第4章 テュードリア家勃興
914年12月 盗賊団テューダ・大広場

 エアドリックが出征の決意をした後の盗賊団たちの動きは迅速だった。フェリアス家の動勢はすでに団員選りすぐりの諜報員が有力な情報を仕入れてきていたのである。シルフロマンたちが言っていたとおり、後はエアドリックの号令を待つのみとなっていたのだ。
「フェリアス家は北のスレテートの連中との戦争から帰ってきたばかりで、そんなに士気は高くありやせん。それに三日後、奴らは勝ち戦の祝宴を城内で開くそうだ。そんときゃあ、きっと警備が薄くなるぜ。若頭、襲うならそこがチャンスですぜ。」
 確信を込めた諜報員の報告に、エアドリックに従う盗賊団員たちは歓喜のどよめきを発した。一方、エアドリックは冷静に不敵な笑みを浮かべている。
「ふっ――――そう興奮するな野郎ども。フェリアス家の連中など俺の敵ではねえ。そんなことよりも、気ィゆるめてうかれんな。」
 そんな悠々たる態度のエアドリックの前に、ホップスが歩み寄ってくる。
「兄貴ィ、そんなん言われたって俺らはうれしいんすよ。あの憎っくきフェリアスの連中を叩きつぶして、兄貴が奴らを見下ろす瞬間を思えば~」
 そんな卑猥げに笑うホップスの頭をぽかりと殴るアンソニー。
「こらっホップス。てめえ、いつまでもなれなれしくしてんじゃねえぞ。兄貴・・・いや、エアドリック様ぁ、これからは総領と呼ばねえとなんねえんだぜ。」
「あっ、そうでしたね。すいませんです。」
 後頭部を掻きながらぺこりと頭を下げるホップス。その様子を見て小さく鼻で笑うエアドリック。
「『総領』なんて仰々しい呼び方なんてしなくていい。今まで通りでかまわねえからな」
 その言葉に本気でホッとするアンソニー。
「助かりやす。俺も堅苦しいの苦手だったんすよ。」
「あっ、兄貴ずれえっす――――」
 不満げにアンソニーを見るホップス。「うるせっ」と、はにかみながら額を小突くアンソニー。この二人は本当に仲がいい。エアドリックが自分の配下たちの中で、一番に信頼できる二人であった。
 そしてエアドリックは、突然思い出したかのように表情を堅くしてアンソニーを見る。
「それよりもアンソニー。おめえ、フェリアスには厄介なモノがあるって言ってたな。」
 アンソニーはホップスを攻撃する手を止め、我に返ってエアドリックに向き直った。
「そ、そうでしたよ。兄貴、大事なこと言うのを忘れていやした。ええと・・・フェリアスの連中は、何でも『宝石魔術師』とか言うモノを持っているんす。」
「宝石魔術師・・・・・・何か聞いたことがあるな。」
 エアドリックはそう呟いて首を傾げる。アンソニーは言う。
「何でも、王家に伝わるロイヤルブラッドとか言う王冠にはめられていた六個の宝石のひとつとかで、それぞれに魔道士が封印されている奴だそうです。フェリアスの奴らはそのうちのひとつを持っていて、名前は確か・・・・・・」
 肝心なところで言葉を詰まらせるアンソニー。唸り声が周囲をイライラさせる。
「『風の魔道士・マシェーティ』」
 静かで落ち着いたような声がアンソニーの背後から聞こえてくる。振り返ると、エイセスが微笑みながらゆっくりと歩み寄ってきた。
「空気を操る魔力を備えていて、厄介な代物です。その得手を一閃すると、鋼鉄をも切り裂くかまいたちを発し、すべての命が痛みを伴わずに消失するとか・・・。古代、邪の魔道士ザミエルが召喚した魔竜ドラゴンを封じた六魔道士の一人との話です。」
「あっ、エイセスさん」
 ほっとしたような笑顔を見せるアンソニー。かたやエアドリックは愕然となってエイセスを見ている。
「魔竜ドラゴンを封じただあっ!?おいおいエイセス、それって、シャレになんねえぞ。魔竜ドラゴンっていやぁ・・・神さえ恐れたっていう、アレだろ・・・・・・。そいつを封じ込めるなんて、並じゃねえんじゃ・・・」
