第14話 情炎

   あの人の噂が途絶えてから、
   もう、何度目の夏でしょう――――
   今はもう遠い想い出の彼方……
   でも……セピア色に輝き続けてる
   私の、一生の……

「ヘンリー殿、飲まれてますかな?」
 グラスを片手に談笑していたヘンリーに、ルドマンが語りかける。
「これはサラボナ公。お招きに預かり、恐悦です」
「貴公のご成婚の儀以来ですかな。まあ、堅苦しい挨拶は抜きに願おう、ヘンリー殿。柄ではないのでな」
「ははは。……ところで、さすがは聖商侯(トルネコ)の遠裔であるサラボナ公。リュカに粋な計らいをされる――――。……あの男の親友として、礼を言います――――」
 ヘンリーがルドマンに会釈をし、ワインの瓶をルドマンのグラスに傾けると、ルドマンは軽くため息を漏らし、眉を顰めた。
「不思議なものだ。……本来ならば、古の慣例に倣い遵い、英武公(ライアン)が末裔たるそなたに、フローラは嫁ぐべきものなのだがな……。まさか、あの青年であろうとは……」
 その言葉に、ヘンリーは苦笑した。
「これはなんと異な事を言われる。それは買いかぶりすぎというものだ、サラボナ公――――。俺は……そのような話に名を連ねる器ではない」
「むう…………聞き逃してくだされ……」
 苦悩の様子のルドマンに、ヘンリーは憂色を深める。
「……何を迷っているのです。もしかして……リュカの事ですか」
 図星のようであった。
 どのようなことを言い、寛大な公人を装ったとしても、やはり愛娘・フローラの事にかけては、ルドマンも覇気が無くなる。
「私も所詮は一介の父親に過ぎぬ事を思い知らされた気がするよ。……もしもフローラがのう……」
 グラスを一気に空け、むなしげに天を仰ぐ。
「……ときに、フローラさんは――――」
 ヘンリーの問いに、ルドマンはやや疲れたようにため息を漏らす。
「フローラは休ませている。ここ数日、満足に眠っている様子ではなかったのでな。僧医の深眠呪文(ラリホーマ)で、熟睡しておるよ」
「そうですか……」
 ほんの少し、ほろ苦い表情でグラスを空けるヘンリー。
「……リュカを、信用しましょう、サラボナ公」
 そう言いながら、ルドマンのグラスに再びワインを注ぐ。
「ヘンリー殿……」
 ヘンリーは淀みなく、優しい微笑みを浮かべていた。

