京都御所

 

正樹:全く、何がなんだかさっぱりわからないぜ……

菜織:気のせいよ、気のせい。アンタにしちゃあ、いい挨拶だったわよ、ウンウン。

正樹:うーん……何か騙されているような気がする……。

夜空:可愛い女の子大好きの天子、正親町天皇から『ときめきメモリアル』勢力の征伐を命じられ、官位を拝領されたWith You〜みつめていたい〜勢力の伊藤正樹、氷川菜織、伊藤乃絵美の三人は天皇ならびに関白ら殿上人の八尺を言祝ぎ奉り、退出。――――しかし、暖かき春風は一つの所にのみには吹かず、人の心、目に届かざるばいかんともしがたきものでございます。

女の子の声:ほーら舞っ! 祐一さんのためなんでしょー?

舞:…………帰りたい。

女の子の声:でも、このまま帰っちゃったら、舞も佐祐理も、きっと祐一さんに嫌われちゃうよー。

舞:…………それもいや。

佐祐理:ねーっ、だからー。

正樹:??? おい菜織、何だアレ?

菜織:さぁ? それにしてもあの語尾を長く伸ばして喋っている娘、随分楽しそうね。

乃絵美:姉妹なのかな? ここにいるって事は、あの人達も天子様に呼ばれて来たとか。

正樹:うーん……何かよくわからんが、あの後ろでポニーに結っている青髪の娘は苦手なタイプって感じ。

菜織:ん? どうして?

正樹:何となく、話しかけても表情変えないって言うのかな。打っても響かないって感じで、俺はちょっとね。

菜織:ふーん・・・。でも、めちゃくちゃアンタのタイプって感じがするけど?

正樹:菜織……頼むからトゲ付きの吹き出しで俺をちくちく刺すな! 目線だけで勘弁してくれ。

乃絵美:ねえお兄ちゃん。早く戻って手だてを考えないとまずいと思うよ?

正樹:そーだ、そうだよ菜織、乃絵美。こんな悠長なことしている暇はない。

菜織:アンタが一番悠長にしているんだってば。

佐祐理:あ、こんにちはー。

舞:…………。

菜織:こんにちは。

乃絵美:こんにちは。

佐祐理:皆さんも天子様にご挨拶ですかー?

正樹:まぁね、今終わったところだけど。

 その一見、清楚で柔和な女性の瞳に、火花のような炎が見えた気がした。

佐祐理:私たちもこれから天子様に会いに行くところなんです。ねー、舞?

舞:……(こくん)

正樹:は、はぁ……。

佐祐理:それじゃー、失礼しますー。

舞:……(ぺこり)

 唖然とする正樹たちをおいて、彼女たちは天皇の間の方へと歩み去っていった。

 

数時間後

 

佐祐理:あははーっ。これで胸を張って祐一さんに会えるね、舞?

舞:……緊張した。……それに、何か不愉快。

佐祐理:いい人だったじゃない、天皇も関白も。

舞:でも、佐祐理のこと、誘っていた。

佐祐理:んーっ……でも、佐祐理悪い気はしないけどなー。

舞:祐一がいないと、だめ。

佐祐理:そう言うと思った。実は佐祐理も祐一さんがいないとだめなんだー。

舞:官位。

佐祐理:え?

舞:……祐一に、官位。……私たちにも。

佐祐理:あ、そう言えば、私たちって使者として来てたんだー。

舞:それで……

佐祐理:えーっと、んー……と。私はー……えーっと、“従四位上 式部大輔(じゅしいのじょう しきぶたいふ)”っていったかな? 舞は?

舞:“正四位下(しょうしいのげ) 左近衛権(さこのえごんの)中将(ちゅうじょう)

佐祐理:祐一さんは?

舞:“正四位下 右兵衛(うひょうえの)(かみ)

佐祐理:そうそう、そんな感じ。よくわからないけど、偉くなったんだよねー? 祐一さん。

舞:でも……。

佐祐理:なに? 舞?

舞:さっきすれ違った連中……

佐祐理:え? ああ、あの人たちがどうしたの?

舞:きっと……私たちの障害になる……。

佐祐理:えー? あははーっ、舞らしいね、その突拍子もない発想。

舞:……笑い事じゃない。

佐祐理:はいはい。気を付けます。……とりあえず、祐一さんのところへ戻りましょ、舞?