 戦々兢々とするエアドリックに対し、エイセスはなおも落ち着いたような感じで答える。
「ご安心下さい若頭。マシェーティはロイヤルブラッドが分裂した際にフェリアス家当主イリウスの元に現れたのですが、イリウスはその力を恃み乱用しています。今回イリウスは宿敵であるカンティベリ領主シアボルドとの戦いでもマシェーティを使ったとのこと。宝石魔術師は、一度その力を発揮すれば三月の間は宝石に封じられます。マシェーティなきフェリアスなど、若頭の敵じゃあありませんよ。」
 そう言って高笑するエイセスを唖然と感心の表情で見るアンソニーとホップス。
「さすがエイセス。よく知っているな。」
 少し安心したのか、にやりと口許に笑みを浮かべるエアドリック。
「はははは。これから総領となるべき方のお力となるからには、これくらいは知っておかないといけませんよ、アンソニー、ホップス。」
 エイセスが二人の若者に視線を送って微笑む。
「め・・・面目ねえ・・・」
 顔面を真っ赤に染めてうなだれる二人。そんな様子に気持ちよさそうに笑うエアドリック。
「二人ともいい勉強になったなあ。まあ、だからってあまり無茶なこと考えんなよ。」
 そう言って彼らをフォローすることを忘れない。エアドリックは飄々としているように見られがちだが、部下たちの面倒見は良かった。エアドリックを総領とし、強大なフェリアス家乗っ取りという無謀とも取れる画策をしたのは、ひとえにエアドリック自身の人望の厚さをうかがい知ることが出来るわけである。人を統率するという、天性の才能が彼には秘められていたのだ。
「よし――――野郎どもッ、話は聞いたな?フェリアスの奴らは今そう言う状況ということだ。いいか、奴らに戦力がねえと言っても油断はすんな。すべて俺が指示を出す。勝手な行動はすんな。いいなっ」
 語気強く、エアドリックは言い放った。それに応えるように、配下の盗賊団員たちは一斉に鬨の声を挙げた。

三日後――――シルフロマンの住居

 決行の日は来た。
 エアドリックはいつものような表情で、首領・シルフロマンを訪れた。泣いても笑っても、これがテューダ盗賊団員としての最後の顔見せになる。
「エアドリックです」
「おう。入れ」
 普段と変わらない応答。不思議と強い緊張感は感じられなかった。むしろ、いつもの『おつとめ』のような感覚だった。エアドリックが扉を開けて中に入ると、シルフロマンはひげだらけの口許に微笑みを浮かべてエアドリックを出迎える。いつもと違うと言えば、傍らに娘のフェリアが居ると言うことくらいだった。
 シルフロマンの手前に歩み、どかりと胡座をかき、にらむように首領を見る。
「親父殿。今日だ。今日、決行する。」
「聞いているぜ。――――いやあ、ようやくこの日が来たな・・・。いや・・・時間ってよ、待てば途轍もなく長げえ感じがするが、いざその日が来るってえわかると、早ええって言うか、あっさりなもんだな。」
 シルフロマンはそう言って笑う。いつも通りを装ってはいるが、やはりこれが最後と言うことを意識しているのか、笑顔にどこか寂しさを感じる。隣のフェリアもどこか複雑な表情で、父親を気遣っているように見える。
「『テューダ若頭』としては最後になるかも知れねえが、今度からは領主としていつでも会いに来られるぜ。・・・なあに、肩書きが変わるだけよ。今日はいつもの『おつとめ』の挨拶だ。」
 エアドリックがそう言ってにやりとする。エアドリックなりの気遣いであったのだろう。
「ふっ―――――今日のおつとめの目当てはひと味違うからな・・・。気ィ緩めてっと、手痛ぇしっぺ返し食らうぜ。」
