preface
「それでも僕は君が好き」。週刊少年マガジンで連載が始まった頃は、瀬尾公治氏の「君のいる町」が個人的には飽和状態で、ラブコメにやや嫌気が差していた事は記憶に新しいところである。
ストーリーも又候同じようなタイプの主人公で過去の行いに悔いて恋愛に臆病になっている。オムニバスらしい、なかなかこれと言った本命なき展開。正直、週刊連載時は完全に棄てていた。まあ、君のいる町や、流石景氏の「GE~グッドエンディング~」などの考察も手掛けていたので、読むこと自体億劫になっていたという事情がある。
しかし、別冊少年マガジンという月刊畑に移籍してから、この作品は大いに化けた。週刊時代には描けていなかった、いわゆる大人の部分、心理描写など比較的大胆に、ウイングを広げてストーリーが展開することになった事で、ラブコメから恋愛譚への昇華を遂げ、作画の絵本奈央氏の作風を確定させるという相乗効果も生まれた。別マガは部数が少ないためか、我が地元田舎では殆ど手に入らないのでなかなか大変であった。
そういうわけで結局は単行本派という事で追うことになるのだが、昨今電子書籍が台頭し始め、不肖私も電子書籍とはいかがなるものか、と言うことに興味津々だったのだが、記念するべき電子書籍購入の第一弾は、この「それ僕」だったことは忘れることはあるまい。
しかし、已んぬる哉。本誌連載を追っていた面々と、単行本派ではところどころ齟齬が発生しているとされる。つまり、本誌連載と、単行本収録に、ストーリーの取捨選択があったというのだ。私も一部それを確認したのだが、奇しくもラスティングヒロインである、サムスン編にそれがあるのだから、いやはやバックナンバーを追うのにも一苦労したものである。
主人公・芹澤祐輔と、サムスンの水族館デートのシーンがほぼ一話割愛されたのだが、単行本収録の都合という理由だけで割愛されたわけではなさそうだと見るが、知るは作者側と、編集部側のみと言うことがもどかしい部分である。
まあ、様々な事情はあれ、月刊畑に移籍してから気がつけば恋愛譚として嵌まっていた、「それ僕」。記念すべき電子書籍単行本第一号という意味も兼ね合いながら、ひとつ錆び付いた思考回路を捻り出し、駄文を綴ってみようと思う。なにとぞ、おつきあいを願いたい。
映画「君の名は。」興収170億、映画「聲の形」同20億突破のニュースに触れながら草廬にて
平成28年11月5日(土) 鷹岑昊