい舌が伸び、口の端からは涎が僅かに伸びている。
「は……青大さん――――痛いです……初めてなのに……ん……そんなに強くしちゃ……」
 すると青大は途端に後悔に囚われる。
「あ、ご……ゴメン――――つい、調子に乗ってしまったわ」
 損得を考えず、懍が苦しさを訴えればすっとやめる。やめた上にケアを試みる。どこまで行っても、そんな単純さを失わない青大。他人のためならば、自分が傷つくことを厭わない、優しい人。
「あ……でも、もう大丈夫です……。青大さんの、好きにしてください――――」
 青大を身体の中に感じながら、懍は改めて思っていた。
(青大さんを独り占めにしたい……青大さんは私のもの……姉さんには……もったいない!)
 青大にだけ見せびらかす自慢の胸。その胸を今、青大に愛撫されている。柚希と何度も行き交いした、青大自身を今、初めての場所に迎え入れている。
 だが、懍は物足りなかった。青大のそれらのことを柚希がものにしていた。そのことを数えるのも悍ましいほど脳裏に過ぎるたびに、どす黒い感情がわき上がり、それが懍としての情欲となって、青大と融合するのだ。
「あはっ、不思議ですね……。青大さんが……私の中に入ってますぅ……」
 少女から大人の色っぽさのグラデーション。それが懍が湛える魅力。青大ですら堪えていた嬌態。
 頬を染め、泣き黒子に寄せる流し目。頬骨をうっすらと桃色に染め、ただでさえ周囲の男達の眼差しを集める懍の美貌を、更に引き立てる。
「懍……!」
 魔性にならんとする寸前の独特の色気に、青大は中てられた。
 片手で懍の瑞々しい胸を蹂躙しながら、もう片手で懍の頬を引き寄せ、此の期に及んで悪戯を紡ぐ唇を貪るように塞ぎ、舌を拘束させた。
「ふっ………ちゅく……あっ……ふはっ……」
 首をほぼ真横に向けるような苦しい体勢なのに、懍は悦ぶように青大の舌攻勢に応戦する。
 と、同時に懍を貫く芯棒も律動を再開させる。
 ぬめる懍の内。少し動く度に、その玄妙な肉襞の絡みつきが青大の思考と力を一瞬にして奪ってしまうのだ。
「あぁ――――はると――――さ……んッ!」
 掴むところがない両手で空を握りしめる懍。青大も性技に手慣れているわけではない。懍の身体、一つ一つの部分がすべからく新鮮で、幽玄で、艶めかしく、そして背徳だった。

「懍ちゃん…………こっち、向きぃや」
 まだ達しない中で、青大は一度芯を抜き、力が抜けた懍を支える。二人の両脚はすでに体液でベトベトだ。だが、尽きぬ快楽にそんなものは気にもならない。
「はると……さぁん……」
 いけないのに、不慣れで強がりさがツケとなって懍自身の体力が奪われてゆく。ふらつきながら、懍は青大に言われるままに正面を向く。
「オレも限界じゃけぇ……懍ちゃんを見ながら、イキとうて」
「あ……ふふっ……はい」
 懍は恍惚とした表情で微笑みを作ると、するりと青大の頸に細い両腕を絡めた。そして青大は片方ずつ、懍の形の良い太腿に腕を忍ばせて、ぐいと持ち上げた。
 狭い空間。それでも、この方が楽だった。その世界の知識では、駅弁がどうとかというらしい。そんな形で、青大は懍の秘部を再び突き上げた。
「うあっ! はるとさぁぁ――――ん!」
 脳髄を刺激する、懍の愛らしい嬌声。もはや、青大は何も考えられなかった。ただ、ひたすら律動して、心の奥深くに閉じ込めていた獣が、ひとときの陽光の下に解放されたかが如く、懍の身体を自らの腕の上で翻弄し尽くしたのだった。