「任せてな。いずれ抱えきれねえくれえのお宝持って来るからよ。親父殿、楽しみに待ってな。」
「おうともよ。おめえだったら俺も枕高くして寝られるってもんだ。・・・・・・・吉報待ってるぜ。」
 シルフロマンの目頭には熱いものが浮かんでいた。エアドリックはそれを見逃さなかったが、あえて何も言わなかった。そして、エアドリックは傍らにいるフェリアに話しかける。
「フェリア。明日からはおめえが俺の代わりになってテューダを支えて行くことになる。エイセスたちと協力して、親父殿や野郎どもをしっかりとまとめて行くんだぜ。」
 その言葉に、フェリアは軽く鼻を鳴らして答える。
「そんなことくらいわかってるわよ。少なくとも、あんたみたく普段ぼーっとしてないからね。あたしのほうが、かなりましだわ」
 喧嘩腰な口調だが、それがわざと繕っているものであることを、エアドリックはわかっていた。だから、普段のようにすぐに喧嘩にはならない。いや、もともと喧嘩などする気はない。
「・・・そうだな。おめえのその気概だったら、俺以上にテューダをしっかりとまとめて行くことが出来るかもしんねえ。安心したぜ」
「・・・・・・」
 エアドリックの言葉に、フェリアは心なしか唇をかみ、小刻みに震えていた。こみ上げてくるものを必死で抑えているかのようだった。普段通りに喧嘩腰に言葉を返し、普段通りに大喧嘩をし、私が飛び出して行く――――と言ったパターンにもって行かない。今日に限って神妙なエアドリックの態度に、フェリアは叫びたくなるような感情に襲われ、それを必死で追い返している。喧嘩別れをしたならば、どれほど楽だっただろう――――などと思う。エアドリックはそんな彼女の心境を知らずに、重ねてこう言った。
「まあ・・・いままで色々なことがあったが、結構それも楽しかったような気がするぜ。礼を言っちゃあ可笑しいが、ありがとうよ。」
 その言葉が、フェリアの感情の限界を超す発端となった。
「ば、ばかやろっ・・・れ・・・礼なんか言うなっ!」
 途端にフェリアは飛び出すように玄関を飛び出していった。エアドリックは彼女が照れくさくなって飛び出していったのだと思い、後を追おうとはしなかった。
「本当は、あいつも連れていって欲しかったんだがな・・・」
 シルフロマンの呟きに、エアドリックはうつむいて微笑む。
「あいつは、あいつの意志でここに残るって決めたんだぜ。俺に無理強いは出来ねえよ。それに、親父殿も一人娘が居なくなっちゃあ、寂しいだろうが。」
 その言葉にシルフロマンは小さく鼻で笑った。
「ばかやろ。俺を寂しいジジイ見てえに言うな。」
 その場に静かな笑い声が包む。
「・・・・・・まあ、いつでもいい。落ち着いたらフェリアを嫁に貰ってくれや。今日は口癖で言うんじゃねえ。真剣だぜ。」
「わかったよ。俺も真剣に考えておくから。・・・その前に親父殿が元気でいてくんねえとな。もしもそん時になってくたばっちまったら、シャレになんねえからなあ」
「おうよ。フェリアの花嫁姿見ねえうちは死ねねえや。」
 珍しくしんみりとした話がつづく。そして、エアドリックの出立の時はやってきた。
「若頭、準備は整いやしたぜ」
 扉越しにアンソニーの催促の声が耳に届くと、エアドリックはゆっくりと立ち上がった。
「じゃあな、親父殿」
 振り返ったエアドリックを、シルフロマンは呼び止めた。木製の椀に、酒がなみなみと注がれている。
「エアドリック。これは祈願の杯だ。」
「ああ」
 エアドリックは無造作にそれを取ると、一気に喉にそそぎ込んだ。空になった椀を一度逆さにしてから、シルフロマンに差し出す。
「最後にひとつだけ聞いておきてえ。―――――フェリアスを乗っ取ったら、新しい家の名前は何てするんだ?」