 あいつならば……
 誰も……不幸には、しませんよ――――

 “愛している”という言葉は、実に哀韻に満ちたものだと思った。
 それでも、リュカとビアンカはその時、最初で、きっとそれが最後の心の抱擁を交わすことが出来たのかも知れない。
「…………んっ…………」
 リュカはそっと覆い被さるように、ビアンカの唇に触れんばかりに、近づける。だが、わざと直接重ねようとはしなかった。
 キスを焦らされて、切なげに息を漏らすビアンカ。
「――――……」
 言葉にならない呪文のようなものを唱えるように、リュカは唇を動かす。
「は――――……っ」
 すると彼女の青く澄んだ瞳は、恍惚として潤み、物欲しげにリュカと眼差しを絡める。そして、わずかに唇を開いて麗しげな舌先を覗かせる。
「……――――いか……」
 少年の瞳の奥底に吼える情欲の獣が、静かにリュカを過酷な旅とは全く逆の冒険心に駆り立てる。
 彼の淫靡な囁きに、ビアンカは上気した頬を更に赤らめて恥じらいを示す。
 山奥の村と、北大河の洞窟に向かう時の、二度の情交は夢物語であるかのように、ビアンカはただ、“あかんべー”をするだけで戸惑っていた。
「ん…………ふっ!」
 ビアンカがあかんべーの仕草をした瞬間、リュカはいきなり自らの舌を突き出してビアンカのそれに絡みついた。
 くち……くち……
 まるで、それ自体が自ら生をもち、蠢く蟲のように、洋燈の灯にてかり、淫靡な音を立てて絡み合う。
「はぁ……はぁ……」
 それだけで意識がかすむビアンカ。リュカが中断すると、唇を半開きにした彼女が切なくあえぐ。そして、リュカと視線が重なると、ビアンカは小さく微笑んだ。
「エッチなキス…………うまいんだね……」
 そう囁くと、リュカはわずかに眉を顰める。「まさか―――」
「ふふっ……でも……リュカのキス……気持ちいいよ――――」
 その言葉を発端として、今度はビアンカの唇を塞ぐ。
「んっ…………!」
 そのまま窒息してしまうかと思うほどに、激しく、何度も角度を変えて彼女の唇を奪う。普段のリュカが湛える優然さとは全く逆に、彼の舌が獰猛に幼なじみの唇を責め立てる。
 そして、左腕で彼女を抱きかかえながら、片方の手はタンクトップの裾をたくし上げ、言葉に表しがたいほどに美しい形の白瓷の双丘を曝す。
「あ……はずかしい……よ……リュカ……」
 顔を赤らめて身を捩ろうとするビアンカ。
 ビアンカの胸を目の当たりにした瞬間、リュカは目の奥がずきんと痛んだ。あまりの綺麗な胸を突然目の当たりにして、リュカの理性と、男としての本能が争った。
 大き過ぎも、小さすぎでもない乳房。その先にある形の良い桜色の小さな蕾は、記憶すらない、リュカの心の深層に眠っている母親マーサそのものを重ねるようだった。
(ああビアンカ……むちゃくちゃにしたい……)
 今、初めて見る訳ではないのに、リュカは未知なほど滾る欲求に飲み込まれまいと、必死で足掻いていた。
「あっ……んぅ!」
 ビアンカの絶妙な乳房がリュカの掌に包まれ、柔らかに形を変える。頤を逸らして熱い息を吐くビアンカの濡れた唇を、再びリュカは半ば乱暴に塞ぐと、壊れ物を扱うように胸を愛撫しながら、そのまま頬、頷、首筋へと舌を這わせた。
「あ……あぁリュカ……ん」
「なんて……綺麗なんだ……」
 リュカは譫言のように呟く。美少女の色香に狂った一介の男のように、双丘の頂きに屹立する、淡い桜色の蕾を見つめる。
「はずかしい……のに……」
 自分の胸を食い入るように眺めているリュカを、潤んだ瞳で哀願するように見つめる。
「…………じゃあ……やめよっか」
 口調はビアンカが知る、いつものリュカだった。どこかあどけなさが残る、頼りない感じの声。
「…………」
 ビアンカは本能的に、小さく首を横に振った。リュカはくすと微笑むと、瞬間、きゅっとビアンカの乳房を掴み、蕾を突出させた。
「痛ッ!」
 その叫びに、リュカは一瞬素に戻り、半ば慌てて力を抜く。
「ご……ごめんビアンカ……」
