序曲 仙郷の四賢、桜雨の塔に清談を催すの事
千年の伝承、ここに開演す 天空八勇士のこと

 はるか遠く連なる山の稜線を埋めつくす桜の木。人はこの地を仙郷と呼んでいる。
 東の空に昇る青い月と、春の風に運ばれ、絶えることのない薄桃色の雨。とても静かで、幻想的な雰囲気を漂わせ、俗世間とは遠くかけ離れた、本当の聖地のよう。
 長い歴史を感じさせる神木の高塔に、四人の賢者が集い、月見酒などとしゃれ込んでいる。
「今宵もまた、美しい月夜じゃのう」
 白髪長髯の賢者が天を仰いで感嘆する。
「ほれ、杯に・・・」
 禿髪白眉の賢者が杯に舞い降りた花びらを見せるように前に差し出す。
「いつ見ても変わらぬ、大自然の営みよ」
 腰まで伸びた銀髪の女老賢者がしんみりと呟く。
「まさに、善も悪もここでは無意味なものよの」
 弦楽器を提げた賢者が、そう呟いて弦を弾く。
 山の食材を拵えた、質素な料理が並ぶ丸い皿を中心に、四人の賢者たちは対に座している。降り注ぐ桜の雨。青い月に照らされた、穏やかで時の流れさえも感じさせないような宴席。
 そこへ、二人の人影が近づいてきた。十にも満たない、少年と少女である。
「おお・・・そなたたちも参ったか」
 白髪の賢者が声を上げる。
「幼き身で長の旅、さぞ疲れたことであろう。よう来られた」
 白眉の賢者が少年と少女を導く。双子なのだろうか。兄妹と思われる幼い二人は、賢者たちに導かれてささやかな酒宴の輪に加わる。
「父君、母君は見つかったかの」
 女老賢者の問いかけに、双子の兄妹は力無く首を横にふる。
「さもありなきこと。しかし、焦らずとも嘆くことはない。急いても天は難を解かず、時に任せれば、必ずや道は開かれように」
 弦を弾きながら、賢者は微笑む。そして、白髪の賢者が少年に目を配った瞬間、驚いたように目を見開いた。
「そなたが身につけておるそれは・・・・・・むう――――そなたが・・・やはりそうであったか・・・」
「千年の時を越えて蘇りし伝承・・・この眼で見ることが出来ようとは・・・思わなんだ」
 白眉の賢者の声が震えている。
「天孫、舞い下りて闇を救う――――。古の勇者の再来じゃ――――」
 女老賢者が感涙に震える声で桜花の雨を顔に浴びる。
「そなたたちも聞かぬか・・・・・・千年の時を越えて伝わる伝説を・・・・・・。かつて天空に煌然と輝いていた宿命の星と・・・それを加護した、勇敢なる七星の伝承を・・・」
 白髪の賢者の言葉に、兄妹は当たり前のように頷いた。
 そして、賢者が弦の音に合わせて、ゆっくりと清談の幕開けを告げる。

悠久の古に傳わりし宿星ありき
天孫 山野に降りて樵夫と邂す
禁忌の契り 天意大いに忿(いか)り
霆鎚(ていつい)を揮いて 夫を伐つ
竜主、愍(あわ)れまし 比翼の絆
宿星 宇宙に孕み
幽邃(ゆうすい)の森に光の王子 生誕す
悲愴の闇を 救いし茫光を
加護する七星 解き放ち
静かなるも猛き環星 北辺の高原に
遒(つよ)き倖運秘めし環星 東海の小村に
西海に煌々たるや一際の 赤き輝き
衛りしは神智の青光 老師の黄光
南天に 淡き双星ありて流転の刻を待つ
嗚呼 これぞ宿星に集いし八勇士
大いなる照星となりて 魔を討たんや・・・