 その問いかけに、エアドリックは即答する。
「決めているぜ。―――――『テュードリア』・・・・・・『テュードリア家』だ」
「『テュードリア』・・・・・・か。いい響きだな」
 エアドリックはにやりと笑い、身を翻して扉の向こうに去っていった。テュードリア・・・。故郷テューダの名を入れ、そして、『光り輝く彗星』という意味も持つ。『飛竜の谷』での決意の後、エアドリックはじっくりと考えた末、決めた新家の名。
 今まさに、光り輝く彗星は、ペンザンスという辺境の地から、イシュメリア大陸を包み込まんばかりに始動したのである。

ドルノワリア ドルスティーニ本城中庭――――深夜

 国王家配下のカンティベリ領主シアボルド軍の侵攻を撃退したフェリアス軍は、テューダの諜報員の報告通り、その晩は戦勝の宴に大賑わいだったらしい。日付が変わり、二時ほど経った頃には、もはや城中は死んだような静けさに覆われていた。
 戦勝の宴に、フェリアス家の兵士や、住民を装って侵入したエアドリックを始めとする直属の配下たちは、頃合いを見計らって中庭の植え込みに集結していた。
(兄貴――――奴らは眠っています――――)
 ホップスの囁きが、植え込みに身を潜めているエアドリックの耳に入る。
(よおし・・・・・・野郎ども、用意はいいか)
エアドリックはにやりと笑い、背後に控える男たちに向かって声を発した。男たちは力強く頷き、手に短刀を構える。
(いいか、誰一人も殺すな。当主を捕らえることだけを考えろっ――――行くぜっ)
 エアドリックは短刀を抜くと、驚くべき速さで植え込みを跳び越えた。ホップスを始め、背後に控えていた男たちも、エアドリックの後をつづき植え込みを跳び越える。
 イシュメリア南端の火山地帯にあるドルノワリアは、かつての火山侯・コーラル家の領地であった。
 コーラル家がフェリアス家によって倒されてからは、フェリアス家の本拠地となって、イシュメリア辺南地方に強大な勢力を誇っていた。リンディニス活火山帯にある南イシュメリア地方は、例年にわたり大地震に見舞われて、作物は採れず、災害対策は軍事や内政よりも重要な事柄であった。どうしても軍事・内政の充実が疎かになりやすい風土ゆえに、コーラル家も呆気なく滅亡した。そして・・・
「兄貴っ、こんなものがあいつの寝室にありやしたっ!」
 アンソニーが右手にスカイブルーの宝石を携えて、エアドリックの側に駆けつける。
「おう・・・こいつがマシェーティとか言う宝石魔術師か・・・。アンソニー、よくやった。それを大事に持ってろ。」
 エアドリックはアンソニーにそう言いつけると、笑いながら通路の奥に消えていく。
 突然の狼藉者の乱入に、ドルスティーニ城内は大混乱に陥った。
 精強を誇るフェリアス家の親衛隊でさえも、闇夜に慣れた男たちの前に木の葉の如く叩き伏されて通路に横たえている。
 エアドリックは迷うことなく城内の地下通路につづく階段を駆け下りる。
「おのれぇぇぃぃ!」
「やあっ!」
 柱の影に隠れていた城兵が不意をついてエアドリックに襲いかかるも、素早い身のこなしで隙がないエアドリックの前には敵にならなかった。突きかかる剣をさっと身を除けると、短剣の柄で城兵の背中を強打する。城兵はうめき声を立てて倒れた。
 エアドリックは一本道の地下通路を、足を緩めることなく奥へと突き進む。そして、突き当たりにある城の宝物庫。
「ふん・・・」
 エアドリックは鼻を鳴らすと、鍵のかかったその扉を髪の毛に忍ばせた針金を使って難なくこじ開ける。
 ぎぎぎと軋みながら、ゆっくりと扉を開け、暗澹の空間に向かって声を発した。
「城は制圧した。マシェーティもすでに俺たちの手にある。観念して降伏しないか。命だけは取らねえ」
 エアドリックの粗野な声が反響する。