「ん……大丈夫。……でも……痛く……しないでね……?」
 白みがかる意識。ビアンカはリュカを気遣い、笑顔を浮かべる。
「うん…………」
 もう一度キスを交わし、リュカは今度は慎重に、胸を包み込むように掌を這わせる。
「ん……あっ…………いい……よ――――」
 腕をリュカの項に絡め、ビアンカも反応する。無駄な緊張が解れた時、リュカの唇がゆっくりと桜の蕾を包み込んだ。
「あぁ……ん……リュカぁ……」
 ビアンカの美しい肢体に、電流が走る。リュカは唇に触れる絶妙な柔らかさと、蕾の固さのアンバランスな感触に感情が昂ぶった。
 舌先で蕾を押し、転がし、吸い上げる。なかなか思うように形を変えないもどかしさが、リュカの嗜虐性を更に揺さぶる。
「んぁ……いい……気持ち……いいよ……」 二つの蕾を交互に貪り愛撫するリュカの頭を、彼女は無意識に抱きしめ、自ら押しつける。柔らかな双丘の谷間に堕ち、窒息してしまうと思うほどに、心地が良かった。
「はぁ……はぁ……あん……」
 濡れて洋燈の灯に淫靡に光る桜色の蕾。その甘いまろみを堪能したリュカが羞恥にあえぐ幼なじみの瞼や鼻、頬、唇、そしてとろけそうなほどに美しい金色の髪にキスの雨を降らせた時、ビアンカの身体の力が抜けた。逞しいリュカの左腕に凭れ、支えられる格好になる。
「優しい……ね……」
 熱い吐息の合間に、そう呟く。リュカは優しくはにかんだ。
「今は……心から君を……感じさせて欲しいんだ……」
「……うん……」
 微笑むビアンカ。
 間を置かずに、リュカの右手がすっと、彼女の太股に触れる。細く、絶妙に肉づきのいい絶世の美脚。リュカは触れた瞬間、指先からどくんと身体の芯に甘美な痺れが走った。
 その感触は、真っ白で上質な絹の様ななどと、実に陳腐な表現は彼女には似合わない。
 決して男に触れぬ事が罪であるというような、娼婦の色香などではない。野山を駆け巡り鍛えられた、健康的な色気と、一言で済ますにも惜しむ。
 リュカの理性という空間を、何か狂気なる弓矢が一閃した。ビアンカの太股を這うたびに、矢襖がリュカを撃つ。
「あぁ……リュカに触れられていると……私……」
 ビアンカがもどかしげに太股をすり合わせる。そのたびに、リュカの指先、掌が挟撃され、絶妙な感触が伝わる。
 リュカの思いをどう感じているのか、ビアンカが安堵したようにうっとりと瞼を閉じている。
「どうして……どうしてこんなに綺麗なんだよ……ビアンカ……」
「え…………あっ!」
 直後、リュカはするりと指を内股に滑らし、そのままホットパンツの裾から彼女の中心に侵入した。
「んあっ!」
 びくんと、ビアンカの全身が跳ねた。そこはもう既に熱く滾っていた。リュカの指がショーツに触れた瞬間、美少女の欲望が溢れ出し、リュカの指を伝った。
「いやぁ……だめぇ――――」
 恥ずかしさのあまり、身を捩り拒絶しようとする。しかし、身体に力が入らず、全身をリュカの腕に支えられている状況では、その足掻きがかえってリュカの若い欲求を刺激する。
「んぅ……ふっ……」
 恍惚としながら少年の濃厚なキスで喘ぎが押し込められてしまう。
「ビアンカ……どうしたの? ……ココ……すごいよ――――」
 リュカはそう囁きながら、頬から耳に舌を這わせ、桜貝のような耳朶を噛み、同時にすっかりと濡れてしまった薄い布地の上から、彼女の秘所を上下になで上げる。
「いや……言わないで…………あんっ!」
 無意識にリュカの首に回した腕に力が入る。リュカの煽動的な指の動きは、自らする時より格段に快感に満ちていた。理性が拒むのに、リュカに触れられているという愛おしさと快感に、身体は反応してゆく。
「あっ……、あっ……いいよぅ……リュカぁ!」
 リュカの指が既に濡れて役に立たない布地の裾から、彼女自身に直接触れた時、ビアンカの一抹の不安はかすんでいった。
 くちゅ……
 淫靡に満ちた音と共に、ホットパンツの裾の間から、明らかに汗とは違う透明な液体が一つ、美しい太股を伝う。
「はぁ……はぁ……あんん……んくっ」
