行 雲 流 水

大学院受験記(2003年)

 数年前、勉強しなおしたく大学か大学院を受験しようと考えた。
しかし、その時は子供が大学進学時期でもあり、興味半分だったのでそのまま流れてしまった。
このたび会社を退職するに当たり、残りの人生のために勉強しなおそうと考え、大学院受験を思い立った。
学校で勉強することと、生計を立てることを直接結びつけることはしなかったが、選択した学部は経営である。
一昔前MBA(経営学修士)の言葉がはやった。アメリカの経営者の多くはMBAを取得していて、将来経営者を
目指すならMBA取得は必須とまでもてはやされた。日本でもMBAブームがあったようで、企業派遣の形で
優秀な社員をアメリカ留学させる企業もあった。滞在費を含めた派遣費用は1000万円以上といわれた。
特にアメリカでMBAを取得することがステイタスになっていたようだ。
日本の大学院でもこのような社会のニーズを反映して、社会人を対象としたビジネススクールを開設するところが
沢山でてきた。(この他にロース・クールは法学大学院やメディカル・スクールなどがある。)
従来のアカデミックな経営学から離れ、ビジネスマンを対象にしたカリキュラムと勤務しながら学べ
る授業時間帯の配慮がなされている。ケーススタディー中心、夜間および土曜終日の授業で終了できる。
入学資格の前提条件として、大学卒業後2年以上就労した経験を有すること。
 MBAを取得していると経営がうまくできるような誤解を与えている。
学位があればビジネスに成功できるなら、音大出の人はみんなヒット曲を飛ばすことができてしまう。
ジャズ音楽は、音楽知識や楽器を演奏する能力が高いから生まれたのではない。
必ずしも有名なミュージシャンが音楽学校で優秀だったではないだろう。音楽理論や楽器を上図に弾くことは、
音楽をより楽しく、すばらしいものにするのに有効だから伸びてきたのである。
私の知り合いにこんなことを云った人がいる、「私の友達芸大出身ですごいのよ」。
こんなのちっともすごくない。芸大出身だったら大衆をひきつける音楽ができるのか。氷川きよしの方が立派だ。
特殊法人(=役人を天下り)で黒字の事業は少ない。頭が良くても儲ける事業は別なスキルが必要なのだ。
 私が云いたいのは知識とセンスは別物だと云うこと。MBAを取得しているからすごくはない。確かに勉強は
沢山してきただろうが、だからといってベンチャービジネスで成功するかは別もんだ。
映画「海の若大将」のなかで、若大将の父親が「商科を出たからといっても、商売とは別ですから」のセリフが
ある。その通りである。
しかし、知識がある、技術があることはジャマではない。無いよりよい。
"賢者は歴史に学び、愚者は体験に学ぶ"という。この場合、歴史とは知識のことである。
自己の体験など小さい範囲でしかない。自分が体験できないと事は、学ぶしかない。
それを怠れば道を外すリスクが高くなる。

 さて学校選び。10月13日に候補に上げた学校を見学した。
すでに上司には退職願いを伝えてある。
有休をとって出かけた。候補は明治大学大学院とT大学大学院である。
 明治大学は、ビジネススクールまで徹底した教育内容ではない。
どちらかというと学究肌のようだ。
御茶ノ水駅から徒歩で3分と非常に交通の便が良い。
明治大学大学院の窓の景色は結構いい。アーバンシティーの
キャンパス、地方の学生はあこがれるだろうな。
写真を見てください。
 T大学はビジネスに力を入れている学校で、著名な経済学者を学長に
しているし、ビジネススクールにも力を入れており、卒業生のネット
ワーク作りも精力的である。
T大学は東京郊外の武蔵野丘陵にキャンパスがあり、夜間の授業は
東京・目黒のサテライト・キャンパスで実施される。

















明治大学で前年のパンフレットを頂き、また過去問を購入し、
T大学へ向かう。
御茶ノ水駅から新宿駅へ、京王線、それからバスでT大学前。
結構遠いな!環境はいいな。丘の上にあるので景色もgood。
キャンパスは小さい。
付属の中・高学校があり、茶髪の高校生アベックがいたの
はまいった。子供と一緒は勘弁して欲しい。
大学院事務所の方の説明は非常に親切であった。
是非受験して欲しいと熱心に進めてくれた。
パンフレットと出願書は無料で配布していました。
帰りは小田急線にでた。これもバスを利用するが結構時間
がかかる。
自宅まで約2時間弱、土曜日朝の授業は遅刻しちゃいそう。

