正樹が応接室に入ると、見慣れぬ制服を着た少女が軽く頭を下げていた。
今坂唯笑(正四位下式部卿・Memories Offメインヒロイン):初めまして、伊藤正樹さん。澄空高の今坂唯笑です。
桧月彩花(従三位権中納言・Memories Offヒロイン):桧月彩花です。こんにちは。
正樹:…………。
乃絵美:どうしたの、お兄ちゃん?
正樹:あっ、いやいやっ、あっ、あはは。これはこれはようこそいらっしゃいませ(?)
乃絵美:ちょっとお兄ちゃん、大丈夫? 顔真っ赤だよ?
正樹:な、何を言うんだ乃絵美。そんなことはないぞ?
乃絵美:えっと、今坂さんに、桧月さん? コーヒーがいいですか? それとも紅茶ですか?
女の子の声:紅茶をお願いします。
正樹の背後から凛とした声がし、振り返ると、銀色の長い髪をそよがせた少女がじっと正樹たちを見ていた。
唯笑:あっ、双海さん。遅かったね。
双海詩音(正五位上中務大輔・Memories Offヒロイン):ごきげんよう、皆さん。
正樹:!!
乃絵美:いらっしゃいませ。
てゆーか、のえのえよ、なぜにノリがロムレッッッと?
正樹:……じゃ、君らの用を聞こうじゃないか。
唯笑:は、はい……でも……ね?
彩花:もう唯笑ったら、いつも肝心なことはっきり言えないんだから!
唯笑:でもぉ……彩ちゃん……。
彩花:んー……本当なら、私が言ってもいいんだけど、ここはずばっと双海さんにお願いしましょう。
正樹:……(? なんだなんだ、愛の告白でもするのか?)
そんなわけねーだろ。
詩音:えーっと……。
唯笑&彩花:…………。
詩音:伊藤……さん?
正樹:……ごくっ。
詩音:あの……。
正樹:な、なんだい?
と、双海詩音はちらちらと唯笑や彩花の方へ視線を向ける。二人は促すように目で頷く。やがて意を決したように、凛とした瞳をまっすぐに正樹に向けた。
詩音:伊藤正樹さん!
正樹:は、はいっ!
詩音:あなたじゃなくて、鳴瀬さんと氷川さんをお願いします!
正樹:……………へ?
詩音:ですから、あなたじゃ話にならないと思いますから、ヒロインであられる鳴瀬真奈美さんと氷川菜織さんを呼んでくれるようお願いします。
るーるーるー
と、七人の刑事のハミングよろしく思わせぶりに引っ張っておいて、正樹邪魔! と言うことでした。
傷心の正樹と立ち替わりに、真奈美と菜織が今坂唯笑、桧月彩花、双海詩音の三人を引見。
菜織:あたしが氷川菜織よ。
真奈美:鳴瀬 真奈美です。よろしくね。
つづいて唯笑ら三人の自己紹介。
菜織:それじゃ単刀直入に訊くけど、あんたたちの主人公、三上左兵衛督智也君は、あたしたちに何をしろって言うわけ?
彩花:三日前に私たちの所へ伝奏の日野輝資卿が見えて、天子様のご内旨を伝えたの。
真奈美:ときめきメモリアルの藤崎詩織追討……。
唯笑:ぴんぽーん!
詩音:…………。
彩花:それでね、智也は快くきらめき高の征討をご奉答して、まずこの世界に高名を馳せたWith You~みつめていたい~との共同戦線を張ってから、力を合わせて賊を討つってことらしいの。
真奈美:要するに、私たちと同盟したいって事なんだ。
唯笑:ぴんぽーん!
詩音:…………。
菜織:それはよく判ったわ。でも、どうして正樹を退出させたのよ。うちの主人公はまがいなりにもアイツなんだから。私たちはあいつの意向に従うつもりよ?
詩音:本気でそう思っているのですか?
不意に詩音が口を開き、菜織たちを見る。怪訝な眼差しを送る三人。
乃絵美:あの……どう言うことですか?
詩音:これは……この戦いは私たちの三上君や、あなたたちの伊藤さんのような『主人公の威厳』を賭けている訳じゃない。……私たちヒロインたちの雌雄を決する戦いなんです。
真奈美&菜織:…………。
詩音:それに……今のような外交の場に主人公がいれば、目移りしちゃうかも知れないじゃないですか。
菜織:め、目移りっって! ちょっと双海さんだっけ? それって正樹があんたたちに心奪われるかも知れないってこと!?
唯笑:満更でもないかも。
菜織:ふんっ! 見くびっちゃ困るわね。正樹がよりによってあんたたちなんかに目移りするはずないでしょ! バッカじゃないの!?
彩花:むっ……何ですって……!
唯笑:バカって……それって唯笑のこと?
菜織:そうよ。大体ね、自称を名前で言うような娘はバカなのよ! 正樹がそんな娘に目移りなんてするはずないでしょ!
唯笑:ふぇ……
菜織の剣幕に思わず涙ぐむ唯笑。
彩花:唯笑……。ちょっと氷川さんっ! あなた、私たちに喧嘩を売っているの?
菜織:あら、喧嘩を売っているのはどっちかしら?
真奈美:ちょっと二人ともやめて。ここは“外交”の席なのよ? 私たちは冷静に話し合う義務があるの。だから……
菜織:ふんっ……!