 淡い湿原を滑るリュカ。時々、深みに入りかけてわざと止める。弄ぶように、ビアンカの泉を駆けめぐる。
「やぁ……リュ……カ……いじめ……ないで……」
 哀願するような眼差しをリュカに向ける。リュカはにこりと微笑むと、軽く唇にキスをすると、秘部に埋めていた指をするりと抜いた。とろりと糸を引くビアンカの体液が、怪しくきらめくリュカの指。
 じっと、潤みゆらめくビアンカの瞳を見つめていたリュカは、微笑んだまますっとその指をくわえた。“ちゅぷ”と粘っこい音がビアンカの間近で発する。
「あぁ!」
 恥ずかしさのあまり顔を背けるビアンカ。「ビアンカの味がするよ……」
 リュカは熱病に魘されたような声でそう囁く。言葉を拒むように再びリュカの首にしがみつき、項を噛んだ。
 リュカがゆっくりとビアンカの腰に手を回してホットパンツを脱がしにかかる。ビアンカも腰を捩って助力する。既に濡れそぼったそれは、ショーツごとぽとんと彼女の美脚を滑り落ちた。
 身体を離して視線を落とそうとするリュカを、ビアンカは強く抱きしめ、それを阻む。
「いや……恥ずかしいよ……」
「ビアンカ……君を見せて」
 溶けてしまいそうなほど熱い息を吐くビアンカ。冀うように、リュカは甘く囁く。それでも、ビアンカは力無く首を横に振る。
 一時、リュカの愛撫が止まる。中途半端にお預けを喰らった子供のように、ビアンカは落ち着かない。
「リュカぁ……やめちゃ……いや……」
「…………」
 しかし、リュカはわざと何も行動を起こさない。
「それじゃ……君は何をしてくれる?」
 優しく、それでも声色の裏に嗜虐の色を強く滲ませ、リュカは二つ年上の美少女に要求する。
「あ…………うん……」
 リュカの言葉の意味をわからないビアンカではない。戸惑い、小さな恐怖感に息が止まりそうになる。
 魔物使いの技量とは烏滸がましい。そんな彼女の気持ちを、リュカはまるで手に取るように察知したのか、不意にビアンカの背中と胸を、掌で優しく撫でる。ほんのわずかに震える唇を塞ぎ、舌を繋ぐ。
 それだけでビアンカは落ち着いた。恐怖心は削ぎ落ち、リュカを気持ちよくさせてあげたいという欲情が沸々と湧き上がり、美少女の全身を包んでゆく。
「リュカ……お願い……目を閉じていて……」
 リュカの瞳を見つめ、切なげにそう言うと、リュカは頷き、言う通りにゆっくりと瞼を閉じる。
 すとん……と、ビアンカはリュカに寄りかかるようにしながらゆっくりと膝をつく。一瞬、躊躇ったが、それは恥ずかしさと好奇心が混合したものだった。目の前には合わせただけのやや綻びた、旅服の裾。ビアンカはぎこちなく裾に手を掛け、ずらす。
 無駄な脂肪のない、均整の取れたリュカの太股。見た目頑丈な生地で作られた白い腰巻きの中心は、大きく盛り上がっていた。ビアンカは思わず瞳を伏せて赤くなる。
「…………」
 すっ――――と、リュカは身をくねらせて息を吐いた。それを合図にか、ビアンカはもぞもぞと両手をリュカの太股に当て、付け根へと滑らす。そして、ぎこちなくもするりとそれを外した。
 瞬間、満を持したかのように、逞しいほどのリュカのものがそびえ立つ。
 彼女にとっては、男のそれを間近で見るのは初めてのことだった。村の同世代の少女たちの間でたまに交わしたその話の中で聞き、想像していたもの以上に生々しくて、グロテスクなものに映った。
「…………」
 ビアンカは視線を上げて瞼を閉じているリュカの顔を見た。
 いつものリュカ、逞しくて、優しくて、それでも何処かあの頃のような頼りなさげな面影を残すリュカ。異国東洋の礼装が似合う、素敵な青年リュカ。それ以外の何ものでもなかった。
(リュカ…………)
 どうしてもそんな彼を一方的に見つめていると、愛おしさと哀しさが重なる。フローラを想うリュカを思うと、正直泣きたくなる。でも、今のようにリュカと見つめ合うことが出来るだけで、彼女は至福を感じた。まるであのレヌール城のお化け退治の時のように、彼といるだけで、恐怖心が薄らいで行けた。