2校を比較すると
    項    目     明治大学大学院    T大学大学院  
   専攻    経営学    経営情報学  
   所在地    御茶ノ水    武蔵丘陵、目黒  
   授業    夜間、土曜日    夜間、土曜日  
   片道通学時間    約50分    約2時間  
   2年間の費用    約140万円    約230万円  
   試験    専門科目、面接諮問    書類選考、面接  


 最終的に明治大学大学院を受験することにした。
選考理由は、知名度(妻の一押し)と費用である。
それともうひとつ!御茶ノ水の楽器街が目の前である。
学校までの通りにはギターショップがいっぱいある。

後日(大晦日に)大学のHPを閲覧している時に、
経営学研究科の教授のホームページにたどり着いた。
とても興味深い内容だったので、受験の相談をしたところ
大晦日にも関わらず相談に乗ってくれる親切な先生であった。



 さて受験勉強である。在社中は手が付かない。
準備を進めておくことにした。
以前勉強した資料の洗い直し程度だけしかできなかった。
正直、受験はしたくない。第三者に能力を試験されることが怖い。できるならT大学にしたい。
しかし、みんな同じ思いであろう。自分ひとりだけではない。すでに明治大学大学院にいる先輩達も受験して
入学しているのである。逃げてどうする。


 退職してから本格的な勉強を始めた。
朝、スポーツジムへ通い、午後図書館で勉強することにした。
まずは最近の国内、国際の経済ニュースおよび経済用語を
つまみ食い。それから経済学入門に目を通すことにした。
つまみ食い、目を通す。これはいけなかった。ジムの疲れと、
図書館の暖かさでちょうどいいお昼寝タイムになってしまった。
結局、あまり進展はしなかった。
それより暖かい図書館は、沢山の失業者の暇つぶしに
使われていた。60%は寝ている。
それと臭い人も2、3人はいた。
写真の参考書は、すでに古本屋へ売って酒代に。

 正月明けから少し方針変更。
想定質問とその回答を作成することにした。図書館はやめた。
作成した予想問題は、
経済一般の項目
★セーフティーネットとモラルハザード★雇用のミスマッチ★ペイオフ
★預金保険機構/預金保険機構債★バブル崩壊/不動産融資総量規制/公定歩合6%、
★不良債権処理/貸し渋り/自己資本比率★国債の発行の影響/赤字国債/建設国債★産業再生機構
★ファンダメンタルズ★需給ギャップ★資産デフレ★ゼロ金利政策/量的緩和★インフレターゲット/調整インフレ
★消費税/目的税★少子高齢化/年金★介護保険★外形標準課税★ワークシェアリング★コメの関税化
★裁量労働制★国民負担率★ユビキタス★医療改革制度★リサイクル法★地球温暖化★排出量取引
★グリーン税★財政投融資★地方分権★男女雇用機会均等法★クラウディングアウト★日銀短観
★円の国際化★WTO/GATT★自由貿易協定★最恵国待遇★農産物輸入自由化★デフォルト★サムライ債
★オプション/スワップ★エクイティファイナンス★その他
経済学の項目
★三面等価の原則★デフレ/インフレ★流動性の罠★移転価格税制★貨幣の機能★内外価格差
★一般均衡理論★ケインズ政策★マーケットメカニズム★市場の失敗★パレート最適★貨幣数量説
★景気循環/循環的成長★過剰貯蓄論★加速度原理★投資乗数/乗数効果★フィリップ曲線/自然失業率
★完全/不完全競争★購買力平価説★アセットアプローチ★アブソープション分析
★国際収支/経常収支/資本収支★レーガノミックス★ヴェッセル効果★限界効用均等理論★合理的期待理論
★社会主義市場経済★有効需要★雇用理論★範囲の経済★代替効果/所得効果★恒常所得仮説
★資産効果★収穫逓減/逓増の法則★X理論/Y理論★合成の誤謬★比較優位論★ライフルサイクル仮説
★為替政策下の財政政策と金融政策★その他
資料は14ページになった。これを書き取ることにした。
 重大なことが判明した。漢字が書けないのである。ワープロばかり使っていたので、読めても書けなく
なっていた。漢字の書き取りから出発。しかし、写経でもあるまいし。自分で書いた解答なのに、書けな
いのである。参考書からの転記もあるが、記憶力は落ちたものだ。