舞:…………。

夜空:ふむふむ、川澄舞、権左中将……倉田佐祐理、式部大輔っっっと(._.) φ

斎栞:夜空さーん? 聞こえてますかー?

夜空:ははははは、やっぱ佐祐理さんだべなー、んだんだ。

斎栞:おーーーーいっっ!!

夜空:ぴでぶぎゃぁゅ! わわっ! 何だべ!?

斎栞:さっきから呼んでるんですけど、夜空さん。

夜空:お? おお、これはすまない斎栞ちゃん。どーでもいいが、耳元で叫ぶのだけは……(汗)

斎栞:何でフルネームなの??

夜空:聞かずもがな、角界(美少女ゲーム界)では『しおり』という名前は、『佐藤』、『鈴木』なみにありふれており申す。ちなみに、『あおい』という名前も良くありますな。

斎栞:ふーん……何か口惜しい。

夜空:ま、それはいいとして、どうしたの?

斎栞:そうそう、あの“佐祐理”って娘と“舞”って娘の話、よく判らないの。

夜空:ああ、叙位叙任、要するに位をもらったことだろう? うん、あまり重要そうじゃなくて、以外と重要かも知れない。

斎栞:??

夜空:今回の大戦では、官位の上下によって動員できる兵力(生徒)が変わってくるのだ。

斎栞:つまり、高い官位ほど、たくさんの生徒を引き連れるってこと?

夜空:早い話そうだな。

 じゃあ、重要じゃん

斎栞:じゃあ、藤崎詩織さんの官位は?

夜空:おお、答えるのも恐ろしい……うう。

斎栞:あっ! ちょっと夜空さんっ!?

4月12日 Stエルシア学園

 

菜織:校長もやる気みたいだし、頑張らないとね、正樹。

正樹:やっぱりマジで……?

真奈美:後には引けないと思うよ、正樹君……。

 いつものように穏やかな口調の真奈美だったが、目が怖い。消極的なことを言うものだったら……。

冴子:とにかくだ。相手が相手だけに、あたいたちもうかうかとしてはいられねえって。

美亜子:かと言ってねー、うち(エルシア)の軟弱学生じゃ、きらめき高の連中に勝てるわけないってのは目に見えてるしん?

冴子:こらっ! そう思うんだったらてめーもちいとは考えろ!

美亜子:んーと……あ、いいこと思いついたのねん! これならちょっぱやで敵に勝てる究極の荒技!

正樹:ミャーコちゃん、それって……

美亜子:それはね……?

菜織&真奈美:それは……?

美亜子:ときメモ軍に降伏をすることなのだ!

ぼかっ!

冴子:ゆーと思ったぞミャーコ!

美亜子:いたーい! 何で殴んのよぉ! だってその方が何もしないでもいいじゃん!

冴子:戦ってもいねーのに、何で速攻降伏しねーといけねーんだバカッ!

正樹:さすがに戦わないで負けを認めるのは……。

菜織:そうよ正樹。戦いって相手が強ければ強いほど燃えてくるわよね! 今まではずっとアンタを応援する立場だったけど、今度は私も先頭に立って戦えるのね! う〜ん、俄然やる気が出てきたわ!

正樹:いや……だからな?

真奈美:大丈夫だよ正樹君。藤崎さんなんてもうご隠居様のような存在なんだし、ひとひねりだよ。だから、がんばろ?

 すでに正樹の言葉など聞く余地がない。

 

夜空:4月13日、かくして検非違使別当伊藤正樹、中務卿氷川菜織、大膳大夫伊藤乃絵美、鳴瀬真奈美らWith You〜みつめていたい〜の主な面々は、全生徒を体育館に召集。エルシア学園が一致団結し、きらめき高の総領・藤崎詩織追討という正親町天皇の勅命を知らしめ申した。皆、挙党一致で賛同。ここに君主を伊藤正樹、ヒロインに鳴瀬真奈美、氷川菜織、軍師に天都みちるを迎えたエルシア軍は挙兵の狼煙を上げたのでござる。

 

4月16日

 

乃絵美:お兄ちゃん、お客さんだよ。

正樹:乃絵美、店じゃないんだから使者をお客さん呼ばわりするな。緊張感に欠ける。

乃絵美:えっとね……、すみそら学園のみかみともやって知ってるか――――とか。

正樹:すみそらがくえんのみかみともや?

乃絵美:うん――――。

正樹:すみそらがくえん――――みかみ――――ともや。うーん・・・まずは使者に会ってみるか。

 

つづく