(リュカ……だい好き……)

 リュカを想い自らを慰める夜も数多くあった。それを想像するたびに、身体の芯が激しく疼いた。
 そっと瞼を半分だけ閉じて、ビアンカは形の良い唇を開く。そして、それをゆっくりとリュカ自身に近づけていった。
「うっ……!」
 リュカが思わず呻いた。先端に触れたなまあたたかく、柔らかい衝撃が、一気に大波となって全身を駆け抜けた。
 生まれて初めての行為に、ビアンカは段取りも知識もない。男の臭いに噎せ返りそうになりながらも、ただリュカを悦ばせたいという健気な想いに、唇を当て、舌を転ばせながら、ゆっくりとそれを呑み込んでゆく。
「うぁっ! ビ……ビアンカ……!」
 じん、じんと波動状に駆けめぐってくる甘美な痺れに、リュカは叫んだ。
 ビアンカの部分に触れた時とはまた違った、淫靡な音が部屋に響く。
「う……動いて……手も使って……かはぁ!」
 リュカの要求に、今度はビアンカが素直に従わない。
 悦んでくれている、感じてくれていることを本能的に感じたビアンカは、リュカのものを根本まで呑み込んだ。口の中で小さな舌を懸命に絡める。
 さすがに上手とは言えない風だが、リュカが知るビアンカがしてくれているというだけで、情欲は盛り、彼女の中でますます膨張してゆく。
「ん……んぐっ……んっ……」
 焦らすように、ビアンカはゆっくりと、ゆっくりと顎を動かす。
「あ……ぐぅ……!」
 リュカは上体を傾け両手を下ろし、ビアンカの胸の二つの蕾を摘む。
「んんっ……!」
 ビアンカはあっさりと反撃された。それでも気の強いビアンカらしさは消えない。愛しい人のもの。淫らな自分の一面が、ずっと夢見てきた人のものには慣れるのも早い。
「うはっ! ……ビア…ンカ……気持ち……っ」
 唇をすぼめ、吸い上げる攻撃。リュカの腰に片腕を回し、もう片手で、彼が望むように、リュカの部分を包み、弄る。リュカも絶妙な彼女の胸を責める。性感帯攻撃の応酬。
「んふっ……んっ……んぅ!」
 ビアンカの顎の律動が激しくなってくる。同時に、リュカの体芯も、快楽の波が徐々に昂まりを感じてくるのがわかった。
「はぁ……はぁ……」
 いつしかリュカは胸を責める手をやめ、ビアンカの頭を抑えつけていた。そして、苦しげな表情を浮かべながらも、欲求に任せるままに自らビアンカの美しい唇に腰を打ちつけた。
「うぅ……ビアンカ……ぼ……僕……もう……」
 リュカは身を翻して壁に寄りかかった。下半身から溢れてくる欲望の波動。唇に愛撫されるという初めての経験に、ついに逞しい青年は降服を余儀なくされた。だが、ビアンカは許してくれない。
「んっ……んふぅ……んっ、はむっ……」
 ぐちゅ……くちゅ……
 離すどころか、逆にリュカの腰を抱きしめ、青く深く、大きく澄んだ瞳でリュカを見上げながら、いやらしい音を立ててリュカをしゃぶり尽くす。唇で丁寧に表皮をしごき、時折舌先でそれを代わる。一度唇を離すと、袋から筋、先端へ向かいゆっくりと舌を絡め、再び口の中へくわえ込む。
 じっくりと、リュカを愉しませるように、そして何より、ビアンカ自身がリュカを愛しているという実感を得るために、それを何度も、何度も繰り返す。そして、リュカが絶頂を迎える頃には、彼女の口技は言葉に筆し難いほどに上手くなっていた。
「ううっ! ……出るよ……出る……離れて……!」
 リュカの叫びとは裏腹に、ビアンカはリュカの腰を強く抱きしめ、更に深くリュカをくわえ込み、舌と顎で刺激を与えた。
「うあっ、ビアンカッ――――!」
 リュカの意識が霧の籬に霞んだ瞬間、熱く滾る欲望が突き刺すように放たれた。
「んんっ――――! かはぁっ」
 粘る感覚、その熱さと、劈く臭いが喉を直撃し、ビアンカは一瞬たじろいた。
 びゅっ――――!
「あっ……ん」
 止まることのない欲望はその隙をついてビアンカの頬と、繊細な金色の髪の一部を汚した。
「う…………ご……ごめん……」
 反射的に謝るリュカ。しかし、ビアンカは不快な顔色ひとつ見せず、にこりと微笑み、リュカの体液をごくりと呑み込んだ。リュカを責めていた桜色の唇の端から、白濁のそれがわずかに滲んでいる。
 そして、自身の体液とビアンカの唾液に光る、衰えの知らないリュカのそれを、そっと綺麗な指で包む。
「リュカの…………素敵――――」
 意味深な言葉を漏らして、再び舌を這わせる。