 受験提出書類の中に、業務での成果(提出できるもの)の指示がある。社会人であるからには何らかの成果
があるとの前提である。自慢ではないが私は結構成果がある。取得済み特許や出願済みの資料を提出すること
にした。それにテレビジョン学会等で表彰された事例もある。
その他、在職期間証明書や大学の卒業証明と成績証明を添付、更に大学院で何を研究するのかを簡単に記述
したペーパー、受験費払込書など結構色々ある。
   ・・・・・・みずほ銀行で払込んだら、合格祈願の鉛筆をくれた。  

 2月20日、試験当日。8時30分に試験の教室に入る。すでに20人程度の受験者が着席していた。
黒板に座席表と受験科目が貼り出されている。社会人受験は38名、現役受験2名の合計40名。
経済学を選択した者は、自分を入れて2名しかいない。何でだろう?
時間が来た。初めに解答用紙が配られたB3用紙2枚、専攻と受験番号を記入する欄があるだけ。
次に出題用紙が配られた。時間は1時間、10時には全て終わる。
問題を見る。アチャー!マイッタ!頭の中が白くなる!予想していた問題が外れた。
出題問題
問T 次の3問から1問を選択し、論述しなさい。
 (1) 環境汚染問題の解決を市場メカニズムに委ねる場合と規制に委ねる場合を比較し、長短を論述・・・
 (2) 完全競争均衡と寡占的競争について、社会的余剰の観点から比較し・・・・・
 (3) 為替レートの決定要因について・・・・・
問U 次の4問から2問を選択し。解説しなさい。
 (1) 経済モデルにおける外性変数と内性変数の役割と意味・・・・・
 (2) 労働市場におけるオークンの法則について
 (3) 情報の非対称性とインセンティブおよびモラル・ハザードについて
 (4) 企業価値に関するモディリアーニ・ミラー理論について
 どれを選ぶか。問Tは(3)、問Uは(1)(3)これにしよう。
為替の設問は何とかなりそうだ。購買力平価、アブソープション、アセット分析を書くことにする。
経済モデル????国民総生産 Y=C(Y)+I(r.Y)+G(t)+X(π) これで関数を使う。正しいか?
情報の非対称・・・・インサイダー取引かな?
 周りから筆記の音が沢山聞こえる。皆必死だ。こっちは9時45分で終わってしまった。なんだか不安だ。
再度見直して、誤字の修正を発見。5分前、もうやることはない。終了まで待つ。
10時。全て終わった。たった1時間で終了した。充実感はない。終了後は不安だけが残った。
筆記の合否判定は午後二時である。それまで神田の古本屋街を歩き回った。
約3時間半、実に憂鬱な時間である。こんな気分は滅多に味わえない。
 午後2時、発表である。エレベータで発表のフロアに上がる。
ドアが開くと目の前に立て看板がある。合格者の受験番号が書かれたB3用紙が二枚貼り出されている。
合格者はこれだけ?・・・・自分の番号がない!次の瞬間「あった!」・・・・よかった。
手前の人の腕の影に隠れて見えなかった。右側の下から2列目に!
立て看板の後ろに控えた合格者受付に受験票を提示、面接諮問のための控え
室で待つよう指示された。控え室に入ると若い人も多い。年長者は数名、自分が最年長かな。
面接は研究テーマや今までの経験に関して約20分間、特別難しい質問はなかった。
一応、面接が終了して「これで合格したかな」とほのかな期待が持てた。
発表は2月25日、それまではぬか喜びはできない。

総合判定、天気のよい日であった。校舎前の掲示板に合格者が発表されていた。ほぼ全員が合格したようだ。
早速、妻に合格の報告。入学手続きの資料を受け取り帰宅。26日には全て手続き終了。

以上です。これまでご支援いただいた方々に、お礼申し上げます。