「大人しく言うことを聞いた方が身のためだぜ。」
 エアドリックは足を踏み入れて乱暴に足を蹴り上げた。すると、バンという大きな音がし、陶器やガラスが次々と床に落ちて割れる甲高い音が暗澹に反響する。
「言うこときかねえと、こんなもんじゃすまねえぜ」
 脅迫じみた声の後、一瞬の静けさが辺りを包む。そして、しばらくした後、割れた破片を踏みつける音が静寂を破り、寝間着姿の一人の男が両手を挙げながらエアドリックの前に姿を現した。
「全く、手こずらせやがって。おらっ、さっさとこっちに来な。」
 エアドリックはそう吐き捨てると、怯えた感じに打ち震える中年の男の腰を乱暴に蹴り上げる。男は悲鳴を上げてエアドリックの言うとおりに歩きだした。

 エアドリックは城主の椅子にどかりと腰を据え、肘掛けに両腕を伸ばし置くと、縛り上げられた中年の男にふんと鼻で嗤い、にらみつける。
「どうか・・・どうか命ばかりはお助けを・・・」
 男は何度も額を床にこすりつけて、盗賊に助命を嘆願する。
「ばぁかっ!それでもコーラル家を滅ぼしたフェリアス家の勇者かよ。」
 エアドリックに城中の様子を知らせた少年がそう嘲る。
「ホップス、黙れ。」
 エアドリックの小さな叱咤に、ホップスと呼ばれた少年が寝間着の男から視線を逸らす。
「どうやら、油断していたみてえだなあ、イリウスさんよ」
 エアドリックが身を乗り出して俯いている男に言う。イリウスと呼ばれた男は何も語らない。却って、恥辱に堪えるかのように身をすぼめている。エアドリックはゆっくりとイリウスの前に歩み寄り、身を屈めて借れと視線の高さを合わせる。
「俺たちの目的は、あんたなんかの命なんかじゃあねえ。あんたが持つ領地と、あんたの家来をそっくりそのまま俺に譲ってもらうことだ。どうだ。」
「そ、そんなことでいいのか。」
 イリウスは安堵したかのように顔を上げてエアドリックを見上げる。エアドリックの端正な容貌に映える薄い唇の端がにっとつり上がる。
「よ、よし・・・わかった。貴公の言うとおりにしよう。」
「賢明な判断だな。」
「わ、私もどうか、貴公の配下としてここにとどめ置いてはくれぬだろうか」
 イリウスの咄嗟の言葉に、エアドリックは刹那、彼の寝起きらしい血走った眼をじっと見ると、突然笑いだした。
「それは、出来ねえ相談だな」
 愕然とするイリウスをよそに、エアドリックはイリウスの肩をぽんと叩くと、哄笑しながら城主の椅子に戻る。
「あんたはこのイシュメリアから追放することにする。あんたがいちゃあ、あんたの家来たちは俺についてこねえだろう。」
「ば、ばかな・・・。私は火山侯コーラル家を三日で滅ぼした程の才を持っているのだぞ。貴公の配下とすれば、必ず役に・・・」
 イリウスの狼狽の言葉に、エアドリックは笑みを消さずに遮った。
「あんたの時代は終わったんだ。俺が国王を倒してこの世を治める。ロイヤルブラッドは、俺の手で取り戻してみせる。安心してここを去れ。」
 もはやイリウスの嘆願はエアドリックの耳には届かなかった。そして、エアドリックが手で合図を送ると、イリウスは泣き叫びながらアンソニーやホップスに引きずられるようにして無理矢理城を追われた。
 こうして、イシュメリア南方に一大勢力を築き上げていた、名門フェリアス家は、たった一夜にして滅び去ってしまった。盗賊の一青年によって・・・。
「これより、フェリアス家によって治められてきた領地全てを、テュードリア家の統治下に置くことにする。そして、このエアドリックが当主となることを宣言するっ!」
 エアドリックの高らかな言葉に、男たちは短剣を大きく掲げて鬨の声を挙げた。
 夜明け前のドルスティーニ城に、勝利の雄叫びが、永遠と流れていった。