 出したばかりだというのに、リュカの“男”は一向に敗れることを知らない。
「ビアンカ……すごく気持ちがいいよ……。僕……僕もう……」
「ふふっ……リュカ、ずっと目を閉じているんだもん。そう言う律儀なところ、全然変わってないんだから――――」
 言いながら愛おしそうに、リュカの愛撫を続けるビアンカ。
「ビアンカ……」
「ん……私も……リュカが欲しいの……。リュカの心と身体が…………せめて……せめて……」
 そこまで言いかけて、ビアンカは止まった。それ以上の言葉は必要なかった。

 服を脱ぎ捨てたリュカは、ビアンカを立ち上がらせ、唇を重ね、舌を絡ませる。自分自身の味が残るキスだった。
 そして、そこからベットに移動する時間も惜しいかのように、お互いにその場で求め合う。
「あんん……リュカぁ……いい……」
 洪水状態のビアンカの秘所に“先陣”として指を這わせると、するりと簡単にビアンカの肉襞に挟まれる。
 こすりながら、微妙に刺激を与えながら足跡を刻む。そして、果てにひとつの高丘を発見したリュカの指は、ゆっくりとそれを包み込みように弄る。その瞬間、一声大きく、美少女の理性は乱れた。一瞬、弓なりに身体が張りつめ、嬌声を上げる。
「や……意地悪しないで……リュカが……リュカが…欲しいの…………」
 “先陣”を焦らしだと思われたようだった。
 もどかしげで、切ない表情のビアンカにこれ以上の虐めは酷というものだろう。
 リュカは向き合いながら彼女の背中を抱き、頬をすっとなで上げて微笑むと、その手をビアンカの太股に這わした。
「ビアンカ……僕に……しっかりとつかまっていて……」
 こくんと頷くと、ビアンカは細い両腕を、しっかりとリュカの首に巻き付けた。
 その瞬間、リュカは両腕を彼女の膕に廻し、すくっと持ち上げたのだ。
「えっ……あっ!」
 突然、身体が浮き上がったビアンカは驚愕した。だが、リュカは安心を与えるようにキスをすると、ビアンカを抱えながら、花を飾っている窓の縁に、彼女をいったん下ろす。そして、わずかに体制を整えると、自らを握り、ビアンカを見つめた。
「いくよ…………」
「ん…………」
 リュカは落ち着かせるように、優しい瞳でビアンカを見つめる。ビアンカはそれに応えるように、すっと身体の力が抜けてゆく。
「うっ……」
 リュカはそれを見計らい、一気に彼女を貫いた。