彩花:…………。
真奈美:もしも同盟を望むというのならば正樹君はきっと異存はないと思います。
詩音:受けてくれるのですか。
真奈美:もちろんです。私たちも先日、天子様から同じ内旨を承り、これから戦略を練るところだったんです。Memories Offさんからの申し出は、渡りに船ですよ。
詩音:ありがとうございます。きっと、三上君も喜んでくれるでしょう。
夜空:かくして、With You~みつめていたい~と、Memories Offの両勢力は不戦同盟を締結。双海中務大輔詩音殿は、渋り顔のヒロイン・権中納言桧月彩花殿、式部卿今坂唯笑殿をなだめつつ、帰路につき申した。
彩花:双海さん、あなた本気であの人たちと手を取り合うつもり?
詩音:どうしてですか?
彩花:主人公の伊藤正樹って人は、私たちの思う通りに操れる気がするけど、あの氷川って人。どうも好きになれないのよ。上手くやって行ける自信がないわ。
すると、詩音はわずかに小振りな唇の端を歪ませ、僅かに嗤った。ポーカーフェイスの彼女にしては珍しい。
詩音:彩花さん。せっかくこちらに戻ってきたのに、気づきませんか?
彩花:えっ……?
詩音:利用するんです……彼らのこと……うふふふっ。
彩花:…………。
詩音:これからもっと、いろんなことがありますよ。ふふふふっ……。
吸い込まれそうなほどその美しい笑顔に、彩花や唯笑は背筋に悪寒が奔った気がした。
夜空:同じ頃、こうした女同士の駆け引きが波乱の体を様しているのを別に、一般戦国大名たちの国盗り合戦は熾烈の種が芽生えつつあり申した。
尾張国・清洲城
織田信長(上総介・尾張清洲城主):サルッ! 伊勢侵攻も近いのう。
木下藤吉郎(足軽組頭・信長近従):左様ですなぁ。それもこれもお屋形様のご威光のなせる技でごぜえますなぁ。
信長:うめえこと言いおる。
信長家臣:お屋形様ぁ、お客人がお見えになっておりますが。
信長:北畠の使いか。
信長家臣:いいえ、何か小さな女性なんですけど……。
信長:にょ・・・女性だと?
藤吉郎:会ってみますかい?
信長:…………。
渋る織田信長公であったが、木下藤吉郎の強い勧めで、その客人を引見した。
春歌(シスタープリンセス第10子・権中納言勧修寺光豊妹):信長様におかれましてはご機嫌麗しく、勧修寺春歌、父晴豊になりかわりましてあつく賀し奉ります。
信長:勧修寺? て言うと、武家伝奏の勧修寺晴豊の娘なのか?
春歌:いえいえ。光豊兄君さまの妹と言う設定ですわ。
信長:せ、設定??
春歌:うふふっ。殿方は細かいことはお気になさらないものですわ。
信長:は、はぁ……。
さすがの信長も、この不可思議な雰囲気にたじろぐしかない。そこへ藤吉郎が。
藤吉郎:お屋形様、てえへんですだ。その女性について驚くべき事実が!
春歌:…………(じろっ)
信長:驚くべき事実?? サル、何だそれは?
藤吉郎:それがでやんすね……。
万葉:え? なになに? どうしたの??
夜空:うーん……
斎栞:夜空さん、また考え事してる。
夜空:うーん……やっぱ全然可愛くねーよなァ……N○K-B○デジ○ルのイメージキャラクタ。
万葉:ちょっと夜空さん、いきなりピーなこと叫ばないで。
夜空:お? おおっ、どうした『まよちん』に『しおりん』
万葉:カメラが切り替わってます。
夜空:え? あっ、あははっ。そうそう、えーっと。んー・・・
万葉:(春歌の驚くべき事実について)
夜空:むぅ! そうなんだ。春歌の驚くべき事実とは、いったいなんぞや!?
万葉:え? なになに? どうしたの??
斎栞:二人とも、つまんなーい。
夜空&万葉:あいたたた……。
夜空:と、くだらないコントはここまでにして、春歌の活躍するシスタープリンセスは、ギャルゲー界屈指の情報誌・『電撃ジーズマガジン』に連載されている企画もので、その名の通り、妹属性の諸卿を対象にした、12人(当初は9人)の激ラブリー激プリちーな「いもほと」たちが世の兄様どもの理性を粉砕させるほどのブラコンぶりを発揮させているお壊れ企画で、春歌は、その第10番目に位置する妹なのだ。
斎栞:空前の妹ブームですからねえ。
夜空:それでね、この企画・・・いや、ギャルゲ界ではメーカー・ユーザーを絡めてお約束の、人気ランキングなるものが行われているのですが、春歌はね……。
万葉:ちなみに、1位は誰なんですか?
夜空:それはわしの口からは言えんのう。あっ、ちなみに勧修寺光豊という公卿の妹という設定はオリジナルゆえにご了承あれ。一応ね。
信長:何と哀れな……うっ、うっ。こないめんこいのにのう……。
藤吉郎:てゆか、お屋形様はどこの人でやんすか?
信長:うるさいっ!
信長は藤吉郎が持ってきた一冊の雑誌(目の前の春歌が表紙を飾っているやつ)を手にしながら泣いていた。
藤吉郎:あの、どうでも良いんですが、もう二方忘れております。
信長:ん?
藤吉郎:ご挨拶を。
藤吉郎が促すと、春歌の後ろに並んでいた少女が挨拶をする。
咲耶(シスタープリンセス第4子・権大納言山科言継妹):山科言継お兄様の妹という設定の、山科咲耶ですっ。
千影(シスタープリンセス第9子・陰陽頭土御門泰光妹):土御門千影……織田様の八尺……お祈りします……。
信長:して……シスプリの面々がこの信長にいったい何の用なのだ。
信長の野望シリーズの本来の主人公であるはずの織田信長もすっかり脇役の昨今、シスタープリンセスの面々が敢えて脇役勢力の織田家に接触した理由はいかに?
今宵も、おなじみの顔でござった。
つづく