「ああああぁっ!」

 かん高い嬌声を上げたビアンカの背中が弓なりに反る。ぐぐっと、リュカの首に回した腕に力が入る。
「くぅぁ……! ビ、ビアンカ……ッ」
 ぎゅうぎゅうとビアンカの膣壁がリュカを締め付ける。あまりの快感に、リュカは危うく頓死するところだった。
 窒息寸前に開放された時のように荒い息を吐いたリュカは、ビアンカを見つめ、頬を優しく撫でながらもう何度目かわからないキスをした。
「んっ……ん……あっ……ああんっ!」
 リュカがゆっくりと動き出すと、ビアンカの悦びも色を帯びてくる。長い脚をリュカの腰に絡め、自らも動こうと計る。
 腰の打ちつけ合うたびに粘音が混合した淫猥な音が若い二人の理性を消してゆく。
「すごいよ……ビアンカ……ほら……君のここが音を立ててるよ……」
「あふぅ……やぁ――――ん……いや……」
 言葉とは逆にビアンカは激しく腰を使ってリュカを求め、背中をかき抱く指先を立て、リュカの背中に爪を食い込ませる。
「ぐっ……すごいしめる……!」
 肉襞がリュカに妖しく絡みつき、突き入れ、引き抜く時の抵抗が言葉に表しきれない悦楽に変わる。
「はぁ……はぁ……」
 リュカは再び腕をビアンカの膕に廻し、腰を抱くと、繋がったまま、彼女を持ち上げた。
「あっ……リュカぁ……ん……あ、あ……」
 突然宙に浮き、驚くビアンカ。しかし、リュカは休む隙もなく、身体を揺らした。
 リュカの鉄棒は先ほどよりも深く、激しくビアンカの体奥を突き刺した。ビアンカは激しすぎるほどの快感から逃れようにも出来ない。落下してしまうと言うスリル感と、まるで自分が赤ん坊のように抱っこされている安心感、そして他人が目の当たりにしてしまえば、何と恥ずかしい姿を曝しているのだろうと言う羞恥心が、よりビアンカを興奮させていた。
 リュカは激しく身体をくねらせ、揺らした。突き上げるだけではなく、ビアンカの中で円を描くように掻き回す。
「はぁ! ……あ……あふっ……あっ……んあっ!」
 ビアンカの声と淫猥な音、そしてリュカの荒い息づかいが、ルドマン別邸の空気を妖しく染める。
 そのまま、リュカは階段を昇り、寝台にビアンカを寝かす。
「ん……あぁ……」
 そして、一度怒張した鉄棒を引き抜くと、舐めるようにビアンカの身体にキスの雨を降らせ、再び気を昂ぶらす。
 ビアンカの内脚を肩に担ぎ、真上からビアンカの秘部に宛うリュカ。
 うつろう幼なじみの美少女の瞳を見つめて、リュカは優しくこう呟いた。

「ありがとう……」

 彼女が反応するよりも早く、リュカは猛然と杭を打ちつけた。
「あぁ――――――――!」
 彼女の悲鳴が夜空に吸い込まれてゆく。だがリュカは許さない。何度も、何度も柔らかな彼女の中に打ちつけた。
 そしてリュカが下になり、ビアンカが上になっても同じだった。ビアンカもまた満足の果てが見えないほどに腰を激しく動かしてリュカを自ら打ちつけ、捏ねる。
 木製の寝台が毀れてしまうかと思うほど、激しくきしみ、揺らいだ。
「あっ……あっ……リュカ……わたし……わたしもう……!」
「うっ……ぼ……僕もだ……ビアンカ……!」
 頂点は二人、ほぼ同時に訪れた。律動の周期が短くなって行く。もう二人とも声がかすれている。
「お願い……一緒に……一緒にいって……リュカ……お願い一緒に!」
「あう――――ビアンカァ!」
 激しく身体を絡め合い、リュカは大きく身体を旋回させた。
 そして……
「くっ………!」
 じーんと、リュカの脳天から足の爪先に鈍い電流が駆け抜けた。と、同時にビアンカの脚がぎゅうっとリュカの腰を締め付ける。

「あああぁぁぁぁ――――――――!」

 リュカの熱い想いが、駆け抜けてビアンカの中に注ぎ込まれてゆく。止めどなく、容赦なく、それは、悲しい美少女の身体を満たして行った。

 それから何度と無く、リュカとビアンカは様々な想いが重なって若い身体を重ね合った。
 初めて、心を通わせることが出来た情交は、刹那の至福を二人にもたらすことが出来た。

 そして、夜明け前にふっと目覚めたリュカの心は、清々しいほどに虚心坦懐の境地にあったのだった。